第5話 サッカー


「はいパス」

「あっよっと、てそうじゃなくて!」

「鍵を返す条件は一つ私を満足させることね」

「このわがまま」


 私は昨日詩織の我儘に付き合ったのに。


「私を抜けると? 美香には無理だね」

「ッボール返して」

「無理だよ美香には」

「この中二病。本当に詩織が私にゲームで勝つぐらい無理だから!」

「それよりは可能性あるでしょ」


「ないって! 私体育の短距離断トツびりなのにクラストップの詩織に勝てるわけないじゃん」


「それは仕方ないよ。差があるんだから。」君は何年たっても私には勝てないよ」


 分かってるけど人に言われるのはむかつく……そうだ!


「詩織はゲームから逃げたけどね」


 これがある。


「うぐ」

「さあカギを返してもらってゲームの続きをしないか」


 サッカーなんて面白くない遊びなんかよりさあ。


「無理!、てかそっちも中二病じゃん」

「えー、ゲームから逃げた敗北者に言われたくないな」

「うるさい、外で遊べってみんな言うじゃん」

「そうだけど、それは一般論でしょ。義務じゃないんだから」


 別にゲームも立派な趣味だし、文句を言われる筋合いなんてない。それに、私なんかは勉強もできるし。


「難しい言葉使わないでよ」

「詩織が遊んでばかりいるから語彙力がないだけじゃない?」


 難しい話ではないはずだし。


「うるさい、ゲーム脳、私の方が運動できるからいいじゃん」

「運動できても将来には関係ないでしょ、スポーツで大成できるの1部だけなんだから」

「なんて現実的な、でもさあなただってゲームばっかじゃん、ゲーマーになるのも難しいんじゃないの?」

「勉強学年一七位」

「ぐはあ」

「これで分かった?学年273位」


 ちなみに学年に315人いる。つまり、詩織はほぼ最下位だ。


「でもでも、小学校の勉強できても、中学高校の勉強できなきゃ意味ないでしょ」

「でも小学校の勉強は基礎だよ、できなきゃ中学高校の勉強で困るよ」


 知らないけど。でも、そうでなければ小学校でこんなにみっちりと勉強させなんてしないはずだ。


「くっこの優等生め、でもこの瞬間だけは私のほうが上だから」

「あっくそ抜かれた。追いつかないと」

「無理無理このゲーマー兼優等生には」

「うるさい!」

「運動音痴には無理だよ」

「何を!」


「ぐええ」


 私は盛大に盛大にこけた。


「コケてやんの」

「うるさい、私は運動ができないの、仕方ないじゃん」

「開きなおった」

「うるさい、何とかしてカギを取り返してこっちのテリトリーに入れてやる」


 私のテリトリー……そう、ゲームだ。


「やだよ」


 ……とは言ったものの、サッカーボールを取れる気がしない。無理でしょ。こいつからボールを取るの。てかよく考えたら私がボール奪っても家に帰してくれる保障なくない?


「そういえば私の勝利条件って何?」

「私を満足させること」

「それ詩織の心によるじゃん」

「うんそうだよ」

「じゃあ物理的に取りに行くわ」

「サッカーは?」

「無理、鍵返せ!」


 手っ取り早くだ!


「ちょっとやめてよ、くすぐったいって」

「返せ」

「この子聞いてない、こうなったら」


 詩織は殴ってきた。


「いったーなにすんの」

「いやまとわりつかれてたから」

「結構いたいんだけど。頭はなくない? この優秀な頭を」

「こんな時でも自慢?」

「そうじゃない! 反省してんの?」

「いやしてないけど」

「もういい」


 そう言ってその場から逃げる。もう詩織なんて知らない。


「えっちょっと、え? え? え?」


 そしてその場に残された詩織はその場に呆然と立ちふせるのであった。





「もう詩織なんか知らない、2日連続でこんな目に合うのおかしいでしょ、何か悪いことしたのかっていうレベル、もう無理、てか帰りたい、お母さんは5時に帰ってくるって言ってたし、あと2時間半ある、暇だ、鍵があればなー


