不思議な青年
見張りを交代し、俺は遅めの昼食をとるべく、食堂へ向かう。
医務室の横を通り過ぎたとき、不意にあの青年のことが気になった。
軍医は留守で、あの青年がベッドで眠っていた。
ほかに誰もいないことを確認し、ゆっくりと青年に近づく。
ベッドのとなりに立ち、髪に触れようと手を伸ばしたとき――相手が突然パチっと目を開けた。
「うわっ!?」
機械人形のように目を開けた青年に、俺は驚いて声を上げてしまう。
俺の声に気づいたのか、青年は此方へ視線を向けた。
「……だれ?」
感情がまったくこもっていない口調。そもそも表情すら変わっていない。
(こいつ、人間か?)
人間じゃないと疑う俺をよそに、青年は上体を起こし、辺りをきょろきょろと見回す。
「此処、どこだ?」
青年はぽつりとつぶやくと、急に目をつむって、こめかみに人差し指をあてる。
「……小さな島国。かつて“日本”って呼ばれたところか。……YAMATOの本拠地……“火の刀”が保管……思いだした」
青年は独り言をブツブツ言ってから、ベッドに寝転がる。
「“火の刀”を見つけたら教えてくれ」
そう言って、青年は再び眠りにつく。
俺は彼の得体の知れなさが恐ろしくなり、逃げるように医務室から飛び出した。
昼食を食べ終え、仕事を続けるも、あの青年のことが頭から離れない。
得体の知れないところはあるも、見目の良さと
(俺、“そっち”はまったく興味なかったはずだが……)
それでも青年のことを考えてしまう。
髪はサラサラしていそうだ。
きれいな青い瞳をしていた。
抱いたら、どんな風に乱れ、
(……やばい。そこまで妄想しちまった)
自分のおかしさを自覚しつつ、俺はそそくさとお手洗いへ駆け込んだ。
仕事を終え、寄宿舎へ行こうとしていたはずなのに、気づいたら青年がいる医務室の前に来ていた。
(なんで来ちゃったのかなー)
苦笑いしつつ、せめて顔だけでも見ておくか、とドアノブに手をかけたとき、なかから苦しそうに息をする青年の声と、ベッドの軋む音が耳に入ってきた。
(……は?)
状況が読み込めず、立ち尽くしていると、聞き覚えのある声――隊長の声が響いてきた。
「おまえ、ただの男娼じゃないだろ? どっかの企業のスパイか? なんで基地の前に倒れていた?」
隊長は興奮気味な声色で、青年を尋問しているようだ。
青年はなにも答えず、喘ぎ声を発するだけ。
ベッドの軋む音が激しくなる。
俺はドアノブから手を離し、医務室から足早に離れていった。
自分が青年を抱けなかったショックよりも、隊長が自分と同じく青年に惹かれていたことが腹立たしかった。
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