第10話 超級スキル
……。
意識が徐々に覚醒する。覚醒してくると、頭に柔らかい感触が伝わってきた。
——枕か?
寝惚けた状態の頭でそんなことを考える。やがて、俺の意識は完全に覚醒を果たす——。
「……ん、んん?」
瞼を開ける。
真っ先に視界に入ってきたのは、白塗りの天井——ではなく、その前にあった少女の顔。どこからどう見てもクラリス・アークライトの顔だった。
「クラリス……様?」
「おはようございます、オニキス様。お体のほうは大丈夫ですか?」
呆然と彼女の名前を呼ぶと、クラリスはにっこりと笑みを浮かべて答えてくれる。
直後、俺は妙な違和感を感じた。
——なぜ、横になっている俺の目の前に彼女の顔がある? こちらを覗きこんでいるなら解るが、クラリスにそんな動きは見られない。
咄嗟に出た答えは、俺にとって最悪なものだった。完全覚醒前の記憶が、いまもなお俺の後頭部に当たる柔らかな感触がなにかを告げる。
「……——ッ!?」
がばっと勢いよく飛び起きた。
クラリスの体勢、頭に当たる感触からそれが彼女の〝膝〟だと理解する。
視線を慌てて背後に向けると、やはり俺の頭が置いてあった場所にはクラリスの膝が。ゆったりとした神官服の上からでも解る足のシルエットがそこに。
「~~~~!?」
なんということだ。父親にもされたことのない膝枕を、原作ヒロインの彼女にやらせてしまった(というか父上に膝枕されたら家出する)。
これは悪役云々以前に、セクハラとかそういう法律に引っかかるのでは!?
「す、すみません……クラリス様。どうやらあなたの膝の上で俺は……」
「ああいえ。オニキスは急に倒れられたので、急遽、わたしの膝の上で寝てもらいました」
「ということは……」
「はい。わたしがオニキス様に膝枕したかったのです!」
ほがらかに笑って凄いこと言ったぞこの人!? 本当に神官見習いで、高潔な聖女と言われたヒロインか!?
俺が知る彼女はすでに成長したあとの姿と性格だったが、子供の頃は年相応にやんちゃだったのかな?
だとしても、だ。いきなり異性に膝枕なんてされたら、ヒロインとか悪役とか関係なしに羞恥心が溢れる。
真っ赤になった顔を隠すように逸らし、一応、お礼は告げておく。
「そうです、か……ご迷惑をおかけしました」
「ご迷惑なんてまったく。オニキス様の寝顔、とても可愛らしかったですよ?」
「~~~~!?」
ぐうううぅッ! さすが原作ヒロイン。敵キャラの精神を抉る術をすでに心得ている。思わず心臓が張り裂けそうになった。
だが、なんとかギリギリ耐える。胸をぎゅうっと押さえて、
「そ、それより……患者は? 患者はどうなりましたか?」
露骨に話を変えた。
しかし、クラリスは不快な様子を見せることもなく笑顔のまま答える。
「患者の皆さんでしたらすでに全員帰りましたよ。多くの方がオニキス様に感謝を伝えたがっていました。でも、オニキス様を寝かせてあげたいと思ったわたしの意志を尊重してくれましたね」
「そ、そうですか……よかった」
俺の最後の記憶どおり、ちゃんとやるべきことは全て終わったんだな。そのことにホッと胸を撫で下ろす。
そこへ、
「——あ! オニキス様、目を覚ましたんですね!」
「心配しましたよ~」
「あれだけ魔力と体力を消費したんだから、まだ安静にしなきゃダメですよ?」
わらわらと複数の神官たちが姿を見せる。共に患者の治療にあたった神官たちだ。
「ご心配をお掛けしました。すみません、こんな所で寝ちゃって」
「いやいや! オニキス様は凄いですよ!」
「そうそう。同じ人間とは思えません!」
ぐっと拳を握り締めてそう力説してくれる神官たち。しかし、それは果たして褒め言葉なのだろか?
「我々の優に数倍もの患者をたった一人で治すなんて、この場にいる全員が想像すらできませんでした」
「大神官様でもあそこまで多くの患者を治療したことはないんじゃないかな?」
「オニキス様には大神官様になれるほどの器があります! ぜひ、神殿に所属しませんか!?」
「え、えぇ!?」
急になにを言ってるんだ。俺は公爵子息でまだ15歳の子供だぞ?
たしかに目の前にはクラリスという特例がいる。彼女もまた優秀ゆえに15歳という若さで神官見習いの座に就いた。だが、それはほかの条件などもある。俺の場合はそれに当てはまらない。
首を左右に振って神官の提案を拒否する。
「すみませんが、俺はそこまで神殿に興味は……。今回の件は父からの指示でもありますし」
「むぅ……それは残念ですね。でも、気が変わったらいつでも言ってください! オニキス様くらいの年頃だと決めるのは難しいでしょうが、我々はいつでもオニキス様のことをお待ちしておりますので!」
ほかの神官たちがなにも言わないところを見ると、全面的に同意するってことか。クラリスまでニコニコ笑っているし。
俺はぎこちない笑みを返し、
「あはは……考えておきますね」
とだけ言って、その日は神殿から自宅へとまっすぐ帰ることになった。
帰り際、馬車の前でクラリスが、
「ではオニキス様、また。きっとわたしたちの運命は繋がっていますよね?」
と意味深なことを言っていた。その時はまだ、彼女の言葉の意味は理解できなかった。
▼△▼
「つっかれた~!」
屋敷に帰ってきた俺。
仕事中の父に声をかける気分にはならず、疲労の残った体を引きずって自室に戻ると、即座にベッドへ身を投げた。
柔らかなベッドの上に体を沈めると、疲労のせいですぐに睡魔が襲ってくる。
だが、その誘惑に負けず俺は意識を保った。寝る前に確認したいことがある。
「チュートリアル、聞こえてるか?」
『回答:はい。なにかご用でしょうか?』
目の前にあの半透明のウインドウが表示される。
「クエストはどうなった?」
『回答:無事クリアされました。再びクエスト達成画面を表示しますか?』
「ああ、頼む」
あの時は気絶してまったく確認できなかったからな。ワクワクを最大限長持ちさせるために、あえて俺はなにも考えずにチュートリアルへ指示する。
直後、ウインドウの画面が切り替わる。
【クエスト達成:報酬として超級スキル『超級魔眼』を獲得しました】
「…………超級?」
———————————
あとがき。
新たなスキルは最上位の超級⁉︎
次回、その能力が明かされる!
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