第4話 その才能を恐れる

「ま、魔物を討伐したい……だと?」


 俺の言葉に、父はやや汗を滲ませながら首を傾げた。


 こくりと頷く。


「はい。魔物を討伐したいです」


「いやいやいや、待て待て待て! お前はまだ15歳の子供だぞ!? どこに15歳で魔物を討伐しに行く子供がいる!」


「ここにいます」


「そういう話じゃない! ダメに決まっているだろ! 危険すぎる!」


 前のオニキスだったら喜んで外へ出したかもしれないのにどの口が……。


 俺に利用価値ができたから捨てるには惜しいと思ったのかな?


 だが、俺にとっては無用な心配だ。


「平気です。護衛の騎士を連れていきますから」


「護衛の騎士を?」


「ええ。それなら父上も少しは安心できるでしょう?」


「ううむ……だが、しかし……」


「先ほど、なんでも叶えてくれると言ったではありませんか」


「それは……私にできる範囲で……」


「許可を出すだけですよ? お願いします」


 じっと俺は父の顔を見つめた。


 真剣な眼差しで10分も見つめ続けると、やがて父が先に折れた。


「……解った。ただし、護衛の騎士を二人はつけるぞ」


「はい。ありがとうございます!」


 何人だろうと関係ない。そいつらはあくまで保険。魔物は——俺が討伐するのだから。




 ▼△▼




 翌日。


 二人の護衛騎士を伴って俺は外に出た。


 さすがは異世界。


 王都を出た途端に広大な草原と森が広がっている。


 俺の目的地は森の中だ。そちらへ向かって歩き始める。


 後ろからついてくる騎士たちが、


「ほ、本当に森へ行かれるのですか? オニキス様」


 とやや心配そうな顔で訊ねてくる。


「何度目だよその質問。ここまで来たのに眺めるだけで帰れるわけないだろ?」


「それはそうですが……しかし……」


「いくらなんでも15歳で、それも初めての実戦となると……我々も心配くらいします」


「問題ないさ。すでに魔物討伐の経験があるジェット兄さんを倒したんだ、いまの俺なら、弱い魔物くらい倒せる」


 それで言うと、兄ジェットとの打ち合いには意味があったな。


 人と魔物では行動パターンに違いはあるが、少なくとも兄でも倒せるくらいなら平気だ。


 いまは装備もしっかりつけている。武器も真剣で隙はない。


 「でもでも」と言う騎士たちをスルーして、俺はさらに先へ進んだ。やがて森の中に入り、周囲の景色を楽しみながら歩いていると——、




「グルルルッ!」


 茂みをかきわけて、二メートル強の狼が姿を見せた。


「魔物か」


 初のエンカウントだな。


 オニキスの知識にある。目の前の個体は〝ガルム〟と呼ばれる狼型の魔物だ。


 魔物の中で小型に分類され、速度こそ速いが別段強い個体ではない。


 初戦の相手としてはなかなか悪くないな。


 鞘から剣を抜いて前に出る。


「お、オニキス様! まずは我々が……」


「いい。実際に戦ってみたほうが早い。それに——相手は待ってくれないよ」


 言い終えるのと同時に、赤色の体毛が動いた。


 俊敏な動きでガルムが俺に接近する。


 バネのようにいい体をしている。地面を蹴り、ジグザグに走る姿は人のようだ。




 しかし、所詮は魔物。


 知能が低く、まっすぐに攻撃を仕掛けてくる。


 それを横に体を引いて半身で避ける。


 ガルムの爪が空を切った。


「隙だらけだな」


 大技は厳禁だよ、狼くん。


 ちょっとだけ内心でカッコつけると、俺は素早く剣を下から上に振った。


 俺の持つ剣は両刃の剣。どちらから斬ろうと問題ない。


 狙いは首元。正確に剣がそこを捉え、意外なほどあっさりと——魔物を倒した。


 ガルムの首が宙を舞って地面に落ちる。


 血飛沫が地面を赤く染め上げ、ばたりと鈍い音が沈む。




「そ、そんな……いくら小型の魔物とはいえ、15歳のオニキス様が……い、一撃!?」


「ありえない。なんであんなあっさり……初戦じゃないのか!?」


「初戦のはずだが……」


「だったらなんであんな冷静なんだ!? ベテランの騎士並みの動きじゃないか!」


「旦那様が、オニキス様は天才かもしれないと仰っていたが……これほどとは……」


 背後では倒れた魔物を見下ろし、感嘆の声を漏らす騎士たちが。


 どうやら、騎士たちの度肝を抜いてしまったらしい。


 小型でこれなら、中型や大型を倒した時にはなんて言われるのか。


 さすがに大型は、いまはどう頑張っても勝てないと思うがな。


「死体はお前たちが回収を頼む。俺は——もっともっと魔物を討伐する」


 いまので終わりじゃない。


 まだ近くには——魔物の気配がしていた。


 がさりと茂みを揺らし、次は緑色の体色をした小さな小人が。


 いや、人間の子供のような魔物が姿を見せる。


「〝ゴブリン〟か。ガルムより雑魚だな」


 正直、ガルムを倒したあとではやる気も出ないが……まあ、三体もいることだし、クエストの条件を埋めるにはちょうどいいか。




 再び剣を構えると、こちらに向かって走り出したゴブリンへ剣を振り下ろす。


 先手必勝。




 ▼△▼




「グギャアアア!」


 最後の一体、ゴブリンが血を流して倒れる。


「チッ。首を狙ったつもりだったがぎりぎり外したな」


 肩から腰にかけての袈裟切りになった。


 それでも充分に致命傷だったのか、ゴブリンは二度と立ち上がることはない。


 剣についた血を払うと、言われたとおりに魔物の回収をしていた騎士たちが、


「もう凄すぎて言葉が出ねぇ……」


 と小さく漏らしていた。


 まだ合計討伐数は4体。残り6体狩らなきゃいけない。


 こんなもので驚いてる暇はないぞ。


 そう思って近くに魔物はいないのかと探そうとした——その時。


 バサバサ。バサバサ。


 どこからか音が聞こえた。


 すぐに音の出所は判明する。


 地面に大きな影が生まれ——全員が上を見る。


「あれは……!」


 人間の女性のような顔を持つ鳥。


 オニキスの記憶にあった。


 名前は——、




「——セイレーン!」




 の魔物だ。




———————————

あとがき。


こ、こいつ……強すぎる⁉︎


そんなオニキスの次の相手は、中型の魔物!

大型には勝てないと言っていたオニキスは果たして⁉︎

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