第3話 暗き森の中


「はやくー」


 詩織が呼んでいる。向こうには木がたくさん生えていた。その中は木で日の光がさえぎられていて中は暗くなっている。


 正直に言うともう回りが暗くなってきた今、その中に行くのは怖い。一応立ち入り禁止だし。だが詩織がその中に入ってしまっているから、詩織を追って入るしかない。


 その森の中にはたくさん木が生えているから、外から見てもわかることたがほとんど何も見えない。はっきり言って怖い。


「美香遅いー」

「待ってー」


 ちなみに詩織はクラスの女子で三番目に足が速いが、私はクラスで十九番目、つまり詩織よりはるかに足が遅い。


 それどころか、女子の中で一、二を争うレベルだ。そんな中、詩織は私のことを考えずにどんどん先に進んでいく。実際、すぐに詩織からはぐれてしまった。


「はぁはぁ詩織どこ?」


 そして詩織を探す。しかし、周りがほとんど見えない。木を触りながら走っていたが……


「痛!」


 崖から落ちた、多分二メートルもない高さなので命に別状はなさそうだが、足が痛む。


「痛い痛い痛いたい」


 私は痛くて泣きだした。


 この足では痛くて歩けなく、詩織の居場所ら分からない。


 痛みは少しずつ引いていき、私は何とか足を引いて木につかまりながらなら歩けるようになった。


 でも、まだ痛いのは変わらないから痛みを我慢しながら少しずつ少しずつ歩いていく。


 やっぱり無理にでもあの時家に帰っとけばよかったと少しだけ後悔した。


「え、これって」


 大きなカブトムシだ、大きな大きなカブトムシ。


「えい」


 まだ虫取り網を持っていたので、痛いのを我慢して虫取り網をふるった、


「えっ?」



 普通に捕まえられた、思ったより普通に捕まえられて逆にびっくりした。


 そして、すぐに虫取りかごに入れた。詩織があそこまで頑張って探してたものを私はあっさりと捕まえてしまった。これは詩織へのいい手土産になる、今は少しむかつくけど。


 しかし森から出ようと思っても出口が全く見えない、周りを見ても崖だらけでどこからも登れそうには思えない。


「詩織ー? 詩織―? どこー?」


 やはり詩織の返事は聞こえてこない。



 当たりまえだが詩織は頼りにならない、

 自分の力だけで森からなんとか脱出しなければならない。


 足が痛い。歩くのが大変だ。早く家に帰りたい。周りがあまり見えない。いつの間にか目の前にお母さんとお父さんがいる妄想をしてる。不安でたまらない。早く帰りたい。


「詩織―おとーさんーおかーさん助けて」


 不安でもう一歩も動けなくなってしまった。


「詩織についてこなければよかった。なんでこんな目に? 詩織のせい? 無理に逃げてたらよかったじゃん。無理に帰ってたらよかった。家でゲームしていればよかった。なんで? なんで? なんで?」


