第4話 ゲーム



「このゲームむずない?」

「そう?敵の攻撃よけてふむだけじゃん、簡単だよ」


 何が難しいんだろう。


 このゲームは単純だ、敵の様々な攻撃をよけて敵を倒しながらゴールを目指すゲームだ。本当何で詩織には難しいのかわからない。


「いや敵ジャンプするし、踏めない敵もいるじゃん全然簡単じゃないよ」


 その通り、背中にとげがあったりしたりして踏むことのできない敵もいる。だけどそんなものは関係がない。避ければいいのだ。


「いやコツがあるから」


 コツと言っても避けるだけだ。とはいえタイミングが大事なのだが。


「いやそんなのないよ、代わりにやってよ」


 そういって詩織は私にゲーム機に手渡してきた。


「分かった」


 詩織からゲーム機を受け取り、そのまま余裕で敵の攻撃をよけてゴールを目指した。


「いやどうやってんの、相変わらずおかしくない」

「おかしくないと思うけど」


 そう、おかしくない。私は当たり前のことをやっているだけだ。


「プロ目指したら?」

「いや無理だから」


 そんな簡単じゃないし、ゲームを職業にはしたくはない。


「じゃあかけない? 美香がプロになったら1億頂戴」

「なれなかったら?」

「なんもなし」

「不公平じゃん」

「不公平だよ、それが悪いの?」

「もういいよ、詩織がそういう人間だって知ってるから」


 付き合うだけ無駄だ。時間を浪費させたくはない。


「そうゆうこと、よく知ってるね」


 詩織から褒められた……別にそんなところを誇りとかにはしたくは無いのだが。


「だからいいわけじゃないでしょ!」

「こわーい」


 詩織はワザとっぽく怖がる。うざい。


「もういいわ」


 面倒くさい。


「私、再挑戦する」

「あっそ頑張って」

「うん頑張る」


 だが詩織は相変わらず敵に突っ込んで死んでいった。


「なんでよ!」

「詩織私わかったよ」

「何?」

「諦めよう、どうやっても詩織にはゴール無理だ」

「まさかの戦力外通告!?」

「いやその下手さは直せないよ」


「辛辣すぎない?」

「いやいや正当な評価だよ」


 実際詩織はだれがどう見ても下手だった、客観的に見ても「わざとやっているのか!」と言いたくなるほどである。たぶん私の手をもってしても上達させるのは無理である。


「そんなこと言ったら美香だって運動神経ないじゃん」

「それとこれは違う話でしょ!」


 なぜ急に運動の話にした!? 確かに私は運動苦手だけど。


「いや人には得意不得意があるという話がしたいんですよ」

「そうかなぁ?」

「そうだよ」

「いやいやいくら不得意でも敵に単純に突っ込むかな」

「その話はやめてよ!」


 そう言って詩織は口をふさごうとする。


「口をふさごうとしないでよ! てかつまめるお菓子いる?」


 急に思いついた。


「とうとつ! でも欲しい!」

「じゃあ持ってくる」

「うん待ってる」

「じゃあその間そのへたくそな腕前をましにすること」

「うへー」

「なに? そのリアクションは」

「だってーうまくなる気がしないんだもん」

「下手なりに頑張れ」

「うへえ」

「じゃあ取ってくる」


 そして……お菓子を持ってきて……


「どう? うまくなった」


 と言った。


「うまくなるわけないでしょ、もう別のゲームやらせて」

「じゃあカートレースゲームがあるけど」

「じゃあそれで、それだったらうまいかもしれないから」

「本当に?」

「たぶん」

「たぶんじゃあ困るよ。へたくそ見てんのもつらいからさ」

「へたくそ言わないでよ」

「事実じゃん」

「じゃあその事実を変えてやる」

「じゃあやってみてよ」

「分かった」


 と言って、詩織はゲームを手に取る。


「言っとくけど負けたらレート下がるから」

「分かったえっと今のレートは…28872」

「うん」


「いや下げないのむりじゃん」

「そう?」

「確かこれ一〇〇から始まるんでしょ、え? 主人公化け物じゃん」


「そうだよだからレート下げないでよ。私努力したんだから、てか始まるよ」

「ちょっとむりだって」

「やればできる」

「無理」


 詩織の車はどんどんコースアウトしていく、何回も何回もコースに戻るたびどんどんコースアウトするときには草原や砂浜湖の中などに。


「周回遅れしてんじゃん、私のレートがかかってるから落ちないで」

「鬼じゃん、無理だよこれ」

「せめて三周のうち一周でも」

「いやまだ半分も行けてないし無理」

「結局二周遅れじゃん。詩織使えな」

「美香ってひどいよね! じゃあ次やってみてよ」

「うん分かった」


 そして次のレース、私の車はどんどん敵の車を抜かして独走した。


「余裕じゃん」


 と言って私はニカっと詩織に向かって笑って見せた。


「その笑顔むかつく」


 と詩織が言うが、無視無視。


「なんでその角度で落ちないの!?」

「完全に地面から離れてなかったら落ちないっていう仕様だから」

「バグじゃん、チートじゃん」

「禁止されてないってことは使っていいってことでしょ」

「ずーる」

「仕様だし」


 と言ってそのままゴールテープを切る。


「よし一位」

「うますぎてもうわからん」

「なにその感想」


 もっとはっきり言ってよ。


「いやもう勝てないし、尊敬したくないけど尊敬する」

「そう」


 よくわからないけど尊敬されたらしい。


「もうなんか無理、すごすぎて、体動かしたい」

「なんで?」

「ゲーム無理だから勝てそうにないし」

「誰に?」

「美香に」

「目標高すぎない?」


 私にゲームで勝つって……。


「だからあきらめる」

「私に勝てないからってあきらめるの?」

「うん。主人公に勝てなきゃ意味ないし、それだったらスポーツとかで勝負したらいいと思って」

「えっそれってどういう」

「というわけでサッカーしよ」


 は?


「なんで? 今日はゲームするんじゃなかった?」

「というわけで出かけよ」

「え? ちょっと」

「行こ」

 そう言って私の手を詩織につかまれ、そのまま家の外に連れ出させた。


「結局また詩織のわがままに付き合うことになるのか」


 気づいた時にはもう近所の公園だ。しかもなんか詩織サッカーボールもってるし……それ私の家のやつだよね?


「なんか言ったー」

「いや何も、てか鍵」

「鍵これでしょ」


 鍵はしっかりと詩織の手の中に納まっていた。


「そうだけど、帰して?」

「嫌」

「え? まさか」

「そうそのまさかだよ! 私が満足するまで家に帰さないから」

「ちょっと待って! 私の土曜返して」

「やーだよ」


 そう言って詩織は笑う。


「待って!」


 そういうも私の足では詩織に全然追いつけない。どうやらしばらくは家に帰れなさそうだ。


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