第5話 新たなスキル

 真上に、中型の魔物〝セイレーン〟が現れた。


 わざわざ中型の魔物がやってくるとはタイミングがいい。


 俺は剣を構えて、——しかし、背後から騎士たちの声が届く。


「いけませんオニキス様! 相手は中型の魔物です! 小型とはワケが違う!」


「お逃げください! セイレーンは我々が——」


「いい。必要ない」


 セイレーンは中型の個体の中でも小型に近い雑魚だ。


 そんな奴に負けてるようじゃ、自分の命を守れるわけないだろう? 俺は、悲運を背負った悪役だからな。




「お前らは黙ってそこで見ていろ。あれくらいなら——俺一人で充分だ」




 ▼△▼




 ——オニキス様は強い。


 アクロイド公爵から直々に護衛を任された騎士たちは、小型の魔物を歯牙にもかけぬオニキスの剣技を見てたしかにそう思った。


 しかし、相手は中型の魔物。


 自分たちが守らねば、最悪オニキスが死ぬ。勝てるわけがない。そう考えていた。


 ——けれど結果は異なる。




「嘘……だろ……」


 その光景に騎士たちは言葉を失う。




 オニキスとセイレーンの戦いが始まった。


 セイレーンは鳥型の魔物だ。飛行しながら攻撃ができる。


 普通に考えれば、相手の攻撃に合わせてカウンターを仕掛けるのが定石だ。


 けれどオニキスの戦法は違った。


 オニキスは相手を木の近くに誘導し、そこから木を蹴って跳躍。相手の高さまで上がると、一撃でセイレーンの喉を切り裂いた。


 さすがに首を両断することはできなかったが、あれでセイレーンのもう一つの武器である〝音波攻撃〟を封じた。


 音による攻撃ができないセイレーンは、物理的な攻撃しか選べない。物理的な攻撃では、——オニキスには勝てない。


 時間にしておよそ10分ほど。


 たったそれだけの短いやり取りで、オニキスはセイレーンをした。


 相手の腕を斬り裂き。相手の腹部を斬り裂き。最後には、セイレーンの首を落とした。


 倒れ、血溜まりの中に転がるセイレーンを見下ろし、オニキスは呟く。


「……なんだ、こんなもんか」


 と。


 ゾクゾクゾクッ。


 その言葉と圧倒的な実力を目にした騎士たちは、全身を震わせた。震えながらこう思った。


 ——この方は、まごうことなき天才だ。天才すら凌駕する神童で、神童すら超えた——バケモノだと。


 あまりにも大きすぎる才能は、騎士たちの嫉妬を吹き飛ばして尊敬すら飛び越えた。


 きらきらと子供みたいにオニキスを見ながら、


「あれが……英雄と呼ばれるに値するほどの器ってことなのか?」


 と小さく呟く。


 その言葉は、本人には届かない。




 ▼△▼




「うーん……」


 なんか、想像よりセイレーンが弱かった。


 いくら小型に近い中型とはいえ、図体がちょっと大きくなっただけか。


 飛び回ってウザいくらいで、周りに木さえあれば攻略するのに時間はかからない。


 オニキスの情報にあった音波攻撃とやらが使えれば苦戦するのだろうが、最初に喉を潰したからイージーだな。


 これならもっと狩れそうだ。相手が弱いのもそうだが、上級剣術スキルが有能すぎる。


 これさえあれば、少なくともいまの状態で中型の魔物とも戦える。それがよく解った。


 背後でぴくりとも動かぬ二人の騎士に、


「おい、なにしてるんだ? 早くセイレーンを回収して次に行くぞ。まだ魔物は倒したりないんだからな」


「——ハッ!? わ、解りました!」


 端的に指示を出す。


 きびきびと動き出した騎士たち。彼らはもう、俺の実力を疑ったりはしないだろう。


 その証拠に、そこから先の戦闘において騎士たちは俺の戦闘を止めようとはしなかった。


 むしろ率先して応援まで始めたくらいだ。




 ▼△▼




「グルアアア!」


 またしても現れたガルムを切り伏せる。


 これでクエスト目標の10体目だ。中型の個体であるセイレーンもしっかり討伐数に刻まれていたため、クエスト達成になる。


 目の前にクエスト画面が表示された。




【クエスト達成:報酬として中級スキル『中級治癒』を獲得しました】




「いおっし! またスキルゲット!」


 思わずぐっと拳を握り締める。


「オニキス様? なにか言いましたか?」


 おっと。声に出したから騎士に怪しまれた。


 俺は首を横に振って否定する。


「なんでもない。ガルムの死体処理、頼んだ」


「畏まりました」


 騎士たちは疑うことなく死体の回収・処理に移る。


 その間、俺は新たに獲得したスキルに関してチュートリアルに訊ねた。


「この中級治癒っていうのは回復系のスキルか?」


『回答:違います。回復スキルは超級スキルから使えます。上級までは重症を治す程度が限界です』


 つまり、対象の時間を遡るような超絶スキルではないと。


「なるほどな……中級はどこまでできる?」


『回答:中級治癒は、部位欠損や臓器損傷以外を治せます。ただし、命に関わる場合は成功率が低下します』


「ってことは、上級から腕を生やしたりできんのね」


『回答:肯定します』


 だとしても充分に強力なスキルだ。


 これで致命傷を受けないかぎりは問題ない。生存力も向上した。


「オニキス様。ガルムの回収が済みました。さらに森の奥を目指しますか?」


「いや、ここで帰宅だ。あまり遅くなると父上が心配するだろうからな」


 背後に立った騎士たちへ帰還命令を出す。


 騎士たちはどこかほっとしたように表情を崩した。


 次からは一人で、もっともっとたくさんの魔物を狩れるといいんだが……いつになるやら。


 内心、不満をこぼしながらも帰路に着いた。




 ▼△▼




 歩いて騎士たちとともに王都へ戻ってくる。


 俺は貴族だから優先的に正門をくぐることができる。


 街中に入り、さっさと冒険者ギルドにでも行って魔物の素材を換金しようとしたら、




「——こ、このままじゃあ……ユフィが死んじまう!!」




 正門の近くで、男性の大きな声が聞こえた。


 反射的にそちらへ視線を送ると、なにやら数名の人間に囲まれた——血だらけの女性の姿が見えた。




 事件か?




———————————

あとがき。


新たなスキルは定番の治癒スキルでしたー!

これでさらにオニキスが鬼つよに⁉︎


そして帰って早々問題が⁉︎

さらにいよいよヒロインが姿を見せるかも……?

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