第1章 浸透する恐れ

第8話 授業

 学園生活が始まり、1週間が経つ。午前に4コマ、そして午後に2コマの授業をしてから一日が終わる。午前は座学、午後は実技と言った形なのだが...ツヅリにとってそれはとてもつまらないものだった。


 ツヅリは3年間、王城の書物を読み耽っていた。そこで得た知識は学園の授業を遥かに超えるものだ。今更知っている知識を改めて言われても面白くない。それに教師の説明は生徒向けに作られている。だからこそより簡略化しており、詳しく説明されない。そこで間違えることもあった。

 そして実技の方もなのだが、体術に関して、貴族もいるからだろう、怪我をしないように少しだけ抑えられている気がする。

 ツヅリはシスティアに頼んでストリア王国を守るため結成されている騎士団の訓練を見たり、参加していたりした。そこの訓練は大人、それも王国を危機から守るような訓練をしているのだ。学園の授業よりか遥かにレベルが高い。

 そして魔法の授業、こちらはまだましという感じだった。魔法の知識はあるが、実際に放つことはあまりしていなかった。まあ1年ということもあるのだろう、簡単な魔法しか使わせて貰えなくて自分がやりたいことをやらせてくれない。


 唯一、ツヅリが気に入ったのは放課後にある。放課後ならこの学園にある訓練場を使える。まあ許可証が必要なのだが。その手続きが面倒くさかったものの、様々なことが出来るので満足していた。


(はぁーつまらない。)


 昼の休憩時間、ツヅリはそんなことを考えていた。今は昼食を取っている。ツヅリはせめてもの暇つぶしということで弁当を作っていた。

 そんな中、ツヅリは水をかけられていた。


「すまんな、ツヅリ。手が滑った。」


 声のする方向を見てみる。赤い髪が威嚇とばかりに逆だっている。生徒、いや貴族の中では珍しく体を鍛えているのか、その強さが伺える。彼はグロリア、最近ツヅリにちょっかいを出してくる男だ。

 そう、ツヅリは様々な分野でその才能を遺憾無く発揮していた。そして平民の分際で王城で暮らしていたというのが気に入らない。それに何よりも...。


「あ!ツヅリ、大丈夫!」


 昼食を食べ終わったのか、スイが駆け寄ってくる。持っていたハンカチを取り出し、ツヅリが濡れた部分を拭いてくれる。

 スイは美少女だ、それに加えこの国の姫ということもある。そのスイが何かとツヅリと仲が良い様子が多かった。ツヅリは周りのものに嫉妬されていた。

 貴族にはそういった面、平民にも同じ平民にあるにも関わらずに王城でくらいしていたというのが気に食わないのだろう。


「ああ、スイ、もう大丈夫だ。」


 ツヅリは濡れた弁当を食べ始める。別に弁当が濡れていようがそうでなかろうが味なんて昔から感じていない。

 だがそれはスイを無視したとも捉えられたのだろうか。それにスイを呼び捨てすることが許せないものたちはツヅリを睨みつけている。

 そんなことは知っていても正直興味のないツヅリ、そんなことに気づかないスイはツヅリの隣に座る。


 このような日々が続く中、転機は訪れた。それは実技のための午後の授業だったのだが、いつも手ぶらだった先生が紙の束を持っていた。


「よう、お前ら!実はそろそろダンジョンを体験してもらおうと思ってな。今から説明するからこの紙受け取ってくれ。」


 知識としてダンジョンの情報はある。だが入ったことは無い。ツヅリは新たな興味を持ち、微笑むのだった。

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