第5話 旅立ち
綺麗な金髪を2つに結び、青いつり目の瞳が特徴的な美しい女性が馬車に乗ってとある村に出向いている。彼女はストリア王国第二王女のシスティアだった。
目の前には護衛の男が1人、座っている。白銀の鎧に身を包んでおり、腰には立派な剣が携えられている。短髪の髪は後ろに流していて野性的な顔立ちの男は、ルドルフと呼ばれる男だった。
「しかし姫様、いくらなんでもあなたが出なくても良いのでは?」
「いいえ。私はストリア王国の国内は1度見るべきだと思っていたの。」
彼女たちの目的は視察だった。システィアは正義感が強く、人一倍国民のためを思い行動に移す。だから王都以外の村にも目を向けたかった。その村人たちも幸せにしたかった。
今向かっているのは、山奥にある小さな村、それも名前もつかないようないわば集落みたいな場所だった。
時折、その村の村人が王都を訪れるので存在自体は知っていたのだが、実際に訪ねたことは無かった。
「そろそろ見えるはずですよ」
馬車の御者が合図を出してくれる。馬車から村の様子を見てみたが、どこか静かな雰囲気だった。いや静かすぎるのか...。とにかく降りて確認する。隣にはルドルフが立っている。
「姫様。この村、血の匂いがします...。」
ルドルフの警戒のレベルが上がる。それを見てシスティアにも緊張が走る。恐る恐る中に入っていくと、そこかしこに血痕が見えた。
「これは...。誰かいませんか!」
システィアが大声で叫ぶ。だが返事は帰ってこない。もしかしたら村人たちは野盗に襲われて殺されてしまったかもしれない。
だがどこにも死体は見つからない。
「姫様!あれは...村人では?」
ルドルフが人影に気づいて指を指す。システィアが指を指した方向を見てみると、1人の少年が座っていた。髪が白く、目元まで隠れている。だがその髪の間から覗かせる瞳には光が灯っていないように思える。
システィアたちが駆け寄ると少年は立ち上がった。
「よかった!生きていたのね。あなた名前は?他の人達は?」
少年には怪我がないか確認しつつ、質問する。すると少年は一つ一つ答え出す。
「僕はツヅリ、他の人は山賊に殺されたんだ。僕は隠れていただけだった...。」
少年の境遇を聞いてシスティアは悲しく、悔しく思う。こんな幼い少年がこんな瞳になるまで追い詰められたのだ。自分がもっと早く来ていれば村人は助かったのかもしれない。
システィアはツヅリを優しく抱きしめる。
「もう大丈夫です...。私たちと一緒に王都に行きましょう。」
せめて、せめてこの子は立派な大人になるまで育てよう。それが彼女の責任だと思った。王族として民を守れなかった責任だと。
そんな責任を感じることは無いのに彼女は勝手に感じてしまう。それが彼女の良いところでもあった。元凶は目の前にいるのだというのに。
「僕を王都に連れてってください。」
「もちろんです。」
ツヅリは笑顔になる。その子供らしい笑顔にシスティアは嬉しくなった。だがそれを見ていたルドルフはなんだか嫌な予感がしていた。
(まだ幼い子供だ。記憶が曖昧な所があるのだろう。)
相手は子供、自分の考えすぎだとルドルフは考えるのをやめてしまった。彼が悪魔だというのに。
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