第14話 人生ゲーム

 翌日。詩織は元気よくやってきた。朝六時に……


「流石に早すぎない? てか、こんな早くにピンポンを何回も鳴らさないでくれる?」

「少しくらい早くてもいいでしょ?」

「早すぎなのよ。詩織に限っては」


 朝、六時はもう殺意がある。てか、正直言って眠いのに。確か前にもこんなことがあった。詩織が朝一番に来た日が。あの時は本当に殺意がわいた。殺そうかと思ったくらい。


 今は殺意沸いてないかと言われたら否定しなきゃならなくなるけど。


 そして、家に招き入れたのち、私はテーブルに頭をのせて、俯いた。


「どうしたの? 眠いの?」

「眠いよ。詩織のせいでね」


 詩織の行動は予測できない。おそらく著名な哲学者でも、メンタリストでも経済学者でも。だからこそ、朝こんなに早くに来るという可能性を考えなくてはならなかった。本当、高校生になっても詩織は全く成長しない。


「はあ、せめて九時に来てよ。来るんならさあ」

「だって早く遊ばなきゃ損でしょ! それでさあ、人生ゲームやろうよ! 二人で」

「えー今から?」

「前も遊んでたじゃん。勉強の合間に」

「まあそうだけど」


 過去変




 まあそう言うわけで、詩織が勝手に私の棚から散りだしてきた人生ゲームをやることになった。


「じゃあさっそく!!!」

「とはいえ、まだ6時半よ。6時半に人生ゲームって、頭死んでるんだけど……」

「大丈夫。人間ってやろうと思ったら行けるから」

「そもそも明日学校なんですけど」

「それはごめん。後で昼寝しよ」


 という訳で人生ゲームが始まった。正直言って眠い。今すぐベッドに戻って寝たい気分だ。だが、今詩織を追い返したら一週間後の私はきっと後悔する。それが嫌だから今は詩織に従うのだ。


「じゃあ、私先行ね。行くよー!」


 ルーレットの結果先行になった詩織が元気よく言う。正直、悪いマス引いてほしい。てか詩織を絶望させてほしい。ムカつくし。


「やったー! 医者だ。私インテリだ」


 殴りたい。この笑顔。たぶん、むかつくのは私だけじゃないでしょ。皆むかつくでしょこの女。ていうか誰に向かって話しかけてるんだろう私。


 そして、私もルーレットを回す。すると、五が出た。


「教師かあ。どしよ」


 教師、このゲームでは所謂安定職に当たる。給料は安くも、高くもない。


「教師か、美香にあってるね!」

「そう? まあ詩織よりは絶対にあってるけど」


 詩織に関してはそもそも勉強できないし。


「てかさ、私医者似合ってない?」

「うーん。患者医療ミスで殺しそう」

「ひど!」


 まあ、そんな顔輪をして、そんなに悪くないし、教師になることにした。


「眼鏡かけてよ。美香」

「私眼鏡持ってないから」


 そして、どんどんゲームが進む。だが、違和感に気づいた。


「なんでそんな運がいいのよ詩織!」


 そう、詩織の運が良すぎるのだ。小学生の時にやったあのゲームでは詩織運悪かったのに(ギャンブル以外)。詩織をぼこぼこに叩き潰したいのに、詩織との金額の差がどんどんと増えていく。ああ、嫌になる。眠いからイライラするし。


「私も負けないから!」


 と、やけになる。詩織には絶対に負けたくない。それが今の私の原動力だ。


「さあ、やってみなさいよ。美香ちゃん」

「ちゃんつけムカつく!!」


 こうして絶対に負けられない戦いが始まった。


 私の取る先方はこれだ。とにかく、良いマスを凝視して、そのマスに行くことを祈る。それだけだ。何しろ、運ゲーだ。実力が絡む要素なんてほとんどない。そう、祈るしかないのだ。


 そして、良いマスが来ることを祈ってる私を裏切るように、良いマスはあまりこなかった。別にその分詩織に良いマスが来ているわけでもないけど、私はとにかく祈るしかない。

 最高のマスが来ることを。


 そして、その祈りが届いたのか……


「美香、イイマス来てるじゃん。いいなあ」


 そう私に来たマスはこれだ。300万円もらえるマスだ。もちろん対価はない、そうまさに無償でもらえるのだ。こんなうれしいマスはない。まだ、まだ500万円の差があるけれど……


「でも美香には負けないからね」

「私も詩織には負けない良い」

「まだ500万円差があるのに?」

「それはすぐにひっくり返すから」

「えー本当に?」

「本当に」


 そして詩織が次のルーレットを回した。すると、出たマスはマイナスマス。そう、200万円失ったのだ。


「詩織ちゃん」


 さっきの詩織の真似して嫌な感じで言って、


「もう300万円差だね。もう近づいて行ってるね」

「ムカつく!」

「それが私が感じていたことだよ。この感情を知れてよかったね。詩織」


 何だろう。楽しい。この煽りあう感じ。これこそ私と詩織と言う感じがする。最後にこんなことできてよかった。そうまさに感じる。


「ねえ、早く回してよ」


 そんなことを考えていると待ちくたびれた様子を見せた詩織が私をせかしてきた。そうだ、今は私の番なんだった。


「今、回そうとしてたんだから!」


 素直じゃない私はそんなことを言った。そんなことはないのに。ただ、私が「あ、ごめん忘れてた」なんて言うセリフはこの二人の間に不要だと思う。


 そして、回した結果、隣の人と家を交換するマスに止まった。これは……うん、詩織がどんまいだね。

 ちなみに私は二〇〇万円の家で詩織は五百万円の家だ。これだけ考えたら、とんでもないことという事は分かる。さらにゴール時に五倍の値段で計算されるのだ。

 詩織はこれで千五百万円損した事になる。だが、逆に詩織の反応を見たいと小悪魔的な内の私が居る。さあ見せてくれ! 詩織!


「美香、もう一回回して良い?」


 詩織は図々しくも、やり直しを要求してきた。それがありだったら、医者になれてないかもしれない。てか、まず私こんなに不運な目に合ってないし。という訳で……


「なしに決まってるでしょ!!!」


 と言い切った。


「おとなしく運命を受け入れてよ」

「……はーい……美香にこの豪邸住まわれるのか。なんかやだなあ」

「おとなしく私に家を明け渡しなさい、そしてこのマンションに住みなさい」

「はーい!」


 とは言っても建物の上の旗を交換するだけなんだけどね。


「さあ、覚悟はいい? 逆転勝利して見せるから」


 と、詩織を指さして言い放った。これから詩織の番はこない。永遠に私のターン。詩織との久しぶりの人生ゲームは私が勝ってみせる!!!!


「さあ、飼い犬がテレビに出る五大萬もらう!!!」

「ああ、ずるーい」

「さあ、これから追いついていくよ!!!」


 そして詩織は百万円失うマスに止まった。


「なんでよ!!」

「日頃の行いじゃない?」

「それ前も言ってたよね」

「だって詩織が横暴だし我儘だから」

「言いすぎだよねえ。それは」

「……」

「何か答えてよ!!」


 そして私のぼろ勝ちで終わった。

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