黒い灰

 ガレージに着き、自分のパンツァーに乗り込む。

 オペレーターの話では、迎撃に向かった仲間たちは返り討ちにあっているそうだ。

 早急に所属不明のパンツァーを解析する、とオペレーターは言っていたが、それまでに俺が粘れるかどうかだ。

 野暮ったい不格好な人型二脚のパンツァーの起動させ、最大加速で基地の中央へ向かう。

 道中、あの黒いパンツァーに倒されたであろう仲間のパンツァーの残骸が散らばり、黒い煙がくすぶっていた。

 基地の中央は巨大な穴があり、その奥底にKagutsuchiは隔離されている。鋼鉄製のスライド扉が何重にも折り重なって施錠ロックしている。

 だが、その防犯装置セキュリティーは突破されていた。

 スライド扉は開かれ、まるで地獄の底のような暗い穴がぽっかり空いている。


(あの面倒な防犯装置セキュリティーを解除したのかよ!?)


 俺は驚きつつも、穴の奥底へ下降する。

 そして、黒いパンツァーをモニター越しで確認することが出来た。

 台座に突き立てられたKagutsuchiを手にしようとしている相手に、俺はマシンガンを撃って牽制けんせいする。


「それに触るな!!」


 重量級で防御力が高いのか、装甲に傷ひとつ付かない。いや、重量級のパンツァーでも弾痕だんこんぐらいは付く。


(こいつ、本当にパンツァーなのか?)


 そんな疑念を抱きつつ、俺は通信回線を開いて、黒いパンツァーのパイロットであるカイトに質問する。


「Kagutsuchiを奪ってなにをするつもりだ?」

『なにを?』

「それを使って破壊活動を続けるのか!!」


 俺は苛立ちをぶつけるように叫ぶ。


 こいつの目的はなんだ?

 Kagutsuchiを狙う理由は?

 なぜ、隊長を殺した?

 わからない。

 わからないから腹が立つ。


 沈黙が流れるなか、カイトの感情がこもっていない声が響く。


『破壊活動ってなんのことだ?』


 まさかの問い返しに、俺は呆気あっけにとられる。


「……は?」

『そっちが攻撃してくるから、俺は防衛として反撃している。Kagutsuchiを狙うのは、それの特性が危険と判断して回収するためだ』


 カイトの当たり前だと言わんばかりの理由。

 嘘をついている感じではない。

 だが“防衛として反撃した”と言うならば、隊長は――。


「隊長を殺したのは……自分の身を守るために殺したのか?」

『それがおまえの出した答えならそうなるだろうな』


 カイトは冷たい口調で返す。


『質問はもういいか?』


 カイトが操る黒いパンツァーが、Kagutsuchiのつかをつかみ、台座から刀を引き抜く。

 刃から放たれる熱気は、黒いパンツァーの装甲も溶かす……はずだった。


「どういうことだ?」


 黒いパンツァーの装甲はまったく溶けていなかった。

 俺のパンツァーは、“高温危険”という警告音が鳴っているため、距離をとらなければならないのに――。

 そのとき、オペレーターからの通信が入った。


『所属不明のパンツァーの正体がわかった。いや、そもそも“パンツァー”じゃなかった』

「パンツァーじゃない?」

『マティアス博士が“仮想空間メタバース”で開発し、現実世界にてデータ構築された仮想兵器“ヴィルトゥエル”。機体名は“シュヴァルツ・アシェ”。数多の武器を搭載し、その場にいた敵を跡形もなく消し炭にする――通称“黒い灰”だ』


 黒い灰。

 その通り名を聞いた瞬間、操縦桿そうじゅうかんを握る手に汗がにじみ、全身の神経が張り詰めていく。

 俺は気を落ち着かせるため深呼吸し、改めてシュヴァルツ・アシェを見る。

 そのとき、信じられない光景が目の前で起こった。

 シュヴァルツ・アシェが持っていたKagutsuchiが緑色の粒子となってあっという間に消えてしまった。

 一瞬の出来事に驚いている俺に、オペレーターが指示を出してくる。


仮想兵器ヴィルトゥエルとそれを保有するカイト・シュミットは捕縛対象だ。力づくでも捕らえろ』

「捕らえろって、簡単に言うな!!」


 オペレーターに言い返し、俺は自身のパンツァーを駆る。

 両手にマシンガンを持って飛び上がり、空中からシュヴァルツ・アシェに向かって連射する。

 途切れることのない弾丸の雨。しかし、重量二脚でありながら、シュヴァルツ・アシェは最小限の動きだけでかわしていく。

 ジャンプ回避からのブースターによる短距離回避。当たりそうで当たらない絶妙な避け方に、俺はあせりだす。


「くそっ!! ちょこまか動きやがって!!」


 無駄撃ちを減らすため、右肩に装備された四連装ミサイルを放つ。

 四つのミサイルは弧を描きながら、シュヴァルツ・アシェを追尾する。

 シュヴァルツ・アシェはブースターを加速させ、真上へと飛び立つ。

 俺もあとを追って、ブースターを加速させる。

 最大出力での速さだが、シュヴァルツ・アシェと比べたら天と地の差だ。

 穴から抜け出したと同時、シュヴァルツ・アシェを追っていたミサイルが相手に直撃する。

 動きが止まったのを見て、左手に装備したマシンガンからレーザーブレードへ換装。一気に距離を詰め、シュヴァルツ・アシェの四肢を切り落とした。

 さらに相手を蹴り飛ばして、地上へたたきつける。

 身動きが出来ないシュヴァルツ・アシェに、俺はマシンガンの銃口を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る