青年の正体

 青年を保護してから三日がった。

 隊長は日中から夜間まであの青年の尋問を行っている。正確に言えば、青年へ夢中になり過ぎて業務を放棄してしまった。

 仲間たちからは不満の声が次々とあがっている。


『真面目だった隊長が、若い男と朝昼晩しっぽりしている』

『そりゃあ相手は見目が良いけどよ。ハマり過ぎだろ』

『男に手を付けようとした兵士をぶん殴って、怒鳴っているところを見た。あれは異常だ』


 仲間たちの話を聞いた俺は、意を決して隊長に異議を唱えることにした。

 医務室へ向かう途中、仲間のひとりが慌てた様子で走ってくる。


「おい!! おまえ、これから隊長に会うのか!!」

「そうだが?」

「俺も一緒に行く!! あの若い男……世界政府から指名手配されているテロリストだ!!」


 テロリスト。

 信じられない言葉に、俺は困惑する。


「冗談だろ?」

「冗談じゃねえ!! これを見ろ!!」


 仲間から渡された一枚の紙。

 そこにはあの青年の顔写真が大きく載せられていた。


『カイト・シュミット。

 世界を混沌に陥れるテロリスト』


 俺は信じられないとばかり、紙を強く握りしめる。

 そのとき、ドンッ!! となにかが崩れる音とともに、建物が大きく揺れた。直後、警報音が鳴り響き、緊急アナウンスが流れる。


『所属不明のパンツァーが襲撃。至急迎撃せよ。繰り返す。所属不明のパンツァーが――』


 嫌な予感がした俺は、医務室へ走りだす。

 廊下を曲がったその先――医務室がある区画を見て、言葉を失う。

 そこは瓦礫の山となって崩れていた。


「――隊長!!」


 俺は声を張り上げ、隊長を呼ぶ。返事はない。

 隊長の身を案じて、瓦礫の山へ近づく。

 目に入ったのは、片膝を着いた黒い装甲の重量二脚のパンツァー。

 左手には青年――カイトが乗っており、地面に着いた右手の真下は赤黒い水たまりが広がっている。

 目を凝らして水たまりをよく見る。千切れた片腕と隊長が身に付けていたドッグタグが落ちていた。

 無惨な姿となった隊長に、俺は狂ったような叫び声を上げ、拳銃を取りだし、カイトへ向ける。


「おまえがッ……おまえが殺したのか!!」


 俺の問いに、カイトはなにも答えない。

 目は合うも、相手は俺を一瞥いちべつしてから、黒いパンツァーのコックピットへ入っていく。

 カイトを収納した黒いパンツァーはゆっくりと立ち上がり、後部に搭載されたブースターを噴出させ、一気に飛び上がった。

 機体から発生した風力に飛ばされそうになるも、足に力を入れて踏ん張り、黒いパンツァーが飛んでいく方向を視認する。


「基地の中央? 中央は確か……」


 俺はカイトがつぶやいていた“火の刀”という言葉を思いだす。


「“火の刀”……。まさか、奴の狙いは“Kagutsuchi”か!!」


 世界政府が所持する最強のパンツァーに対抗して、企業YAMATOが開発した刀系の近接武器Kagutsuchi。名前の由来は、この島国に伝わる火の神から付けられた。

 特殊合金と溶岩を混ぜ合わせた、常に赤々と燃えている鋼鉄の刃が特徴で、防御力が高い重量級のパンツァーの装甲をいとも簡単に切断してしまう一級品だ。

 だが、問題点としてこの武器を上手く使える操縦士が自軍にはいなかったこと。また、常に燃えている刃の熱気によって、パンツァーの装甲が溶けてしまう欠点があった。

 しかし、ほかの企業に渡したくなかった上層部は、Kagutsuchiを本拠地の中央区画に隔離した。

 それを、あのテロリストの青年が狙っている。

 目的はいまだにわからないが、止めなければ。

 俺は隊長のドッグタグを拾うと、それを首にさげ、自分のパンツァーが格納されているガレージへ走った。

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