夫婦漫画は新刊です‼︎

つい先日アイディアが決まった俺は原案を書き終えていた。今は印刷した原案を封筒に入れて編集者である河辺さんのところへ届けに行くところだ。


「OK貰えるかな…」


今まで少しの手直しはあれど、アイディア自体を蹴られたことはないが…いつまで経ってもこの瞬間はドキドキするものだ。


支度をし封筒をかカバンに入れ、家を出る。志那は昨日からネームを書くのに没頭して、今まで疲れを溜めていたのかぐっすりと眠っているため「行ってらっしゃい」が無いのは少し残念だが、「行ってきます」と小さく残し、最寄りの駅に向かう。


出版社までは電車で数駅…時間にすれば15分ほどでそう遠くはない。


電車に揺られながら自分が持っているカバンを見つめ、今後のストーリーについて考える。何せ俺と志那の仲だ…小学生からの付き合いということもあって話題はいくらでもある。


小学生の頃から志那は絵を描くのが好きだった。俺が中学に上がって小説の面白さに気づいて書き始めた小説に、初めて支援絵を描いてくれたのが志那だ。俺が大好きなアニメや漫画のキャラクターをたくさん書いてお互いの性癖を語り合ったこともあったな…


そうこう考えるうちに目的地に着いたらしく、少し大きな揺れが起き、止まる。改札を出て数分歩くと白をベースにした4階建てのビルが目に入る。その建物の3階に俺は足を踏み入れて行った。


「おはようございまーす」


ガチャリと部屋の扉を開け寝起きであまり出ない声をあげる。そこには数々のパソコンが並んだオフィスだった。パッと見ただけでも数人はパソコンと睨めっこしているのが見える。


「お!来ましたねー?」


するとやけに弾んだ声がどこからか返される。

探してみると慌ただしく書類を整理してこっちに来る河辺さんの姿が見える。


「原案まとまったんでしたしょ?向こうで見せてくださいな」


笑顔を浮かべながら告げてくる河辺さん。しかしその目は「やっと原稿できたんですか!」︎と言うより「これで私も解放される‼︎」と言う目だ。


「すみません…」


「?」


なぜだか無性に募る罪悪感に口からは謝罪が溢れていた。そんな俺に疑問符を浮かべつつも別室に案内してくれる河辺さん。その部屋に入り、両者椅子に腰をかけると俺は早速原案を提出する。


「お願いします…」


「はいよー」


それから数分後河辺さんは読み終わった原案をテーブルに置いて言った。


「なるほど…このラブレターを小説に、か…いいんじゃ無いの?」


「別にラブレターってわけじゃ…」


「どっからどう見てもラブレターなんだけど?モデルが誰だか一発でわかるし、知ってる分惚気話にしか見えないけどね?私には〜」


はぁっとため息をつく河辺さん。そんなにか…と思いつつも読者にモデルがバレることはないし恥ずかしいとは思わない。


「まあ斬新だし、人の恋路を見てニヤニヤするタイプの私からすると全然アリの作品だよー」


そう言って河辺さんはガサゴソこのとどこからかコンテストの応募用紙を出した。


「じゃあ ここにタイトルを描いてねー」


そう言われペンを渡された。


「わかりました」


タイトルはもう決まっている。俺と志那は今まで多くの事を一緒にやってきた。まだ結婚はおろか、付き合ってすらない頃の思い出も数多くある。そのどれもが小説に書きたいと思える楽しい思い出だった。だが…きっとこれからも、もっと多くの思い出を作れるだろう。


俺はペンを手にし、スラスラとペンを滑らせる。


【夫婦漫画は新刊です‼︎】


まだまだ結婚生活はばじまったばかりなのだから。

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