悪役貴族の末っ子に転生した俺が、謎のチュートリアルとともに最強を目指す〜クエストクリアでもらえるスキルやアイテムがあまりにもチートすぎて破滅しない〜

反面教師@6シリーズ書籍化予定!

一章

第1話 チュートリアル開始

 自分が物語の悪役に転生したことに気づいた。




 きっかけは些細ささいなものだ。


 目を覚まして一つ。まずは見慣れぬ天井。


 色鮮やかに多色の曲線が独特の形を描き、次いで、起き上がった俺の視界に高級ベッドが映る。


 少なくとも俺が知っているベッドじゃなかった。そもそも俺は布団派だ。


 三つ目の違和感は体の変化。


 声を発した際に気づく。それは明らかに俺の声じゃない。


 手足が縮んだような錯覚も覚えた。


 徐々にそれらの違和感が恐怖や不安へと変わる。


 だから最後に、俺は部屋に置かれた鏡を見た。


 鏡面に映し出されたのはやっぱり知らない男の顔、——ではない。


 自分ではない、それでいて知っている男の顔だった。


 俺は思わず呟く。その名前を。




「……オニキス?」




 オニキス・アクロイド。




 とあるファンタジー小説に登場する性格最悪のクソ貴族の名前。


 優れた容姿こそ持っているが、他に取り柄のない、そのくせ身分をかざして好き放題する典型的な——


 いわゆる物語のヘイト役だ。主人公にボコられてざまぁされるための存在。




 なぜ俺がそんなことを知っているかと言うと。


 オニキス・アクロイドが登場するそのファンタジー小説を読んでいたからだ。それもしっかり最後まで。


 オニキスがどういう目に遭うのかも知っている。


 コイツには敵が多い。おまけに運も悪い。さんざん苦しみ、挙句の果てに逆恨みで主人公たちを殺そうとして返り討ちに遭う。そんな末路が待っている。


「……最悪だな」


 呟いた言葉は心からの本心。


 しかし、妙に冷静なのはなぜだ?


 夢にまで見た異世界に転生したから?




 ——いいや違う。


 たしかにオタクの憧れる異世界がいま、俺の目の前に広がっている。


 だが、喜べるかと言われれば否だ。


 転生した先が最悪すぎる。本当に、最悪だった。


 よりにもよって破滅する予定の悪役貴族とは……実に笑えない。


 普段なら頭を抱えて発狂しているところだが、——なぜか俺は、一切取り乱すことはなかった。


 波風立たぬ水面のごとく。


 ごくごく当然のように自分の状態を受け入れられた。


 果たしてそれは転生した影響か。肉体に引っ張られているのか。


 答えは出ない。誰も俺に、親切に教えてはくれない。


「ひとまず……早急に今後、どうするべきかを考えないといけないな」


 起こってしまったことはしょうがない。


 呑み込み、その上で前に進む。


 オニキス・アクロイドは公爵子息だが悪役だ。破滅する未来が待っていて、このままオニキスらしく日々を過ごしていればほぼ確実にフラグが立つ。


 一応、俺が憑依したことで性格が変わりルートもまた変更される可能性はある。


 だが、たとえ主人公に噛みつくことがなくても、オニキスは不運に見舞われる。


 こいつは怪しい宗教団体に金銭目的で攫われたり、恨みを買っていて盗賊をけしかけられたり、事故に遭ったりとかなりネタ要素の強いキャラでもあるのだ。


 だから俺としては、ただ主人公に嫌がらせをしない——だけでは不安が残る。


 主に武力系のイベントがオニキスを待っているなら、それを跳ね除けるのが一番。


 しかし、ここでもう一つの問題が。




 オニキス……超無能。




 無能って言うと口が悪いな。凡人なんだ、コイツ。


 神から稀に授かることができる恩恵ギフト——〝スキル〟を持たず、特に秀でた才能もない。そういう男だ。


 剣を握っては兄たちにボコられ、主人公に喧嘩を挑んでも勝てない。それどころか成績は下の下。


 頭は悪くないはずなのに勉強しないで遊んでばかり……そりゃそうだ。




「まずいな。いよいよもってまずいな……」


 打つ手がねぇ。


 死に物狂いで自分を鍛え上げるしか自衛の手立てはないのか?


 首を傾げる。


 そんな俺の前に、不意に半透明のウインドウ画面が表示された。


 白く文字が浮かび上がる。


『個体名:オニキス・アクロイドにチュートリアルを同期中。——同期が完了しました』


『初めましてオニキス様。これからオニキス様の転生人生をサポートする〝チュートリアル〟です』


『まずは最初のステップへお進みください。クエストを発注します』


 すらすらと文字が流れ、次いで、これまでとは違った画面が出てくる。




【クエスト発生:チュートリアルの〝開始〟ボタンをクリックせよ】


「……はい?」


 なんだこれ。急に出てきて意味不明なこと言い出したぞ。


 まるでゲームのシステムメッセージみたいだ。


「どういうあれだ? サポートってことは……俺に協力してくれるのか?」


 訊ねるが返事は返ってこない。


 さっさとサポート開始を押せってか。


「……いいぜ。なにがなんだか解らないが、俺をサポートできるものならサポートしてくれ」


 半ば投げやりにウインドウ画面の開始ボタンをタッチする。


 直後、文字が切り替わった。




【クエスト達成:報酬をプレゼントします。上級スキル『上級剣術』を獲得しました】


「……?」





———————————

あとがき。


反面教師の新作!

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