第9話:竜の温泉旅行①
俺、
「今日こそは、来てくれるといいんだけどな」
もう何度も通った道。高速道路含め、最初は緊張したが、すっかり道も覚え、休憩ポイントもしっかり頭に入っている。
「そろそろ紅葉の時期だな……」
高速道路から眺める遠くの山が染まっていた。これから行く場所の周りは、さぞいい景色だろう。近くのSAに入り、トイレを済ませてコーヒーとアメリカンドックを買う。子供っぽいと思われようが、アメリカンドックは必ず買うのだ。
コーヒーをすすり、ケチャップとマスタードを付けたアメリカンドックを口に運ぼうとすると。――横合いから、何者かにつまみ食いをされた。
「…………久しぶりですね、パイロープさん」
「ひはひぶりー」
アメリカンドックの三分の一ほどをほおばりながら助手席に座っていたのは、赤い髪の女性――いや、竜。喉を詰まらせそうなのでコーヒーを渡す。
「あー美味しいこれ。もっと!」
「はい、どうぞ。お腹減ってるんですか? 何かいります? この辺色々売ってますけど」
「へー、ここは何? 商店街?」
「サービスエリアって言って……要は、車で移動するときの食事と休憩を取る場所、みたいな感じですね」
「ほうほう。……というかこれ! 車!? 買ったの!?」
自分が何に乗っているかを理解したらしく、驚きの声を上げるパイロープさん。
「ええ、実は。見せる機会なかなかなかったので、今日一緒に乗れてよかったですよ」
「ふーん……それは、私とドライブするため?」
にやにやと、笑みを浮かべるパイロープさん。こちらをからかいたいんだろうが、あいにくそういう段階は俺の中でもう過ぎている。
「ええ、もちろん。貴女と出かけるために、買ったんですよ」
「お、おう、そうなの。そりゃ、どうも……」
逆に気圧されたらしい。一応勝ったかな。竜に勝利の実績解除だ。ドラゴンスレイヤー。
「これからどっか行くの?」
気を取り直したようにパイロープさんは言う。
「ええ、行きたいいところがあって。パイロープさんも一緒に、と思ったんですが、時間って大丈夫です? その……時間そのものより魔力的な問題のほうがあるかなとは思うのですが」
彼女が別世界からこちらの世界に来るために、俺の持つ転移の魔法に干渉しているということなのだが、発動条件は煙草を吸っていること、となっている。喫煙中はその相手の世界にいることができるのだが、煙草というのは体への影響を考えると吸い続けられる本数が限られている。煙草を吸っていない状態で異世界にいるには莫大な魔力を消費するらしく、俺だと煙草を二本吸ってそのあと一分程度しか異世界にいられない。
「私今魔力結構あるし、まぁそもそも竜だから、割と煙草いっぱい吸っても平気だし、何とかなるよ。目的地まではどのくらいかかる?」
「大体、一時間くらいですかね……」
「なるほど。オッケー。そこまでお腹減っているわけじゃないから、あとそのコーヒー少しもらえれば大丈夫。時間がもったいないから出発しよう!」
ドライブ楽しみーとニコニコしているパイロープさん。
「わかりました。じゃ、シートベルトを。――そう、これです。こっちのルールなんで、よろしくお願いします。じゃ、行きますね」
多少の緊張感とそれを大きく上回る高揚感。――どうか、この時が、少しでも長く続きますように、と願って、俺はアクセルを踏み込んだ。
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