第6話 カラオケ

「本当、あの一連の事件は酷かったよね。詩織」

「だって、帰ったと思ったんだもん」

「サッカーの方よ」

「あれはもう災厄に巻き込まれたと思って諦めて」

「もう!」

「でもあと一週間かー」

「そうだね、こんなウザすぎる奴でもいなくなるってなったらやっぱり寂しいよ」

「ウザすぎるって何よ!」


 詩織はその言葉を聞いて、プンスカとしている。とはいえ事実だから仕方がない。


「まあでも悲しむ事はないし、楽しもうよ。漫画とかでもたまにあるじゃん過去を見るより未来を見た方が良いってセリフ。だからさあ。もう大丈夫! この1週間で九年分ぐらいの思い出作ろうよ」

「そうだね」

「だから、今日泊まって行っても良い?」

「は?」


 急すぎない?


「もう美香のお母さんには許可取ってるから」

「そう言う問題じゃない!!」

「だったらさああの日みたいに泊まらなくて良いの?」

「それは違うけど」

「じゃあ決定ね!」


「という訳で泊まることになりました!」


 と、詩織は元気よくお母さんに言った。


「分かりました。ご飯は出来てるからね」

「久しぶりだ」

「詩織ー、またいっぱい食べる気でしょ?」

「バレた?」

「子どもの時からそうだよね。食べる時はめっちゃ食べるし」

「だってお腹減っては戦はできないからさ、いつも満腹食べた方がいいじゃん」

「詩織らしい」

「美香が小食なんだよーだ」


 私は別に少食なつもりはないんだけどなあ。


「それで明日どうする?」

「カラオケ」

「カラオケ?」

「そう、久しぶりでしょ。別に他の場所でもいいよ」

「いや、じゃあカラオケで」

「やったー!」




「かっらおけ、かっらおけ」

「詩織、はしゃぎすぎでしょ」

「そりゃあはしゃぐでしょう。美香との久しぶりのカラオケなんだよ! 盛り上がらないとソンソン!」

「詩織はほんと子供の時から変わってないよね」

「だって、三つ子の魂一〇〇までだから」

「詩織のくせに難しい言葉使わないでくれる?」

「差別だ! 美香ひどい!」


 学年最下位付近の学力なんだし、差別ではないと思うんだけどなあ。


「そう言えばさあ」

「ん?」

「結局ゲーマーにはならなかったよね」

「うん。結局仕事にする気にはなれなかったからね」


 あくまでもゲームは趣味でやりたいものだ。仕事にしたら楽しくなくなりそうで、仕事にはしなかった。

 動画配信者という手もあったのだが、それはゲーマーよりももっとやりたくなかった。とはいえ理由は単純に喋るのがあまり上手くないからなのだが。


「あの時はめっちゃやってたのにね」

「人は変わるのよ」

「あれ? 私の三つ子の魂百までを否定してる?」

「それで、今日は何を歌う予定なの?」

「無視? えっとアニソンかな? あのラスタンカードの主題歌の」

「相変わらずさあ。女じゃないよね」

「女だよ。女がカードゲームしたらダメなんて古い価値感だよ」

「古いかなあ」

「怒られるよ!」


 怒られるのって誰になのよ。まあでも最近そういうのうるさいし、まあそういうことかな?


「じゃあ有言実行で歌うね!」

「分かった」

「今引こう! 切り札を。圧勝しよう。絆の力で」


 すごいアニメっぽい曲きた。


「詩織、そんなアニメっぽいやつ歌わなくていいから」

「えー子供たちの間で有名だよ!」

「そんなわけある? ダサいよ」


 と、言い終わる前に二番が始まり、そのまま終わった。


「じゃあ次は美香ね。でも私に対してアニソンだめって言ってたから美香もそれ以外の歌ってね」

「はーい」


 と、私は曲を入れた。


「行くね!」


「手を取り合っています進もう。二人だからいけるよ。どんな場所だって無敵さ。一人ではいけないところでもさあ行こう……」


「美香?」

「何?」


 間奏中に詩織が話しかけてきた。


「美香もアニソンじゃん」

「私の場合はゲームソングだからいいの」

「いや、ゲームソングでもアニソンじゃん。血迷ったの?」

「血迷ったって何よ。いいじゃん」

「なら私もアニソン歌うから」


 そしてとにかくアニソンを歌いまくった。私たちなら当然のことであっただろう。まだ友達がこの場にいるのならまだしも。私たちだから。


「じゃあ次は公園でサッカーしよ」

「なんで?」

「私たちと言ったらサッカーじゃん」

「それは無理やりあんたに付き合わされただけだけどね」

「なに? 鍵奪っただけじゃん」

「もう何も言えない」


 あの時は本当に勘弁して欲しいと思った。流石にあれは普通にきつい。


「冗談だって。悪いと思ってるよあれは」

「本当に?」

「本当」


 と言い、二人で公園に向かう。私は正直言ってそこまで行きたくはないけど、あと一週間程度しか詩織といれないと考えたら行った方が良いと思う。


「行くよ」

「その前にちょっといい?」

「なに?」

「まともにやったらさあ勝てないからさあ、ハンデくれない?」

「えー今までそんなこと言ったことないのに」

「だって詩織も最後になるかもしれないサッカーがぼろ勝ちだったら嫌じゃない?」

「私は嫌じゃないよ。無双できるし」


 そう言えばこういうやつだった。


「それに、私たちは引っ越してもまた会えるよ。だって私たちだもん」

「そうね!」


 確かにそうね。永遠の別れになるとは限らない。私たちが連絡とりあえばまた会える日は来る。


「じゃあやろう」


 あれ、結局押し切られてハンデなしになってない? まあいいけど。


「行くよ!」


 と、詩織は思い切り、ボールを蹴りながら走っていく。それに私も追いつこうとするが……


「追いつけない……」


 そりゃあハンデなしだとそうなるわ。わかりきったことだし。


「少し走る速さ抑えようか?」

「ありがとう」


 と、詩織も速さを抑えたみたいで、なんとか勝負にはなる。

 だが、やはり素の力に差があるみたいで、ボールを容易くは奪えない。だけど、なんや感や言って詩織も若干は手加減してくれている。そのおかげでなんとか勝負にはなる。


「詩織、渡して」

「だーめ!」


 と、詩織は私の攻撃を必死でブロックする。


「渡してよ!」


 だが、やっぱり詩織は意地でブロックしてくる。


「なら!」


 と、体で体当たりする。もう正当法では奪えない。もう無理やりするしか……


「美香、ちょっと痛い」

「でもこうしなきゃとれないんだもん」


 と、もう無理やり詩織の体にしがみつき、奪う。


「反則! レッドカード!」

「知らないよ!」


 と、ボールを蹴ってかけていく。レッドカードとか公式試合じゃないし!


「返せ!」


 と、いつの間にか前にいた。詩織恐ろしい。


「返さないよ!」


 とは言うものの、もうすでに前にいる詩織相手に何秒待つのだろう。詩織の本気は恐ろしい。

 スポーツ選手ほどではないが、過去にスポーツクラブに勧誘されたことがあるのだ。もちろん断っていたが。


「えい!」


 と、詩織が私の足にあるボールを蹴り、向こうに転がり、詩織はそのボールに追いつき、足で止めた。


「これでまた私のボールだね」


 そう言ってニヤリと笑う。ムカつく。


「もう無理よ。降参。ゲームで勝負しよ?」

「そっちだったら私が負けるじゃん」

「一勝一敗でちょうど良いじゃん」

「分かった」


 と、二人で私の家に向かった。

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