夫婦漫画はあらすじから ①
真っ暗な部屋でキーボードを打ち込む。タイトルとキャッチコピー、そして登場人物同士の関係。企画書に書いたものを着々と形にしていく。
付き合ってからの思い出も鮮明に覚えている。付き合って初めて行ったデート、初めてのキス。初めてのお泊まりだって忘れられない思い出である。最後のはやっぱり独占したいから書かないが、そのほかの事は鮮明に落とし込む。
いつも通りヘッドフォンを耳にして、曲を流しながら、キーボードの上の指がさながらタップダンスを踊る。
それが終われば次はもっと昔まで遡る。
それは俺と志那がこの道を一緒に歩み始める少し前。俺たちの物語のあらすじだ。
それば突然だった。
『このキャラクターすごいよねぇ〜』
『そうそう!特に…』
その話し声はとある小学校の教室で一人本を読んでいる俺の耳に届いた。ふと横目で見ると、そこには複数人の女子が数枚のイラストを見せ合っていた。数年振りだった。
「そのイラスト…誰が書いたの?」
俺が…対人恐怖症だった俺が人に話しかけたのは。
当時小学生5年生だった俺はそれまでのいじめから逃げるように自分だけの世界を作っていた。
自分だけの安全な逃げ場所。それが俺の場合はたまたま小説だっただけ。初めは同じような境遇の子が集まる場所がある事を知り、居場所が欲しくて行こうとも思った。でもそこは周りから【可哀想な子】とレッテルを貼られ、一種のコンテンツと化してしまっていた。だから自分だけの世界を作ったのだ。
その結果生まれたのがグロ表現が多いホラー系の小説だった。でもそれは一部ノンフィクションでもあった。実際にいじめで感じた恐怖を落とし込んだのだ。たとえそれが知られて周りから怖がられても、その執筆はやめなかった。
けれど、そのイラスト。今目の前の女子たちが持っているイラストは俺とは正反対だった。恐怖や憎悪ではなく安心や信頼、楽しさや明るさが落とし込まれている。
自分が怖がられていることも忘れて半ば無意識に俺はその子たちに話しかけていたのだ。
「私が描いたよ?」
怖がっている様子もなく、ただ純粋に小首を傾げて名乗りをあげたのは、当時俺のクラスメイトだった、志那だった。
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