第18話 魔剣の力

 笛の音が会場中に鳴り響いた。


 それは魔物狩りのスタートを告げる音。次々に参加者たちが足音を鳴らして森の中へ突っ込んでいく。


 その様子を横目に、俺は目の前に現れたウインドウ画面を見つめる。


「やっと前の報酬がきたのか。待ち侘びたぞ」


 ウインドウ画面に表示されたのは『大型の魔物討伐の報酬』。前にクロエを助けた際に倒したあのケルベロスのやつだな。


 中型や小型の魔物を倒しただけでも中級のスキルを得たし、大型ともなれば上級——あるいは超級スキルが手に入るのでは?


 胸中でワクワクしながらウインドウ画面の続きを見守る。すると、すぐにウインドウに記された文字が切り替わった。




【報酬:『魔剣レーヴァテイン』をプレゼントします】




「…………魔剣?」


 大型の魔物を討伐した報酬はスキルではなかった。残念だが、いまの俺は違うことで頭がいっぱいだった。


 ——魔剣。


 その名前は男心をくすぐる。


 字面からして間違いなく武器だ。前にもらったのが軽量で使いやすい武器だった。前と同じ効果がない武器には見えないが……果たして魔剣レーヴァテインは、その名前に恥じないほどの能力を持っているのか。


 俺はすぐにでも確認したくてチュートリアルに告げる。


「その魔剣レーヴァテインを出してくれ。性能をたしかめる」


 直後、俺の目の前に魔剣レーヴァテインが現れる。


 クロエとクラリスが割と近くにいるが、俺の背中が邪魔で剣が出てくるシーンは見えてなかっただろう。


 手にした赤黒い剣を鞘から抜いて掲げる。剣身は燃えるような真紅。どこか禍々しいオーラが漂ってくる。


「ッ! な……なんですかその剣。オニキス様、そんな武器持ってましたっけ……?」


 背後からかすかに震えたクロエの声が届く。ちらりと後ろを確認すると、魔剣を見るクロエの表情が暗かった。


 まるでこの剣に気圧されているようだ。


「どうしたクロエ嬢。この剣が怖いのか?」


「認めるのは癪ですが……その剣を見ていると震えが止まりません。不思議な魔力が籠められていますね」


「私も胸が締めつけられるように苦しいです……どこでその武器を手に入れたんですか? オニキス様」


 クロエの隣に立っているクラリスさえも顔が青かった。両手で腕を押さえ、ぷるぷる震えている。


 さすがにチュートリアルの報酬で手に入れました……とは言えない。適当に誤魔化す。


「たまたま家の倉庫に置いてあるのを見つけました。俺はそんなでもありませんが……不吉なオーラでも出ているようですね」


「不吉なんて生易しいものじゃありません。剣そのものが殺気を放っているようにも見えます」


「恐ろしい……まるで大昔に存在したという呪われた武器ですよ、それ」


「呪い……ね」


 そこまで言われるほどこの剣は不気味なのか。持っている分には何も感じないし、禍々しいと思うくらいだが……なるほど。


 彼女たちが冗談を言ってる風にも見えない。これは性能のほうも期待できそうだ。


 俺は内心で満足する。剣身を鞘に納め、踵を返した。


「感想ありがとう。それじゃあ俺は魔物狩りも始まったから先に行くぞ。精々お前も頑張れよ、クロエ嬢」


「あ。ま……待ってください! 私のことをすげなくあしらうつもりですね!? ありがとうございますッ!」


 後ろから聞こえてきたクロエの言葉は無視する。彼女に構ってると時間の無駄だ。


 まっすぐ森の中に入り、そこかしこから聞こえてくる他の参加者たちの奏でる戦闘音を聞きながら、どんどん森の奥を目指した。


 入り口に近い場所には雑魚しかいない。魔物狩りは魔物の数はもちろん質も競い合う。ならば、倒すべき魔物は奥にいる中型以上の個体に絞るべきだろう。


 それに……。


「この魔剣レーヴァテインの性能をたしかめるのに、周りに人がいたら気を使うからな」


 ククク、と小さく笑い、俺は徐々に歩く速度を上げて——途中から走り出した。




 ▼△▼




 ドオォォォォンッッッ!!