「あれ美香ちゃん」

「あっ真由子聞いてよ詩織がね鍵盗んで……サッカーしようと言って……それで……」



 と、ことの顛末を離した。


「ひど、それで家に帰れない状態ってこと?」

「そうなんだよね。頭殴られたのむかつくからあいつに会いたくないし」

「そっか」

「暇だー」

「私の家に遊びに来る?」

「え、いいの?」


 まさかの提案だ。暇な私にとってここまで良い申し出は無い。


「かまわないよ」

「やったー」


 嬉しい。その一言だ。神かよ。


「でもその時に私の用事に付き合ってくれると嬉しいな」

「どんな用事?」

「勉強教えて」

「え?」

「算数が無理すぎて」

「偉い!」

「え?」

「だって詩織だったらそんなこと絶対言わないよ。だってあの子数学出来なくても気にしないから」

「そんなこと言ったら美香ちゃんのほうが偉いじゃん、勉強できるし」

「いやいや私なんか偉くないって」

「謙遜しちゃって」

「そういえばもともと何してたの?」

「散歩してた」

「じゃ散歩はいいの?」

「うん。息抜きだったし。せっかくだから美香ちゃんを使おうかなって」

「オッケー分かった、行こう」

「ありがとう」


 その頃詩織。


 どうしたらいいの? 私は主人公が楽しいと思ってたのに、まさか逃げるなんて……。


「この鍵どうしよ」


 返したいけど今は合わす顔がない。


「はーどうしよ、そうだいいこと考えた」


 そう言い詩織は主人公の家に駆け込み、そしてカギを郵便受けに入れた。


「これで良し、かーえろ」


 そう言い詩織は自分の家に帰った。






「ここは四と二〇を約分してあげるともっと簡単に解けるよ」

「あ本当だ単純な計算問題になった」

「ね、簡単でしょ」

「分数の考え方苦手だったんだよね」

「そっか、でも物分かりいいよ。詩織だったらこうはいかないもん」

「詩織ちゃんだったらもう人の話聞かないもんね」

「いやそもそもめんどくさかってやんないと思う」

「そっか」

「そのくせ外で遊ぶときは元気いっぱいだし、もうわからん」

「そういう子なんでしょ」

「それ、もうあきらめてるよね」

「いやアウトドアなんでしょ、そんなの言ったら主人公ちゃんが小学生っぱくないって」

「なんで?」

「ゲームウマいけど外で自分から遊ばないから」

「最近の子供ってそうじゃないの?」


 結構みんなゲームやってるし……詩織以外は。

「そうなのかな?」

「でも運動できるより勉強できるほうが将来には役立つよね」

「運動しててもプロ選手にならなかったら意味あんまないしね」

「そう考えたら詩織ってなんで女子なんだろ」

「え?」

「男のほうが力強いし」


 なんかスポーツ選手の年俸とかって男の方が高いし。そう言う才能があるのなら尚更だ。


「あーそういうこと」

「うん」

「でも女性にもプロ選手はいるよ」

「まあね。でも難しいでしょ」

「同じぐらいでしょ……てかこれも教えてほしいんだけど」

「どれどれ」


 と、私は真由子に勉強をじっくりと教える。


「じゃあそろそろ帰るね」

「もうちょっといてもっと勉強教えてよ」

「いやでももう五時だから、多分お母さん帰ってきてるし」

「むぅ……じゃあ仕方ないか」

「お母さん心配しちゃうしね」

「じゃあまた学校で」

「うん! じゃあ学校で」


 と私は真由子の家を後にした。



「お母さんただいまー」

「お帰り。てかなんでカギが郵便受けにあったの?」

「え? どう言うこと?」

「いや鍵あなたが入れたんじゃないの?」

「……そういうことか」

「え?」

「詩織ー!」


 と、大声で叫んだ。


「詩織ちゃんのせいなの?」

「うん、あいつに強引に外に連れ出されて、そのまま鍵没収されて、友達の家に傷んだ、鍵家にあったのか、詩織ー!」


 と再び叫ぶ。


「それは私のほうからも詩織ちゃんに言っとこうか」

「いやいい、私が直接言う」

「そう、じゃあご飯にしましょうか」

「やったー」

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