第7話 カートレースゲーム
「これで良い?」
「カートレース。もちろん良いよ」
これで、私の無双劇が始まる。サッカーやらドッジボールであいつに無双されてきたからこれくらいは許されるだろう。
「さあ、やるよ!」
と、カートレースゲームが開始された。
私が使うのはもちろん、詩織を圧倒的に叩き潰すためのスピードタイプのキャラだ。使い勝手は悪い分、とにかく速い。一週リードは少なくともやりたい所だ。
詩織にもう好き勝手はさせないために。私ももう、最近やっていないせいで、全盛期の実力はないが、詩織を叩き潰すのには十分だ。
そして、レースが始まった。そして、私の車は急スピードで走り出した。他の詩織のを含む十一キャラはその私のスピードにすぐに抜かされ、気が付けば私の背後には何の車も見えなくなった。ここまで来たら十分だろ。
「詩織、遅くない? 私もう詩織が見えないなー」
煽りだ。詩織に対する煽り。今までの積年の恨みを果たす時だ。私の持つストレスを全て詩織に擦り付けよう。
「美香早いって!!! 私のことも考えてよ」
「え? 何のこと?」
「白々し! 私は急な引っ越しで傷を受けてる乙女なのよ! 手加減くらいしてくれていいじゃない」
「……私もそれで傷ついてる乙女なんだけど。それに詩織はどう考えても乙女じゃないでしょ。この世にスポーツ好きな乙女なんていないでしょ」
「あ、言ったね。スポーツ女子に喧嘩売ったね。柔道日本一の人につぶされればいいんだ」
「その方は乙女よ。詩織は乙女じゃないけど」
乙女じゃないのは詩織だけだ。詩織は乙女であっていいはずがない!!
「何なのよ。その原理は」
「仕方ないじゃない」
そんなことを言ってるうちに私の車は詩織たちに半分以上の差をつけていた。
「ちょっと! だから速いって!!」
「…………」
「何か言ってよ!」
「三位だからいいじゃない」
「良くないって!!!」
詩織は相変わらず文句を言ってくる。気持ちがいい。詩織を圧倒してる感が出るし。それに、楽しい!
「はあ、結局ぼろ負けじゃん。私を楽しませる気はないの?」
「それはさっきの詩織にも言えるんだけど」
「私はサッカーで無双してもいいのよ。美香はだめだけど」
「相変わらずの差別じゃん」
「いいじゃん。てか、次は手加減してよ」
「これで手加減ってどうしたらいいのよ」
減速しながら走るとか?
「一周遅れか、アイテム使用禁止かその両方か」
「わかった。じゃあそれで」
と、次のレースを始めた。結局両方のハンデを背負うことになった。私としては、どっちでもいいけど。
ただ一つ思うのは、これで詩織に圧勝したら気持ちいいだろうなっていう事だ。それを目指してやっていくぞ。
「そろそろいい?」
詩織の車が、二週目のゴールテープを切ろうとしたときに言った。
「いいよ!」
詩織の許可を契機に、スタートした。アイテム禁止で追い抜かすのは難しいかもしれないが、それでも私の実力なら余裕で行けるはずだ!
そして、そのまま、私は猛スピードで猛追した。詩織を抜かして、私の実力を認めさせるために。
そして、二週目、私の車はもうすでに詩織の車を捉えていた。まあ当然の結果だ。今回詩織は調子が悪かったのか、最下位(十一位)を走っていたし。
「やばいって、美香」
「やばい? 私にとっては好機だよ」
「うざい。美香。これでもくらえ!」
そして詩織が私の方にアイテムを投げた。それは当たったらスピンする、追尾爆弾だ。別に私には大した障害にならないが、追尾型なのがむかつく。そうでなければよけれれるというのに。これにもよけ方がないわけではない、壁を利用したらよけれる。だが、ここでは無理だ。残念ながら被弾してしまった。
「残念でした。さらに私はこの無敵アイテムで成り上がらせてもらうね」
想像以上にアイテムなしと言うハンデは厳しい。ガードアイテムも使えないのだ。それに詩織はアイテムの力で超加速してしまったし。私も早く詩織を追いたいところだが、この車がスピード専門なせいで、立ち上がりが悪い。そのせいで、初速が出ないのだ。ムカつくムカつく!!!!
「うおおおおおおお!」
私は叫んだ甲斐もなく。詩織に、詩織を叩き潰したいその一心だ。
そして、並み居るモブたちを抜かして、六位に躍り出た。
「さあ、詩織、来たわよ」
「ひいい」
さあ、つぶすぞ。
「これでもくらって!」
と、詩織の車に体当たりする。スピード型のメリットとしてもう一つ、当たった時に哀宛の車を跳ね飛ばせるというものがあるのだ。これを利用して、詩織をレース場から叩き落した。これで、レース場復帰までに時間がかかるし、当然初速も落ちる。
その間に、一位に躍り出た。三週目の半分の時だった。
「もう私の負けはこないわね」
それがフラグだったのか、警告音が聞こえてきた。それは、一位の時にもっとも来てほしくないアイテムである一位追尾アイテムだった。他の車を無視して、一位の身を狙う爆弾であり、回避不能の爆弾。食らったらかなりのタイムロスになるのは明白。だが、避ける手段などない。ここは食らった後のことを考える必要がある。という訳で、唯一爆弾をよける方法、そう。コースアウトと言う手を取った。
さすが、爆弾もコースが今では追ってこない。それを利用したという訳だ。
そして私の予想通りコースアウトによるタイムロスだけで済んだ。
「やーい美香落ちてやんの!」
詩織があおってるが、気にしない。作戦の打ち出し、最後に勝てばいいのだ。
「美香、脱枷れてるじゃん。私ももう少しで抜かすからねえ」
調子に乗ってる詩織を今すぐにでも殴りたいところだが、ゲームで叩きのめす。すぐに最高速に達した私の車は詩織を猛追する。コースは最後のまっすぐに差し掛かるところだ、私はここですぐに詩織を抜かさなければならない、難しい注文だが、できないわけではない!
「行けえええ」
叫ぶ。詩織にだけは一位にさせるわけには行かない。そして、最後、ついに詩織を抜かし、一位でゴールした。
「詩織見て? ざまあ」
勝ったら次にすることは詩織を煽る。それだけだ。それを目標にやってきたのだ。これこそ至高の楽しみだ。
「美香、ムカつく!」
「え? 勝てなかった詩織が悪いんだよ」
「そんなこと言われても」
「え? 私はアイテム禁止と、二周遅れと言う好条件でやったんだよ。それでも勝てなかったのに、私が煽ったらムカつくっていうのおかしくない? 私は本心で煽っただけだよ」
一つずつ丁寧に詩織の嫌がる言葉を選びながら煽っていく。楽しい!これこそが至高の楽しみ。最高の気分。サッカーとかでおちょくられた私の恨みがどんどんと亡くなっていく。ストレスがなくなっていく。
「ねえ、美香って時々性格悪いよね」
「それは私も認めるわ。まあ詩織ほどじゃないけど」
「私は美香が時々小悪魔みたいに感じるんだよね」
「あ、確かに私小悪魔かも」
そんな他愛もない会話をして、詩織は自信の家に帰って行った。こんな日々もあと八日で終わってしまう。そう考えると、やはり涙がこぼれそうになる。詩織は嫌なやつだ、いつも身勝手だし。でも、この日々を大切にしたい。この最後の九日間を。残りの一週間を。
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