第4話 村の壊滅

 ツヅリが外に出るともう深夜の時間だった。あれから3日、一応扉の前に出かけてくるという貼り紙を貼っていたので訪ねてきた村人はいなかった。

 ツヅリは精神干渉魔法の準備を始める。この魔法は食人の記載のあったストリア物語に書いてあったものだ。

 精神に異常をきたし、目の前にいる人間を襲ってしまうという魔法、おとぎ話であったため本当に行えるのかは定かではない。

 だが試してみる価値はありそうだった。そのためにまずは人の血を用意する必要がある。それに誰かに逃げられては困る。ツヅリは村の端に立つ。


「今ならできるよね。」


 ツヅリは魔力を手のひらに集中させ、地面に手をつく。


「アイアンドーム」


 すると地面から分厚い鉄の壁が創り出される。鉄の壁は段々と伸びていくとそのまま村を覆うように閉じた。一切の光が入ってこない空間、だが誰もが寝ている時間、その異変に気づかない。


「はぁ、はぁ。やっぱ疲れる。でもまずは...キャット・アイ」


 もう1つの魔法、それは夜目が効くようになる魔法、村で生活する際に初めに教わった魔法だ。

 ツヅリは近場にあった家の窓をよく見てみる。あそこは確か一家で暮らしていたはず。今の時期は夜風が気持ちよく、窓も開いていた。


「フライ」


 ツヅリは空を飛び、窓の中から家に侵入した。中には家族がいた。父、母、息子、そしてまだ産まれたばかりの赤ちゃんの4人家族だった。4人はぐっすり眠っていた。


(うーん、4人一斉に殺すの難しいよなぁ。)


 だから1番持ち運びの簡単そうな赤ちゃんの口を塞いだ。泣かれても困る。すぐさま、ツヅリはその家の屋根に移動した。


「君で成功すればいいんだけど...」


 ツヅリは赤ちゃんの喉にナイフを突き刺した。赤ちゃんは声を出すことも、楽しい思い出もないままその短い一生を終えてしまう。


「えーと、確か...サニタス・ヴィクティム」


 赤ちゃんの死体に魔力を込めながら魔法を唱える。すると死体から何か赤い煙が生み出されていった。


(あれ。この感じ...)


 結論から言うとツヅリは魔力を使いすぎてしまった。ツヅリの意識はそこで途切れてしまった。


 ツヅリが目を覚ましたのは、子供の悲鳴を聞いた時だった。ツヅリはもう1度魔法を発動して夜目が効くようにする。

 下を見ると赤い煙が充満している。それにそこら中に村人の死体も転がっていた。でも子供の声が聞こえたということはまだ生きているものがいるということ。ツヅリは魔法の発動のため使用した赤ちゃんの死体を投げ捨てると、声のした方向に飛んで行った。


「お父さん!しっかりして!」


 子供がおそらく父であるだろう男性に声をかけていた。だがその男性は返り血で真っ赤に染まっており、目が虚ろだ。ツヅリの魔法がしっかり作用していたのだろう。


(でも子供には効かないのかなぁ。)


 ツヅリはその子供の前に降り立った。


「ツヅリ!助けて!お父さんが...」


 涙を流しながらツヅリに助けを求める女の子、だがしかし、彼女の名前はなんだったのだろうか。遠ざけられた記憶はあるが、興味がなく、正直少女Aくらいにしか思っていなかった。


「お父さんは無理だよ。ウィンドカッター」


 無情にも風の魔法でツヅリはその父と呼ばれた男の頭を切り飛ばした。その姿を見て少女は号泣する。


「なんで泣いてるの?」


 ツヅリにはわからなかった。たとえ血が繋がっていたとしても彼は襲ってきたのだ。むしろ助かったことに喜ぶべきだ。


「だってー、だってーーー!」


 泣きじゃくる子供、その姿が鬱陶しかった。だからツヅリはナイフで少女の足を刺した。


「きゃぁ!!!!」


 少女の悲痛な叫びが辺りに響き渡る。泣きながらツヅリを見るが、その顔を見て少女は泣くのをやめてしまった。


「な、なんで...笑ってるの?」


 ツヅリは笑っていた。自分でもわからなかった。だからツヅリは自分の表情について考え始める。


(笑ってる。楽しい?何が楽しいんだ?この状況?確かに魔法が試せて楽しいけど...ああ、そうか)


 それは大好きだった母の顔、ツヅリを恐れ、絶望したあの顔を思い出した。


「その顔、僕はお母さんを思い出せるんだ!」


 感情の乏しいツヅリが初めて興奮したように叫ぶ。そしてそのまま、少女の喉元を掻っ切ったのだった。

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