第13話 ドッジボール2


「暇だ」

「仕方ないよ美香ちゃん」


 優しいことに、真由子が慰めてくれる。でも、私の気持ちは晴れない。


「うう、だからドッジボールは嫌だったんだ」

「まあでも詩織ちゃんみたいな元気な子に任せたらいいよね、元気に動くのは」

「そうだね」

「ねえ何話してんの」


 と、遠くから大声で詩織が叫んだ。


「詩織はゲームに集中して」

「えー私みたいな子がやってたらいいって言ってなかった?」

「うん。そだよ」

「ねえ詩織あてられるよ」


 そう、詩織の目の前にボールが飛んだ時に言った。


「そんなのよけられるよ」


 と、詩織は悠々と避けた後にそう言った。当たればよかったのに。後ろから来たボールを避けれるのかマジで分からない。


「だからいい話じゃないでしょ」

「いいよ暇ならしゃべろうよ」


 そこにまた詩織の方へとボールが来る。


「ほっと」

「また……避けた」


 なんでボールをよけれるのかマジでわからない。


「美香がゲーム出来るのと同じことだよ」

「同じかなあ」

「よっと」


 再び詩織はよける。


「注意をこっちに向ける作戦だったのに」

「バレバレだよ」

「くっそー」

「どうしよう美香ちゃん、詩織ちゃんにボール取られちゃったよ」


 そう、ボールを投げた真由子が言った。

「仕方ないよ、あいつは運動についてはバケモンだもん」

「そうだね」




「暇だー、もっとさー外野にも役割をね。くださいよ」


 暇で暇で愚痴を言うしかない。


「うんそれはそうだね」

「はー寝転ぶか」

「それはだめだよ」

「まあ冗談だよ、でもなんか外野ってさ、蚊帳の外みたいな感じがする」

「まあ運動できる人に適当にやってほしい感じがするね」

「呼んだー?」


 詩織がこっちに話しかけてきた。


「詩織くんな、集中してて」

「なんでよー」

「当たり前でしょ」

「えー」


 と言って、転がってたボールを詩織に向けて全力で投げる。


「おっと」

「なんで避けられるの?」


 相変わらずおかしい。


「背中に目があるから。冗談は置いといて、遅いの」

「私の球が遅いの?」

「十分遅すぎるよ」

「じゃあ私無理じゃん」

「ほかの人だったら当てられるかもしれないけどね」


 そして詩織はボールを投げる。あのボールの速さ、私の倍以上のスピードはあるだろう。相変わらず頭がおかしすぎる。


「美香ー外野増やしといたよ」

「私本位に考えなくていいから」


 そんなことを言ってしまったら、私まで悪役になってしまう気がする。ヒート役は詩織だけで十分なのだ。


「さてとまた一人倒しますか」


 そして詩織はボールを受け取ろうとするか前に入る。だが、周りの人たちはさすがに警戒しているのか、なかなかボールを放ってこない。それも当たり前だろう。私自身もこんな化け物にボールを与えるリスクを冒したくはない。


