第2話 クズ兄からの提案
目の前にとんでもない文字が表示された。
「上級スキル……スキル!?」
スキルとは、この世界では先天的にしか獲得できない神からの
それを持たないからこそ、俺はオニキスに絶望していた。
しかしまるでそれをあざ笑うかのように、目の前のシステムメッセージは、俺にスキルを与えたとのたまう。
「俺にスキルを与えたって言うのか?」
『回答:その通りです』
システムメッセージが俺の言葉に反応する。
「お前……さっきは俺の質問に答えなかったくせに今度は答えてくれるのか」
『回答:チュートリアル開始前の質問には答えられません。質問はこれからお願いします』
「……なら、まず一つ。スキルを与えたって言うのは本当か?」
『回答:本当です。あなた様の魂に上級剣術スキルが刻まれました』
「剣術スキルは解るが、〝上級〟っていうのは?」
『回答:スキルの等級を表しています。主に〝超級〟、〝上級〟、〝中級〟、〝初級〟の四つに分かれ、特殊な条件を満たすことで超級のさらに上の等級も用意されています』
「ってことは……普通に獲得できるスキルだと、上級は上から二番目か」
『回答:はい』
ますます怪しいな。あまりにも破格すぎる。
上級がどれほどのものかによるが、初回の報酬がいきなり上から二番目とはな。
何か罠でもあるのか?
「俺に〝チュートリアル〟なんてものを寄越して何が狙いだ」
『回答:製作者曰く「困難を乗り越え、できる限りの自由を謳歌させるため」とのことです』
「その〝製作者〟っていうのは?」
『回答:不明です』
「解らないのか……まあいい」
誰だろうと『開始ボタン』を押した以上は関係ないか。むしろ知らないほうが良いまであるな。
「質問は以上だ。また逐一訊いてもいいんだろ?」
『回答:問題ありません』
「ならいい。とりあえず、お前の言うことが事実か試しに行くぞ」
そう言って部屋の扉を開けると、下へ降りるための階段を探す。
目指すのは——この家の中庭だ。
▼△▼
「オニキス様。的と木剣の準備ができました。こちらをどうぞ」
使用人の一人が俺に木剣を手渡した。
「助かる。ありがとう」
「なっ!? い、いえ……これくらいのこと、アクロイド家の使用人として当然です」
俺が礼を言っただけで驚く始末。
まあ無理もないか。オニキスはこれまでの人生で一度も使用人たちにお礼を言ったことがないのだから。
いまの年齢が15歳くらいだが、幼い頃から一緒に育った彼らにとっては異常事態だ。
ひそひそと使用人たちが集まってなにかを話し合っている。
どうせ俺のことだ。無視して木剣を握り締めた。
現在俺は自宅の中庭にいる。使用人たちに頼み、金属鎧を被せた人型の的と木剣を用意してもらった。
「……なるほど」
木剣を握り締めた途端にそれを理解する。
たしかに俺の中には〝上級剣術スキル〟とやらがあるらしい。
ただ木剣を構えただけで、自分がどうすればいいのか解る。どうやって動けば理想の展開になるのか。それらも全て理解した。
試しに地面を蹴って的に迫る。木剣を鋭く、本能が促すままに振った。
ガンッ! ガガンッ! ガガガガガンッ!!
連続で木剣が的を捉える。
身体能力も向上しているのか、15歳の腕力でも鉄製の鎧が凹んだ。
同時に木剣もボロボロになる。
だが、それよりも俺は内心で感動していた。
——これが、スキル!
前世を含めてここまでスムーズに動けたことはない。
周りにいる使用人たちも口を揃えて、
「な、なんだ……今の動き?」
「めちゃくちゃ速かったぞ!?」
「見てください! 的があんなに凹んで……ありえない」
戦々恐々としていた。
俺は一息
自分の手元を見て、たしかな達成感を得た。
「悪くないな……これが異世界の異能か」
不思議だ。意味が解らない。急にあんな技術と強化を得られるなんて……。
だが、素晴らしい。感動した。これがあれば、少なくとも俺が知るオニキスの破滅は避けられそうな気がする。
その上で、俺は憧れの異世界を謳歌できる。
今更ながら、チュートリアルに感謝した。
するとそこへ、家内から二人の男性が姿を見せた。
一人は俺の父親。もう一人は……俺の兄だ。
「どうした、お前たち。外で騒がしいぞ」
「オニキスがまたなにか問題でも起こしたのか?」
「い、いえ……旦那様、それが……」
使用人の一人、俺に木剣を届けてくれた男が、父に先ほどの打ち込みの件を話す。
父は目を見開いたあと、木剣を持つ俺とボコボコになった的を交互に見て、
「お、オニキス!? あれはお前がやったのか!?」
と叫んだ。とても嬉しそう。
俺は、
「ええ。俺がやりました」
と素直に答えておく。
「嘘を吐くな! 無能のお前が鉄製の鎧を木剣で凹ませただと? ありえない。きっと元から凹んでいた鎧を用意して、父に褒められたかっただけだろう!」
「ううむ……しかし、あの音はどうやって説明する?」
横槍を入れてきた兄に父は訊ねた。
兄は自信満々に答える。
「叩くだけなら無能でも可能かと。俺が本当の剣術をここで披露しても構いませんよ?」
「ジェットが? それなら……」
ちらりと父が俺を見る。
もう一度凹んだ的へ視線を移してから、
「ならば、オニキスが自分の実力を証明すればいい。それが一番手っ取り早いだろう?」
と言った。
「実力の証明? やるだけ無駄でしょう。手を傷めるだけですよ。なあ? オニキス」
父の期待の込められた眼差し。兄の見下すような嘲笑。
それを視界に収め、俺はにやりと笑う。
「いいですよ。また的を叩けと仰るなら、今すぐにでも」
「なっ!? お、お前……本気で言ってるのか?」
「はい。俺は構いません。自信、ありますから」
「……だったら」
「ん?」
「だったら、——俺が相手をしてやろう!」
「はあ?」
こいつ、急になに意味不明なこと言ってんだ?
首を傾げる俺に、長男ジェットは続けた。
「自信があるならそんな鉄くずなど叩かずに、俺の訓練に付き合ってくれよ。そのほうが、よりオニキスの実力を測れるでしょう。ねぇ、父上?」
改めてジェットが父へ視線を送る。
父はわずかに考える仕草をしてから、——最終的には頷いた。
——マジか。
それは計算外だった。
「いいだろう。オニキスに自信があるならわたしも見てみたい。お前が我が家の一員である証明を……才能の証明をしてみせろ!」
———————————
あとがき。
ジェット・アクロイド
三人兄弟の長男。クズ。母親似で美形なオニキスが気に食わない。剣術が得意のようだが……?
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