 愚痴りまくる。実際、半強制的に連れてこられたのだから、今の私には詩織を責め立てる権利があるはずだ。


「詩織……助けて?」


 相変わらず足が痛く、暗くて不安だ。しかし、歩くしかない。一歩ずつ数十センチずつ歩いて行く。


「あ…眠」


 そして私の意識は闇の中に消えていった。




「うーん、あれ、背中痛くない? え? え? え?」


 目が覚めた時驚いた、ふかふかの自分のベットで寝ていたからだ、しかも詩織と一緒に。




 九時間前



「美香、はやくー」


 しかし、美香は来ない、詩織が主人公よりも足が速すぎて追いつけないのだ。しかし、詩織はお構いなく走っていく。


「もういっか」


 そういって詩織は一人で森の奥に入っていく。


「なかなか見つからないなー、もっと奥にあるのかな」


 そうつぶやきどんどん詩織は森の中に入っていく。


「まだ一匹しか見つかってないし、本当はもう二匹ぐらい欲しいけどこの森暗すぎるなあ。明かりを持ってくるんだった」




「虫全然いないし」


 愚痴を吐きまくる。虫が思ったよりも見つからないので、少しイライラしているのだ。


「見つからなかったな、美香いないしもう帰るか、でも一匹かー」


 もっと見つけたかったかのような言い方で呟く。


「帰ろ」


 そして詩織は走って帰って行った。


「お母さんただいまー」


 詩織は元気よくただいまと言った。


「遅くない? 六時までには帰ってきてよ」

「ごめん夢中になっちゃって」

「そう、楽しかった?」

「うん」

「カブトムシ取れたの?」

「うん、一匹だけだけど」

「じゃあごはん準備するわね」


 そう言って沙織は台所に行く。



「詩織―、お茶碗はこんで」


「うん、任せて」


 その瞬間電話が鳴る。


「もしもし」


 沙織は神妙な顔をして電話の音を注意深く聴く。


「え、美香ちゃんまだ帰ってないんですか、少しお待ちください」


 と、電話を置き、すぐに……


「詩織来なさい」


 と、怖い顔で言った。詩織はびくつき、すぐに沙織のもとに走って戻った。


「美香ちゃんをどうしたの?」

「いなくなってたから帰ったと思ってた」

「詩織、美香ちゃんとどこで別れたの?」

「森の前で」

「どういう風に分かれたの」

「森の中に行こうって思って走って行ってそしたらついてきてなくて」

「それっておいていったってこと?」

「たぶん」


 と、詩織はそこでようやく自分のしでかしたことに気づき、少し暗い顔をする。もしかしたら一人で泣いているかもしれない。


「詩織探しに行ってきなさい、すぐ準備するよ、」

「うん!」


 そして、二人は父親に書き置きを残していってから急ぎ支度をして家を出る。



「この森の中?」

「うん」

「ここ立ち入り禁止って言われてるでしょ、なんで詩織入ったの?」

「ごめん」

「ごめんじゃないでしょ」

「もう二度と入らない」


 と、詩織は沙織にはっきりとした声で言った。


「まあじゃあ入りましょうか」



「暗いわね」


 沙織が言う。


「うん」


 詩織は元気なさげに返事をした。


「よくこんな暗い所に入ったわね」

「でもまだ見えないぐらいじゃなかったよ」

「十分暗いじゃない」

「いや、今夜だから暗く見えるだけじゃない?」

「そういう問題じゃなくて、てあれ」

「美香!」


 詩織は崖の方に向かって走る。崖の下に美香がいるのだ。


「詩織!?」

「大丈夫」


 詩織は案の定崖から崩れごけた。


「やっぱりね」


 詩織の母はため息をつく。


「ごめん、でもそんな痛くないから大丈夫」

「そういう問題じゃないでしょ!」


 詩織はそれを無視して……


「えい」


 美香を担ぎ上げた。


「今上がる」

「どうやって上がるの?」

「え? 知らない」

「もう。今から私も降りるから待ってて」

「うん」


 そして三人で上に上がった。


「じゃあ私が美香を背負うわ」


 そう言って詩織は美香を背負う。詩織は力があるので、これくらい朝飯前だ。


「じゃあ帰ろっか」


 と、沙織が詩織に言うが……


「私も美香の家まで美香を送っていい?」

「もちろん」

「でも本当良かった。見つからなかったら私の友達がいなくなるもん。それに私のせいにもなるし……本当生きてて良かった」

「詩織がちゃんと美香ちゃんのこと見てたらこんなことにはならなかったのよ!」

「そんなこと言わないでよー!」


 主人公の家


「疲れた」

「自業自得でしょ、詩織」


 そう言って沙織は詩織の頬を軽くつねる。


「それは悪かったってお母さん」

「本当に反省してるのかなあ?」


 そう沙織は疑問を呈する。そして沙織が詩織を見ると……


「……」


 詩織はベッドの上で、美香の隣に寝ていた。


「寝てる……」


 沙織はそう呟く。


「幸せそうな顔ですね」


 と、美沙が来た。


「あ、美沙さん。今起こしますね」

「あ、別に構わないわよ。寝させていても」

「え? いいんですか?」

「だってこんな幸せそうな顔で二人で寝て今るもの。あ、起こしたほうがいいですか?」

「私は美沙さんがいいのなら別に」

「じゃあお泊りと言う形で」

「わかりました」


 そうして詩織は美香の家に泊まることになった。


 そして現在……


「あれなんで隣に詩織が寝てるの?」

「ん、美香おはよ」

「いや、なんで詩織が寝てんの?」

「疲れたから」

「だからって寝ないでよ!」

「ごめーん」

「ごめーんって、てか昨日森においていったよね、寂しくて泣きそうだったんだから」

「それもごめん、でもおんぶして帰ったから許して」

「どうしよっかな?」

「許さなかったらコチョコチョしてやる」

「やめてよ!」

「じゃあ許して」

「恐喝じゃん」


 詩織は相変わらず我儘だな。これじゃあ詩織のペースに巻き込まれてしまう。昨日不安でどうしようもなかったのに。


「あら二人とも起きたの?」

「うんお母さん、てかなんで詩織がいるの?てか昨日あの後何があったの?」

「沙織さん……詩織のお母さんと、詩織があなたを見つけてくれたの。詩織ちゃん申し訳なさそうに私に謝ってたわ」

「そうだったのか。でもなんで隣で寝てたの?」


「しらん」

「知らんって詩織が知らないわけないでしょ」

「知らないんだモーン」

「知ってる人の言い方じゃん」

「私を疑うのー?」

「疑うわ!」

「本当に疲れて、もう立てなかったの」

「そう」

「詩織ちゃん。ここに美香を寝せた瞬間に寝ちゃったもんだから」

「そうだったんだ」


 心配してたのはそうなのか。置いて行ったことはやっぱりムカつくけど、話を聞くと、頑張ってくれたみたいだし、許すか。


「てか今日も遊びに行こうよー」

「やだ」


 それは別問題。


「なんで?」

「逆になんでいくと思うの?」

「え?」


 詩織は目に見えて動揺する。当たり前だろ。やっぱりな。許さないとこうかな?


「昨日ので疲れたの、もう歩きたくないし、それにまだちょっと足痛いし」

「じゃあ別の何かしよ」

「やだ」

「なんで」

「なんとなく」

「じゃあ遊ぼうよ」

「じゃあゲームとか?」

「えーしょうがないなー!」

「調子乗るな」


 そういって詩織の頭をぶった。


「痛!」


 詩織はそう泣き言を言ったが気にせずゲームの用意をする。

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