 ボールがビュンビュンと外野と自陣を行き来している。できるだけ詩織に与えないように気を付けながら。


「ねえ私やっぱり暇なんだけど、椅子とか持ってきてもいいかな、先生みたいに」


 そう言って向こうで椅子にくつろいでいる先生を見る。


「それはだめだよ、さすがに」

「だめかあ」


 暇だ。こんな試合を見ていなければならないのが暇すぎる。こんなのならもういっそ帰りたい。


「なんか詩織すごいね」

「そうだね」


 もはやこんなことしか口に出せないほど飽きている。


「早く終われー」


 私はそう心の中で念じる。


 そんな中ドッチボールの戦況はやはり詩織対大多数になっていて、私の願い通りに早く終わりそうだった。まあ、早く終わったら次のやつをやるだけかもしれないけど。


「うおりゃー」


 そう言って詩織はまたボールを投げてぶつける。全くなんでそんなに運動できるんだろ。私だって一回ぐらい無双したいのに。



「うおりゃー」


 そしてまた詩織はボールを別の子にぶつける。詩織のチームの子は可哀想だ。


「詩織ちゃん、私にも投げさせて」


 クラスメイトの博多涼子が頼んだ。たしかに詩織が投げすぎだ。


「えー、私が投げた方がチームのためじゃん」


 我儘だなあ。詩織は。


「そうだよ、詩織ちゃんばかりずるいよ。私たちにも投げさせてよ」


 他のクラスメイトたちも言い始める。


「分かったよ。あげるよ、あげたらいいんでしょ」

「なによ、その言い方は」

 詩織以外が投げるようだ。詩織の無双が終わるかもしれない。


「えい!」


 まずは涼子が投げる。


 しかし、そのボールは相手になんなくキャッチされてしまう。


「だから言ったじゃん。私が投げた方がいいって」

「そういうもんじゃないでしょ」

「詩織」


 私は声に出した。


「そんなことばっかりしてたら嫌われるよ」

「おお、よく言ってくれた美香ちゃん」


 涼子に感謝された。


「私も詩織のそういうところが嫌い」

「えー嫌いなんて言わないでよ」


「ねーえ、もう投げていい?」


 ボールを持った永原美緒が声をかけた。


「あ、そっか」


 詩織は状況を理解する。


「投げていいよ」


 だが、詩織相手に投げるのが怖い美緒はなかなか投げない。そしてしばらくの膠着状態に入る。そりゃあそうだ、詩織相手に半端な球を投げたら、すぐに跳ね除けられる。否、詩織がいる限り私のチームに勝ち目なんて無い。詩織をなんとかしないといけないと彼女は考えてるだろう。とか考えてるけど、暇だなあ。別に勝ち負けとかどうでも良かったわ。


「ねえ、どっちに勝って欲しい?」

「急にどうしたの? そりゃあ私たちのチームでしょう」

「でも、速く終わるんだったらどっちの方が買った方が良いかなって」

「でもまだ体育は二〇分残ってるよ」

「そうか、せっかくいいなと思ったらのに。でも、詩織に無双されるのはムカつくから詩織さっさとやられて欲しい」

「そうなんだ」


「頑張れ! 詩織以外!」


 私は大声で叫ぶ。


「何言ってるの? 美香」

「だって、詩織に夢想されるのムカつくじゃん」

「はあ? そういう理由?」

「うん。そういう理由。だからさっさと当たって」

「いーやー」


 そしてまた詩織は避けまくる。さっさと当たれば良いのに。


「ほい」

「えい」

「やあ」


 みんながボールを投げている。だが、それは詩織には全く届かず、数を減らされていく。


「えい!」


 別の子が投げたボールが外野を転々として、私の前に落ちる。


「チャンス!」

「え?」


 詩織は受けの構えを取る。だけど私が狙ってるのは詩織じゃない! 別の子だ!


「ありゃあ」


 ボールを投げて、そのボールが別の子に当たる。


「これで自分の陣地に戻って良いよね」

「うん」


 そして私は詩織の方を向く。やっぱり詩織に無双されてるのはムカつくのだ。親友の無双は私が止めなくてはならない。


「えい!」


 そのボールは私のところに行かずにほかの子に当たり転々とする。


「これで一対一だね」

「そうだね」

「ほら早く投げて」

「うるさいなー、ちょっと待ってよ」


 そしてボールを構える。


「イケー!」

「がんばれー!」


 見方から応援の声がする。


「こっちにパスを回せー!」


 応援していない人もいるが……


「よし行くよ!」


 ボールを投げる!


「ほい!」


 詩織はあっさりとボールを取った。うそでしょ。


「えい!」


 あっさりと負けてしまった。



「美香何やってるの?」

「ごめん、詩織に一矢報いることできなかった」

「私はそういうのはどうでも良いけど、調子乗ってた割にはなーって」

「それは言わないでよ!」

「まあでもよく頑張ったと思うよ」

「ありがとー!」

「ねえ」

「ん? 何?」

「カッコ悪くない?」

「もうイキんのやめよ」


 流石に反省した。

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