第24話 そして本編へ

「つ……疲れた……」


 魔物狩りを終えて自宅に戻って来た俺は、すぐに自室に入ってベッドに倒れる。


 服にシワがつくとかそんなんどうでもいい。


 どうでもよくなるくらいに疲労していた。


「まさかあんなに求婚されるとは……」


 それは少し前の記憶。


 森の奥から現れた大型の魔物三体をクロエとともに倒した俺は、その実力を大々的にアピールして一躍いちやく時の人となった。


 会場に来ていた観客たち——その大半の令嬢たちから求婚されたのだ。


 もう獲物を狙うライオンのごとき眼光だったね。みんな。


 なまじオニキス・アクロイドというキャラクターがイケメンなのも悪い。


 原作では才能なくてナンパばかりしていたが、いまでは才能もりもりの神の使徒。


 そりゃあモテる。反則並みにモテる。


 同時に同性たちから反感を買っているのも分かった。


 明らかに婚約者や友人、恋人と思われる男性たちから嫉妬や殺気を向けられていた。


 俺は何も言ってないし受けるとも言ってないのに勝手な連中だ。


 そんな令嬢たちを見てクロエやクラリスはブチギレるし、あわや二回目の戦闘が行われるところだった。


 令嬢VS令嬢。


 そんな戦いは見たくない。


 しかも俺のせいで起きた戦いとか恥ずかしいだろ普通に。




 そんなこんなで令嬢たちを振り払って帰ってきたが……眠気がヤバい。


 予想以上に疲労していた。


「ひとまず寝るか……もう、今日の予定は他にないしな……」


 込み上げてきた眠気に体を預ける。


 浮遊感のような、海面に沈むような感覚を覚え、徐々に俺の意識は暗闇へと消えていった。


 完全に落ちる。




 ▼△▼




 コンコン。


 控えめなノックの音を聴覚が捉える。


 次いで、


「オニキス? いるのか?」


 父の声が聞こえてきた。


 意識が引っ張られるように覚醒していく——。


「ん……んんっ」


 目を覚ました。


 見慣れた天井が視界に映る。


 ぼやける視界のまま上体を起こすと、そのタイミングで部屋の扉が開かれた。


 入ってきたのは黒い服を着た父。


「おお! やはり先に帰っていたのだな、オニキス。眠っているところを起こしてすまない」


「父上……いえ、別に構いませんよ。何か用ですか?」


 目を擦りながら父に問う。


 父は満面の笑みを浮かべていた。


「ははは。用……といえば用があるのかな? わざわざお前を起こしてまで言うことではないが、今日の魔物狩りの件だ」


「魔物狩りの?」


「お前の結果のことだよ。私は父親として誇らしい。まさか大型の魔物を四体も狩るとはな。皆がお前を英雄だと称賛していたぞ」


「ああ、その件ですか……」


 それなら散々聞きましたよ父上。


 会場で俺が数多の令嬢たちに囲まれている姿を見なかったのかな?


 そのせいで余計に疲れて眠っていたと言っても過言ではない。


 ちらりと部屋にかけてある時計を見ると、寝る前より短針がわずかに動いている。


 恐らく帰ってきて一時間ほど睡眠を取ったのだろう。


 短すぎない、かつ長すぎない微妙な時間だった。


「俺はただ自分にできることを精一杯やったまでですよ」


「うむうむ。相変わらずお前は謙虚な奴だな。あの功績は歴代の魔物狩りでも一番だそうだ。大型の魔物を討伐した例もほとんどないらしい」


「光栄ですね」


「ジェットも中型の魔物を倒した。あやつはまだまだだが、お前の奮闘を見てもっと努力をすることだろう。我が家は安泰だな! ガハハハ!」


「あはは……」


 何が我が家は安泰だ。


 兄ジェットが弟のオニキスに屈折した感情を抱いたのは、このおっさんが適当なことばかり言うからだ。


 いまだってあれだけ目をかけていたジェットに対する興味を失っているように見える。


 俺が才能あるから、もう次の当主候補に鞍替えか?


 いくらなんでも兄ジェットが可哀想になる。


 そもそも俺は、アクロイド公爵家の家督なんて継ぐ気はない。


 悪役ルートを回避するという意味でも、悪名高いアクロイド家は学園卒業と同時に出る予定だ。


 父の思い通りにはいかない。


「そういえばジェット兄さんは?」


「ん? 奴なら先に部屋に戻って休んでいるぞ。かなり疲れているのか、帰ってすぐにな」


 俺も疲れているんだが?


 この父親は息子たちの状況も理解できないらしい。


 自分ファーストすぎてドン引きだよ……。


「でしたら俺も休ませてもらっていいですか? さすがに疲れてまともに動けそうにないので……」


「ああ。もちろん構わないとも。そろそろお前も学園入学だ。アクロイド家の名を広めるために今後も頑張りなさい」


「分かりました」


「ではな」


 それだけ言って父は部屋を出ていった。


 扉が閉まり、再び静寂が訪れる。


 俺は部屋から父の気配が遠ざかるのを待って、一言呟く。


「……ったく。誰が家にために頑張るかよ」


 転生していままで、俺は自分のためだけに頑張った。


 自分とこの世界、主要キャラクターたちのために動いた。


 決してアクロイド公爵家のためじゃない。


「でも、とうとうシナリオが始まるのか……」


 学園入学まで一ヶ月。


 そこからは本当の意味での試練が始まる。


 まだ出会っていないヒロインたちも登場するし、何よりリオンと顔を合わせる機会が増える。


 様々なイベントを経験し、俺はなるべく悪役らしい行動をしないよう注意しないとな。


 どこでフラグが立つか分からない。


 そう思いながらも俺は瞼を閉じる。


 もう一度寝て、起きてから今後のことは考えよう。


 意識が徐々に夢の世界へ落ちていった——。




【クエスト達成:報酬として魔力回復薬をプレゼントします】




 ▼△▼




 波乱万丈の魔物狩りが終わった。


 そこから先は大きなイベントは何もない。


 普段通りに剣を振ったり、学園入学に合わせて勉強したりと、俺は忙しい日々を送った。


 あの魔物狩りから兄ジェットの俺に対する態度も変わった。


 嘲笑や虐めがなくなり、逆に怒りと憎しみが向けられるようになる。


 完全に逆恨み? されていた。


 父からの期待を掻っ攫った俺が許せないのだろう。


 だが、俺は家督を継ぐ気はない。


 ジェットの立場を脅かす気はないので、気にせずその視線をスルーする。




 そんなこんなで時間はあっという間に過ぎていった。


 クロエやクラリスが頻繁に我が家に来たり、アリサと道端で出会って会話をしたり。


 いろいろなことがあって一ヶ月。


 ようやく、この世界が大きく動き出す。




 入学式の時がやってきた。




———————————

あとがき。


一章終了!

二章からは原作イベントがオニキスに襲いかかる!?


【作者からのお願い!】

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頑張って毎日投稿するぞ~!

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