第15話 ガチでヤバい人
【クエスト達成:魔力回復薬をプレゼントします】
騎士たちが魔物の死体を回収し終わる頃、俺の目の前に表示されたウインドウ画面を見て思わず愚痴が漏れる。
「はぁ? 大型の魔物を倒したのに魔力回復薬だけ……?」
これまでの傾向から考えるに、かなりけち臭い報酬だと思った。
するとウインドウに表示された文字が切り替わる。
『回答:今回の魔物討伐はクエストを受注していませんでした。後ほど結果を精査し、報酬を与えます』
「あ、そういう。さすがチュートリアル。頼りになるなぁ」
くるくると手のひらを返した。報酬がもらえるなら文句はない。
『回答:チュートリアルは少しだけオニキス様に不信感を持ちました……』
「ん? 不信感ってお前……ちょっと人間臭いところ出すのやめろよ」
なんでシステムでしかないチュートリアルが怒ってんだ。こいつには自我のようなものはないと思っていたが、もしかすると中身はあるのかもしれない。
だが関係ないな。人間が作っていようと機械だろうとやるべきことは一つ。これまでどおりにクエストをクリアして報酬を得るだけだ。
「オニキス様。魔物の回収が終わりました。この後はいかがされますか?」
「魔眼の性能は把握したし、もう充分に戦闘経験は得た。街に戻って家に帰るよ」
「畏まりました」
護衛の騎士たちは恭しく頭を下げると、撤収の準備にかかる。
「では、わたくしのことも一緒に連れて帰ってくださらないかしら? オニキス様」
護衛の騎士たちがいなくなると、今度はクロエが俺のそばに。
「クロエ嬢なら一人でも帰れると思いますが?」
「ッ! そんな冷たいこと言わないでください……興奮します」
「ん?」
いま、彼女の口から「興奮」とか意味解んないワードが出たような気がした。
きっと俺の気のせいだ。俺の知るクロエはそんなこと言ったりしない。
「まあいいですけどね、別に」
一人増えようと問題ない。
準備を済ませた騎士たちを後ろに下げ、なぜか俺の隣を陣取ったクロエとともに帰路に着く。
帰り道、やたらクロエから鬱陶しい視線を感じた。
▼△▼
クロエ、護衛の騎士たちとともに王都に帰還する。
正門をくぐり少しばかりまっすぐに進むと、そこでクロエが一歩俺より前に出た。
「道中の護衛、ありがとうございました、オニキス様」
「構いませんよ。あなたが勝手についてきただけだし」
「ンンッ!? そ、そんなご褒美をいきなり……たまりませんわ!」
「? なに言ってるんですか?」
さっきからクロエの調子がおかしい。
だいたいおかしい彼女でも、いきなり喘いだりするような女の子ではなかったはず。
おまけに顔が赤い。先ほど聞いた「興奮」という言葉も相まって、なんだか俺は嫌な予感がした。
「調子が悪いならすぐに帰った方がいいですね。それじゃ俺はこれで……」
手を振って踵を返す。そのまま自宅へ向かおうとするが、その前にクロエに腕を掴まれた。
「お待ちください、オニキス様。わたくし、オニキス様にどうしても伝えたいことがありますの」
「俺は特に聞きたいことはないのでご遠慮ください」
「酷いッ! でも悪くありません……ふふふ」
なんで冷たくあしらってるのに喜んでんだこいつ!?
この時点で俺は最悪な結論が脳裏に浮かんでいた。
原作だと、冷たく苛烈な悪役令嬢だと思っていたクロエが……まさか……冷たくされると喘ぎ声を漏らすような変態マゾヒストだったなんて!!
信じられない。信じたくない。
ビジュアルだけはよかったのに、本当に顔だけの女になった。おまけに絡まれているのは俺。腕も掴まれて逃げ場がない。
「わたくし、オニキス様に興味がありますの。この気持ち、理解してくださらない?」
「俺はお前に興味ない」
「はぁんッ!」
嘘だけどバッサリぶった切った。逆に彼女は喜んでいた。
「そう、それ! その的確にわたくしを喜ばせるあなた様の言葉!」
「喜ばせてるつもりはないんだけどね……」
「なんと甘美なことか! わたくし、いままで誰かに命令されたり冷たくされたのは初めてです! しかも……されたいと思うのも」
「でしょうね」
生まれた頃から真性の変態だったらさすがの俺も引く。いまも引いてるんだぜ? 見てくれ俺の腕を。鳥肌立ってるから。
「オニキス様は素敵な殿方です。わたくしを守るために大型の魔物と戦った姿を見て、それを確信しました」
「勝手にお前のために戦ったことになってるが?」
あれはただの勝負と魔眼の性能テストのためだ。彼女を守る意思がなかったわけじゃないが……まるでそれがメインのように話されていた。
気分はさながらヒロインってか?
「どうか今後ともわたくしと仲良くしてくださいね? もちろん、仲良くしなくてもいいです。勝手に興奮しますからッ!」
「ひぃっ!?」
転生して初めて俺の精神がかき乱された。初めて恐怖というものを抱く。
大型の魔物を前にしても動揺しなかった俺が……クロエには恐怖しか感じない。
慌てて彼女の腕を振りほどき、
「わ、悪いが塾の時間なんだ。いつかまた会えたら話でもしよう。じゃ」
と言って全速力でその場から逃走する。
背後では、
「ふふふ……逃がしませんわぁ……わたくしの、ご主人様ぁ」
というクロエのねっとりボイスが聞こえてきた。
俺の人生、どうなっていやがるんだ!!
———————————
あとがき。
※この世界にはもちろん塾はありません
オニキスの周りにはヤバい子が溢れますね!最高!(?)
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