第8話 勉強会(過去編)


「詩織ー!」

「ひぃ」


 勢いよく向かっていく私に対して詩織が明らかにビビる表情を見せた。この顔が見れただけでも気持ちがいい!!


「昨日はよくもー!」

「いやいや昨日ちゃんと家帰れたでしょ、私ちゃんと郵便受けに入れたし」

「それはそうだけど、昨日結局五時まで家帰れなかったんだから」

「返せなかったんだから仕方ないでしょ。どこに行ったのかわからなかったし」

「えっとじゃあ、昨日いつ郵便受けに鍵入れたの!」

「えっと一時くらい」

「すぐじゃん!探す努力して!」


 まさかすぐに諦めていたとは。まさか昨日そのまま帰ってたら普通に帰れてたかもしれないってことじゃん。損した気分だ。


「だってめんどくさかったんだもん」

「言い訳になってない!」

「そうだ真由子もなんか言って」

「ええ急に!?」

「お願い」

「分かった」

「二対一でせめられるの? 私」

「うるさい」


 罪の重さを自覚して。


「えっと私は詩織ちゃんのおかげで勉強見てもらったから個人的には感謝したいぐらいだけど」

「ならいいじゃん」

「話最後まで聞いてください」

「ちぇー」

「美香ちゃんは結構ずっとと気にしてました」

「え? そうだったの、別に楽しくなかったわけじゃないのよ、ただ何時に家あくんだろうって思って」

「それはわかってるよ、だから詩織ちゃんは美香ちゃんに誤って」

「嫌だ」


 ええー。謝らないの?


「今のは謝る流れでしょ」

「いやなんか嫌だから」

「仕方ない、もう絶交するか」

「それは嫌だ」

「じゃあ誤って」

「ごめん」

「じゃあいいよ」

「じゃあ今日遊ばない?」


 急だな。


「それは無理。今日は家で遊ぶから」

「え」

「だってゲームやるとすねるじゃん」

「すねないからお願い」

「無理」

「そんなぁ、お願いします!」


 手を合わせてきた。


「無理」

「お願いしますって」

「土下座しても無理」

「そんなー今日どうやって過ごしたらいいの?」

「一人で遊ぶか勉強するか」

「一人で遊ぶのはあんま面白くないし、勉強は論外」

「論が言ってひどいな」

「仕方ないジャン嫌いなんだから」

「じゃあ教えてあげようか」

「嫌だ」

「えー」


 そんな光景を見た真由子が、


「美香ちゃんって詩織ちゃんのお姉ちゃんだったりする?」


 と言った。


「えっそうかな?」


 なんとなく嬉しい。


「誰が妹よ! てか美香はまんざらでもない顔をするな」

「どうかんがえても詩織ちゃんあやされてない?」

「子ども扱いするの?」

「私たち子どもじゃん」

「いやそうじゃなくて、小四ではないってことか」

「詩織はせいぜい言って小一ぐらいでしょ」


「三歳も年下!?」

「昨日一昨日のことを考えるとどう考えても小四の知能じゃないし、勉強できないし」

「いやでも美香だって運動能力小学一年レベルじゃん」

「そうだよ、それは仕方ないじゃん勉強とゲームできるし、天は二物を与えずだよ」

「どういう意味?」

「馬鹿にはわからないと思う」


 私だって最近覚えた言葉だし。


「誰が馬鹿よ」

「語彙力無いから」

「意味教えてよ」


 私のあおりに負けずねだってくる。でも、このまま教えるのもつまらないしなあ。


「もっと丁寧に」

「教えてくだせえ」

「よかろう」

「ははあ」


 詩織はまるで殿様の家来のような言葉を言った。何これ面白。


「天は一人にいくつもの才能を与えないってことだよ」

「じゃあ私は運動の才能があるから」

「運動能力だけで生きていくの大変だよ」

「別に私運動選手になるつもりないから」

「え? そうなんだ」


 意外だ。詩織には運動の道でしか生きていく道がないと思ってたのに。


「え? どういうこと?」

「いやスポーツ選手になりたいのかと思ってた」

「私も」


 真由子も同意してくれた。


「そんな簡単になれるものじゃないでしょ」

「じゃあなんでそんな将来に向けて楽観的なの?」

「小四でしょ私たち、楽観的でいいよね」

「いや勉強できないと将来大変でしょ」

「どっかの塾講師が言いそうなやつじゃん、小学校ぐらい楽しもうよ」

「まあそうだけど」


「そうだ! じゃあ友達ちゃん二人で勉強しよ」


 勉強にやる気がありそうな真由子を誘う。


「うん」

「え!?」


 詩織は驚いてるが、とどめとして、「詩織とは今日遊ばないから」と言い放つ。


「じゃあ嫌だけどいっしょ勉強する」

「嫌だったらいいよ。来なくて」


 サッカー無理やりさせられそうだし。


「いやぜひ行きます」

「勉強嫌なんじゃなかった?」

「一人でいるの暇だし」

「どんだけ私のこと好きなの?」


「だって昨日暇だったし」

「そういえば私以外こいつには友達いなかったな」

「いるし」

「まあいいでしょう、私の家に来る権利を与える、その代わりサボって外に連れ出そうとしたらもう本当に絶交だからね」

「うんわかった」

「絶対だからね」

「信用ないなー」

「信用するわけないでしょ」


 前科一〇〇個ぐらいあるし。


「うぅ」

「私は信用するよ」

「いやいいよ真由子、こいつを信用しないで」

「美香ちゃんひどくない?」

「ひどくないよね?詩織

「う、うん」

「ならよし!」





「お邪魔します」

「おじゃましまーす」

「さて勉強しよ」

「えー勉強は後でいいじゃん、遊ぼうよ」


 やっぱりか……。


「だから言ったじゃん。信用しないでって」

「それは外に飛び出すっていうことじゃ」

「そうだけどもうあそぼーっていうやつが集中持つとは思えない」

「失礼な! 持つよ。たぶんだけど」

「たぶんって」

「じゃあ絶対」

「はいはい」

「そんなことしてないでやろう」

「そうだね、この馬鹿はほっといて勉強しよう」

「ひどくない!?」

「さーてカバンからだそおー」

「しかも無視」

「まず算数からする?」

「うん」


「あのー」


 詩織が恐る恐る話しかけてきた。でも、


「はい」

「反応しないで」


 無視。


「あ、ごめん、そういうこと?」

「うんそういうこと」

「聞いてー」

「分数でいい?」

「う、うん」


 真由子も私の意図を分かったのか、詩織を無視する。


「遊びにいこっかなー」

「ねえあれかまってあげなくていいの?」

「いいの、私が楽しいから」

「ひどいね」

「まあね」

「自覚してるんだ……」

「日々のことの仕返しだし」

「まあ美香ちゃんひどいことされてるもんね」

「まあね」

「ねえ二人でこそこそ話ししないで」


 我慢が切れたのか、私の目の前に顔を置きながら言ってきた。


「どうしようかな」


 もっといじめたいなあ。


「いや仲間に入れて、そういうの傷つくから」

「うーんどうしようかな」

「そういうんだったら鍵盗むからね」

「大丈夫! 私が同じミスすると思う? ほら」


 鍵をポケットから取り出した。


「う、先回りされてたか」

「いつまでも同じと思わないでね」

「くそー」

「ははははははは悔しいか」

「くそー」

「二人共中二病がひどくないかな?」

「好きにやらせてよ」

「まあいいけど、勉強しようよ」

「確かに! 詩織べんきょうしよ!」

「うん」

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