第22話 詩織の恋愛
美香からの返事がない。
私が大学受験の話を振ったからなのだろうか。
だからそんな私に嫌気がさして「いなくなったのだろうか。
「はあ」
私はため息をつく。携帯に書き留めている下書きには「私が嫌いになった?」という下書きメモが残っている。これを送りたいけど、重い女と思われるのも嫌だ。
まさか気付いていないなんてこともないだろうし。
美香は何で返事を書かないんだろう。
カキーン!!!
グラウンドでは今日も野球部が快音を飛ばしているようだ。
この学校のエースは佐々木
それを聞くと、中学の時を思い出す。
確かあの時野球好きな人に告白されたんだっけ。
まあ、断ったけど。
ただまあ、生きる世界が違う人だ。
じっと見てても仕方がないという事でクラスに戻る。
クラスに戻ったところで、友達はいないんだけど。
美香とずっと一緒にいた弊害か、友達の作り方が分からなくなっている。
前の学校ではあんなにも友達がいたのに、いまだに美香のことを引きずっているのだろうか。
はあ、どうしたらいいのだろうか。
美香にこんなに会いたくなるなんて思ってなかったな。
「なあ」
そんな時、私は話しかけられた。
「俺と付き合ってくれ」
え?
完全に告白じゃない?
ねえ、なんでそんないきなり。
意味が分からない。
いや、私は昔告白されたことがある。その時は断った。
美香と一緒に遊ぶ方が楽しかったからだ。
佐々木君。先ほど住む世界が違うと言ったのにまさかこんなことになるとは。
「えっと、」
「俺はあなたの顔を見た瞬間一目ぼれをしました。その綺麗な長髪、その凛とした目、そしてその筋力。詩織、俺は君のことが好きだ」
詩織と呼び捨てにされた。
いや、それは置いといて、この告白を受けるべきかどうかは決まっている。
「お願いします」
私はその告白を了承した。美香がいない悲しみを恋愛で埋める。
いいじゃないか。
そしていつか美香と再会した時に見せてやるんだ。
私の彼氏だって!!
そして、私は彼と付き合うことになったのだが、
互いのことを知らな過ぎて、何を話したらいいかわからない。
とりあえず彼の家に来たのだが、ほんと―に、何を話せばいいのだろうか。
「俺の事は知ってるよね」
「うん、エースだよね」
だからこそ、夜遅くなるまで待つ羽目になったのだが。
「そして、甲子園に出るっていう」
「そう、俺はエースだ。すげえだろ、この前千葉球団のスカウトに話しかけられたんだぞ。これだと、プロ確定かもな。しかも、俺はこの前の試合なんて一人で投げ終え、打っては四打数二安打一打点で、甲子園決勝を買ったんだぜ、すげえだろ」
「す、すごいね」
「そして俺はプロに入った後、チームのエースとなって数十年優勝のない球団を優勝に導いて、そしてメジャーに行くんだ。そこで、活躍してあの有名な今成茂樹投手みたいにサイヤング賞を取って活躍するんだ。そのために今は頑張ってるわけなんだよ」
「へえ」
私は野球のことは知っているけども、常に試合を折ってるわけでは無い。
まあ。一般的な女子よりは知っているだろうけど。
「それでな、俺は――」
話し長くない?
まあ、私も結構長い方だと思うけど。
それで美香を困らせたこともあるし。
でも、これは異常な長さじゃない?
そろそろ聞いているの疲れてきたんだけど。
これ、終わりまで続くの?
でも、今日はとりあえず我慢だ。
美香がいなくなった今私の心の穴を埋めてくれるのはこの人なのかもしれないし。
そして、
「俺と一緒に甲子園に来てくれ」
と、言われた。甲子園、一回だけ行ったことがある気がする。
私に告ってきた人の雄姿を一応目にしとこうと思って来ただけだ。
普段はテレビで見たいrはするが、中々現地に行こうとは思えない。
お金は出してくれるという事で、まあ言ってもいいという事になった。
別にみるのは構わない。私も体を動かすのは好きだから、必死に戦っている人を見るのは好きだ。
未だにあの人のことは、好きに離れていない。でも、戦っているその雄姿を見れば私の心も動くかもしれない。
そしてあっという間にその日が来た。
甲子園に来るのは三年か四年ぶりだ。だけとやはり凄まじい熱気だ。
互いの熱がぶつかっている気がする。
そんなことを考えているうちに佐々木君はもう一イニング目を終わらせていた。
すごいなあ。
流石プロ注目ともあって圧倒的だ。
そして試合は投手戦で進んでいく。
そして、二イニング目、いきなり佐々木君の打席が来た。
碁盤ピッチャーという事らしい。
彼は打席に立ちバッドを軽く振り回すと、一気にフル。
空ぶりだ。
だが、その次、二球目を捕え、左中間を破るツーベースヒットを放った。
「すご」
私は思わず呟いていた。
私は野球をやったことはある。
だからこそ、先程の球がいかに打ちづらいかはよくわかる。
だが、そんな球をあっさりとはじき返す。
見事としか言えない。
そして、見事に、本塁に帰り、一点を先取した後、その虎の子の一点を守り抜き、チームは勝った。
佐々木君だけの力で勝った。
私は感動した。
試合後すぐに彼に「すごかったね」と送る。
返事は返ってこない。
まあ、忙しいか。
そうだと、その瞬間に美香のことが思い出された。
「あの子に送るか」
そう呟き、メールを送る。
だが、そのメールはエラーが出た。
「このメールアドレスは存在しておりません」
そのメールを見た瞬間崩れ落ちた。
嘘でしょ?
「もう美香とは連絡が取れないってこと?」
その事実は私を絶望させるのに十分なものだった。
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