 森の中で異常な爆発が起こる。炎が柱を描き、周囲にあるすべてを広範囲で焼き払った。


 その中心、黒く焦げた大地に足をつけるのは……魔剣レーヴァテインを持った俺だ。


 手にした真紅色の剣を見下ろして思う。


「こ……これ、ヤバい……」


 なんつう威力だ。ちょっと魔力を流して剣を振ったら、数十メートル範囲の自然がすべて消滅した。


 それだけじゃない。地面は黒く染まり、森のほうも火事すら起きずに草木が灰となった。火力が馬鹿みたいに高い。


 ちょうど近くにいた魔物は骨すら残さず消滅し、辺りには静寂が満ちる。


 何が言いたいかというと……。




「封印指定だな」




 こんなもん日常的に振れるか。


 魔力を籠めなきゃただ剣身に触れたものが燃えるだけの武器だが、少しでも魔力を籠めると周囲が更地になる。


 取り扱い注意なんてレベルじゃない。幾重にも封印を施してどこかに保管しておくべき代物だ。あまりにも性能が高すぎてさすがの俺も絶句した。


「チュートリアルめ……こんなもの用意して俺にどうしろって言うんだ……」


『回答:クエストを発注します。ぜひともお役立てください』


「人の話聞いてた?」


【クエスト発生:魔物狩りにて最高の結果を出せ】


「…………」


 この野郎。問答無用で本当にクエスト出しやがった。


 報酬が欲しいからやるけど……魔剣レーヴァテインは封印だ。これを使うとまともに魔物が倒せない。前の『黒羽根の剣』を使ったほうがいい。


 チュートリアルが用意した収納空間に魔剣を送り、逆に保管しておいた黒羽根の剣を取り出す。


「あれは強い敵が出てきたとき用だな。普段使いはこっちのほうがいい」


 そう言って剣を腰に下げると、更地になった森の一角を一瞥して……。


「ごめんなさい」


 一言謝ってから走り出した。




 ▼△▼




 ——ドオォォォォンッッッ!!


「な……なんだ!? 爆発かッ!?」


 オニキスが起こした魔剣による衝撃が、遠く離れた場所で魔物を狩っていた兄ジェットの耳に届く。


 空にまで昇った大きな火柱を見て、ジェットは目を見開きながら驚愕する。


「こ、この森で何が起こってやがる……!? せっかく、今日はオニキスの野郎を越えてやるつもりで来たのに……クソッ!」


 実はその弟オニキスが問題を起こしているわけだが、兄ジェットはそれを知らない。


「とにかくいまの音はヤバかった。何がいるのか知らないが、あの火柱からは離れたほうがいいな……」


 そう決意し、ジェットは魔物を回収しながら爆発音のあった場所から遠ざかっていく。


 脳裏では、必ずオニキスより良い成績を上げてやるぞ、と息巻いて。




 ▼△▼




「——ん? なんだいまの音……」


「すっごい大きな音が聞こえたわね」


 さらにオニキスから離れた所、森の奥にて、原作主人公のリオンとその幼馴染であるアリサが空に昇った火柱を見る。


 遠目からでも分かるほどの衝撃だ。ぱちぱちとアリサは何度も瞬きをしてから言った。


「あれ……参加者の人の仕業かな?」


「まさか。あんなもの人の手で作り出せるわけないだろ。少なくともそんな強そうな奴、会場にいなかったぞ」


「そう? 私は……たとえば最近よく聞くオニキス様とか」


「オニキス? ……ああ、平民相手に偽善を振りまいて悦に浸ってる奴か。どうせ本性はろくでもねぇよ」


「ずいぶんな言い方ね。話を聞くかぎり、聖者のようだって有名じゃない」


「媚売って目立ってるだけだろ。俺ら平民には興味なんてねぇよ。それより気をつけろアリサ。なんかどんどん魔物が奥から出てきてやがる。もしかしたら……大物がいるかもしれないぞ!」


「はぁ? 何言ってるんだか……。私たちだけで他の魔物が逃げ出すような奴、相手にできるわけないでしょ」


 呆れながらも次々に姿を見せる魔物をリオンと協力して狩っていく。なんだかんだ、アリサはリオンのことが見捨てられなかった。




「リオンも少しはオニキス様を見習ってほしいわ……まったく」




———————————

あとがき。


俺……やらかしちゃいました?

(自然破壊)

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