第17話 詩織と登校
そして翌日。私と詩織は手をつないで学校に行った。一時期からかわれたりしたから、詩織に手をつなぐなと言っていたのだが、今は別にみられても構わない。
「そう言えば詩織は引越しの件って私以外に伝えてるの?」
「伝えてないなあ。たぶん。あ! 真由子には伝えたよ」
「ということは、学校では私以外知らないってことだよね」
「いや、でもあの時の美香の態度でたぶんみんな分かったと思うよ。だからたぶん訊かれる」
「そしたら詩織はどうするの?」
「言うに決まってるでしょ! 美香だけ特別扱いは出来ないからね。……残念でした!」
詩織は舌を出した。
「いや、私は別にいいけど」
ただ、詩織といる時間が少なくなるのは少し嫌なだけだ。
「でもなあ学校嫌だなあ」
いつもの詩織だ。普通モードに戻りやがった。
「私に学校行かせる気にしてくれない? それか私を連れ出すか」
「なんで私がわざわざそんな事しないといけないの?」
「だって、行きたくないんだもん」
「はあ」
そして私は、美香を連れて、家の方に……ではなく学校の方へと向かって行った。
「美香! 私の言うことに付き合ってよ」
「ああ、いいね。そう言うの詩織らしさがあるよ。でも、学校は行かなきゃダメ。お母さんに怒られるよ」
「美香のけちい」
そして学校へと到着した。
「おはよー!!!」
そう言って詩織は大声で叫んだ。
「「「おはよう!!!」」」」
そう周りの人たちが次々に言う。
悔しいことに詩織はこの高校でかなりの人気がある。
……私以上に。
しかも詩織は男子にモテる。モテまくってモテまくる。
詩織は小学生の時に比べて、かなり顔がよくなってしまっている。
私も詩織よりモテたいのはそうなんだけど。
そんなことを考えていると、「どうしたの?」と、詩織に背中を軽くたたかれた。なんとなく悔しい。
たぶん、「おはよう」と言ったのが詩織じゃなく私だったら一人二人しか返事してくれなかっただろう。
むむむ、わたしだって頑張っているのに。
だって、……私は勉強できるし、ゲームも上手いし。
詩織と共に席に移動する。
「美香、もしかして嫉妬してる?」
「嫉妬してない!!!!」
いや、嫉妬してないわけではないけど。
「私の親友は美香だけだから」
そう耳打ちされた。嫉妬ってそっちの嫉妬なの!?
それは別に疑ってはないんだけど……
「てか、引っ越しの件は?」
「あ、そうだった」
と言って詩織は息を吸って、
「みんなー! ちょっといいたいことあるんだけどいい?」
「良いよー」
「じゃあ言うね。この前の美香の感じで薄々気がついている人もいると思うけど、私引っ越します」
そういった瞬間一斉に顔がこちらを向いた。
「それってどういう……?」
「シンプルに父親の転勤」
そう、軽い口調で言った。
「あ、美香にはもう話してるから。それがこの前のやつね」
「ああ、あの大林さんが教室から飛び出したやつね」
「そう、あれあれ。あの時の美香かわいかったよ。例えばねえ」
「詩織、やめて」
そう、詩織の口をふさぐ。
「何ふんのよお」
詩織はわめくが、私は必死にその口をふさぎにかかる。話されてたまるか!
「まあ、兎に角詩織、話したら殺すからね」
「殺すとか言ったら嫌だよ!」
「大丈夫、話さなかったら殺さないから」
そう、耳元でささやく。これで大丈夫なはずだ。ということで、口元を抑えていた手をそっと放す。
「じゃあ、話すね」
「馬鹿!!」
そう、頭をごづく。
そしてそんなやり取りは、先生が教室に来たことで終わりを告げた。
「えーここはこうなので」
そんな先生の言葉を聞きながらいつもと同じようにノートを取る。
詩織はいつものごとく、ノーとなんて取らず、て遊びをしている。全くもうと思うが、こんな日々ももう終わりを告げようとしている。こんなしょうもないことが、私たちの最後の一週間だと思うと、なんとなく、なんとなくだが、感慨深いものがある。
まるで私が転校するみたいだ。そんな感じがする。……実際に転校するのは詩織だというのに。
そんなことを考えていたからか、手が止まっていた。
いつの間にか先生が消そうとしているのにまだ描き切っていない。
そして私は必死で書き進める。先生が消す前に。
授業中にいやに緊張したからか、変に疲れた気がする。
詩織の引っ越しの件なんて忘れ去りたいのに、どうしても考えてしまう。
だが、そんな私の変な感情を知りもしない詩織はどんどんと私に話しかけてくる。
詩織のやつ、私の気も知らないで!! と思うが、よく考えたらこの方が気が楽だ。
はあ、こんな日々ももう終わりを告げようとするのか……。やだなあ。詩織と離れたくないよ。
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