第26話 俺と戦え
入学式が終わり、午前中の授業もすべて終了した。
クロエとクラリスに半ば無理やり昼食に引っ張られ、昼飯も胃袋に納めた。
これで後は午後の実技授業だけだと思っていたが、最初、俺が感じた嫌な予感がそこで見事に的中してしまう。
▼△▼
「おい、オニキス・アクロイド! 午後の授業、俺と戦えッ!」
実授業を技行うために訓練場へと向かおうとした俺の前に現れたリオンが、びしりと人差し指を向けてそう言った。
傍らには幼馴染のヒロイン、アリサがいる。
「戦え? なぜ俺が」
「俺はお前にどうしても勝ちたい! 最初から勝てないのは分かってるけど、それでも挑みたいんだ!」
「頼む側の態度には見えないな」
たとえこの学園が貴族、平民ともに平等であろうと、人に頼み事をする時は敬語で喋れよ。
じろりとリオンを睨むと、彼はわずかに狼狽えた。
「ッ! それは……悪かった。お願い、します……」
うわぁ。凄く嫌そうな顔してる。
俺に敬語を使うのはそんなに嫌か。
俺は別にリオンに何もしていないというのに。
むしろリオンを魔物から助けてやった恩人だ。恨まれる謂れはない。
「すみません、オニキス様。リオンが勝手なことを言って……。断ってくださって構いませんから」
「アリサ! 俺の邪魔をするなよ!」
「何が邪魔よ! オニキス様は私たちを助けてくれたのよ!? 恩を仇で返すなんて最低!」
「けど、俺は……!」
「けども何もない! 私まで恥ずかしいから止めてよッ」
「くッ!」
ぎりり、とリオンが奥歯を噛み締める。
心から信頼する大切な幼馴染にボロクソ言われていた。
ちょっとだけ俺の気分もスッキリしたし、先ほどの話は聞かなかったことにしてやろう。
——そう思っていたが、運命は許さなかった。
【クエスト発生:リオン・クラムとの戦いに勝利せよ】
「!?」
急に目の前に現れたウインドウ画面。
そこには、俺の意志とは真逆の言葉が書いてあった。
「クソッ! 誰だか知らないが悪趣味な野郎だ……」
顔も声も性別も分からないが、少なくとも性格は悪いらしい。
だが、せっかく現れたクエストだ。
フラグを立てるのは本意ではないが、これはただの授業の一環。
適当に終わらせて報酬だけもらってやろう。
殺せ、だったら拒否していたところだ。
「おい、リオン・クラム」
幼馴染のアリサと口喧嘩している主人公へ声をかけた。
リオンの視線がこちらに向く。
「いいだろう。俺がお前の相手をしてやる」
「本当かッ!?」
「オニキス様!?」
喜ぶリオンに驚くアリサ。
お互いに違う感情を浮かべていた。
「深い意味はない。お前の視線も鬱陶しいし……今回は特別にな」
少し前まで大型の魔物も倒せなかったひよっこが、俺に勝てるはずがない。
ボコすつもりでリオンの相手をする。
木剣を取りに倉庫へ向かった。
するとその途中、リオンが俺に告げる。
「待ってくれ! 一つだけあんたに頼みがある」
「頼み?」
「勝負は剣術スキルのみ使用可能だ。他のスキルはなし。もちろんあの気味の悪い剣もな」
「剣は真剣だからな。使う予定はない。しかし……」
剣術スキルオンリーの戦いか。
面白味に欠けるが、要するに魔眼を使うなってことだろ?
石化の能力を使われると手も足も出ないからな。
まあいい。最初から魔眼は使う気はなかった。
不敵に笑って、リオンの提案を承諾する。
「分かった。剣術スキルだけで相手してやる」
▼△▼
互いに木剣を手にした状態で訓練場の中央に向かう。
他の生徒たちはなぜか観戦していた。
教師までもが、俺の実力が見たいと傍観している。
それでいいのかと思うが、邪魔がないならそれでいい。
五メートルほど距離を離し、互いに剣を構えた。
「剣術スキルだけなら俺にも可能性はあるッ。必ずお前を倒して……アリサの目を覚まさせてやるんだ!」
小さく呟いたつもりだろうが、俺の聴覚はリオンの言葉を捉えた。
——なるほど。勝負の原因はアリサか。
俺がアリサを助けたせいで、アリサから好印象を抱かれているのが気に喰わないらしい。
別に恋人になったわけでもないのに、逆恨みの激しい奴だ。
けど問題はない。
お前をここで倒すことができれば、俺は将来的にリオンからの破滅エンドを避けられる可能性があるってことだ。
いずれ対峙するかもしれない相手の力量を、実際に刃を重ねて測ることにする。
「行くぞッ! オニキス・アクロイド!」
叫び、リオンが地面を蹴る。
まっすぐにこちらに迫った。
振るわれる剣筋があまりにも素直すぎる。
完全に実戦不足だった。
「あまり俺をガッカリさせるなよ、リオン」
リオンの一撃を防ぐ。
俺はこんな雑魚に怯えていたのか?
それとも物語が始まってから加速度的に強くなるのか?
原作だともう少しマシだった気がするんだがな……。
「ぐ、うおぉぉぉッ!!」
リオンは更に力を籠めて俺を圧倒しようとした。
だが、地力が違う。
俺とリオンでは腕力にも差があった。
徐々にリオンの木剣が押し戻されていく。
「ッ! お、お前……この、力は……!」
「単純にお前が弱すぎるだけだ。もっと訓練して実戦を積め。アリサとばかり剣を交えていても成長できないぞ」
言いながらリオンの剣を弾く。
力を籠めて前のめりになっていた分、リオンの体は大きく後ろへ逸れる。
そこに剣——だと骨が折れてしまうので、ローキックを喰らわせた。
「あぐッ!?」
リオンの足が崩れる。
勢いを殺すこともできずに横へ倒れた。
必死に地面を転がり、すぐさま俺へ剣を向けようとするが、そもそも俺は動いてすらいなかった。
細めた瞳でリオンを見下ろす。
「いまので一回は死んでるぞ、お前」
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