第7話 先輩と僕の逃走劇
「ん、来たな。待っていたぞ」
「お待たせしました先輩。帰りのホームルームが長引いちゃって」
放課後。僕は校門前で先輩と合流する。部活に所属していない生徒や今日部活休みの生徒がゾロゾロと校門から出て行く。
そんな中での待ち合わせだ。一条先輩への視線はかなり多い。普段部活に打ち込んでいる人だから、なおさらこの時間帯にここにいるのが珍しいのだろう。
「な、なんか視線を感じませんか……? 妙にむず痒くて」
「そうか? でもまあここだと少し目立つかもしれないからな。早く行こうか」
先輩に言われて僕らは学校を出発する。先輩とこうして二人で歩くのはかなり新鮮だ。……というか、先輩は電車通学で、僕は自転車通学だからこんな風に一緒に歩いてどこかに行くというのは初めて……意識し始めたら急にドキドキしてきた……!
「君とこうして歩くのは初めての経験だな。しかし、自転車はいいのか?」
「あ……はい、そ、そうですね。自転車は帰りに取りに行こうと思います。ショッピングモールとは逆方向なので」
僕の家は目的地であるショッピングモールとは逆方向。自転車を引くことも考えたが、変にスペースを使うしあってもなくてもどちらでも良かったので学校に置いてきた。
その後、無言の時間が続く。こうして二人で歩く、初めての経験だから慣れないことが多い。特にこういう時の話題を僕らは持ち合わせていないのだ。
「せ……先輩は普段何をしているんですか?」
「ふ、普段か……それは学校生活でのことか? それとも私生活?」
「え……あ、じゃ、じゃあ学校生活で」
「学校生活か……といっても話すようなことは特には」
話題選びを間違えたか……?
普段何をやっているは、あまりにも広すぎる質問で、本当はもう少し絞った話題の方が……。ううむ話を振るのって難しい。
「おそらく君と変わらないさ。ああでも、昨日までは教室で弁当を食べていたかな。休み時間とかは授業の準備や読書……かな」
「先輩らしいですね。けど、急に教室以外で食べ出したら変な噂とか言われませんか?」
「早速クラスメイトからは珍しいねなんてことを言われたよ。変な噂を立てられるとか……そういった心配はしていないさ。私は気にしないからな」
このクールな立ち振る舞いこそ一条先輩の魅力と言えるだろう。周囲に流されることなく、自分の芯が通っている。尊敬できる人だ……。
「き、君はどうなんだ? 普段何をやっている?」
ぎこちなく、少し視線を地面に落としながら先輩はそう聞いてきた。よく見ると顔が少し赤い……。
「それはどっちの意味ですか? 私生活か学校生活か」
「君は意外と意地悪なんだな。……じゃあ、私生活について聞かせてくれないか?」
少し拗ねたような声色でそう口にする一条先輩。確かに意地悪な問いだっただろう。先輩には少し悪いけど、普段見られないような表情を見られたから、こう聞いたかいはあったというものだ。
これ以上意地悪をすると何が飛んでくるかわからないため、真面目に答えよう……。
「基本的にバイトです。掛け持ちしてるので少なくても週四、多い時だと週六くらいですかね」
「前々から思っていたがそれでよく倒れたりしないな。ああ、いや無理が祟って昨日みたいなことになったんだ。やはり部活はそんな頻繁に……」
「あんなことを言った手前、バイトを理由にサボれませんよ。でもこの生活は改めないといけないと思っているので、どうにかしたいと思っていますが」
学校に行って部活をやって、その後にバイトだ。帰宅する時間はいつも夜の十時を過ぎる。遅い時だと十一時前になってしまうことも。
けど学費や生活費のためにあまりバイトを減らしたくないという気持ちはある。これが少し難しいところだ。
「というか、そんなスケジュールで勉強は大丈夫なのか!? 勉学は私たちの本分だぞ?」
「勉強は……まあ。平均より上はキープしています。でもまあ、最初の実力より少し落ちてますけど」
「ダメとは言わないけど、心配だなそれは。バイトの許可だって一定成績以上だろう?」
「はい。そこを落とさないようにするとかなりギリギリですね」
試験前はバイトの数を減らして試験勉強に打ち込んでいるが、元々が僕の学力よりも少し上の高校だ。平均を取るのがやっとでかなり苦労している。
この学校では赤点を取った瞬間、バイトの許可を取り消し。その後二回の試験で赤点がなければ再び許可がもらえるということだ。
「私が教えようか? 剣道と同じで人に教えるのはあまり得意ではないが……」
「い……いやいや先輩にそこまで迷惑をかけられません! お弁当だけでも十分過ぎるほどなのにこれ以上は……!」
いくら先輩が成績優秀、文武両道とはいえそこまでの迷惑をかけられない。流石に自分の中での悪いと思う気持ちの方が大きくなってしまう。
「遠慮することはないと思うのだが……、私もテスト期間中に君と会うという口実ができるわけだし……」
「あ、ごめんなさい。最後なんて言いましたか……?」
最後の方だけ先輩が口をすぼめて小さな声で言うものだからよく聞き取れなかった。先輩は僕の言葉に対してゴホンと咳払いをする。
「なんでもないぞ。さて、着いたなショッピングモール!」
「そ、そうですか……。やっぱりうちの生徒が多い……!」
県内有数と謳うだけあって、ショッピングモールはかなり広い。そんなことは分かりきったことだけど、驚くべきは白金高校の生徒の数だ。
金曜日というのもあるのだろう。制服を着ている生徒が多い。中に入れば様々なお店でうちの生徒を見かける。
「こういうところに来るのはあまりないから、やはり緊張してしまうな」
「先輩、さっきからキョロキョロしてますもんね」
一条先輩は落ち着かない様子で周りを見渡している。様々なお店が立ち、行き交う人々も多い。普段来ない人にとってはついつい視線を誘導されるものが多いだろう。
「妹がいう通り、凄い人だなここは……お店も沢山ある」
「へぇ、妹さんがいられるんですね。一条……一条……そういえば」
今まで何一つとして気にしたことがなかったけど、確か一年に一条っていう生徒がいたような……。
そんな会話をしながら歩いているとだ。先輩がピタリと足を止め、僕の裾を掴む。考え事をしていた僕は思わず前に進もうとして、先輩に引っ張られて止まる。
「ど、どうしたんですか? 先輩」
「あ、いや、こっちの方向はなんか違うみたいだから、エスカレーターに乗らないか?」
「え……でも弁当箱とか売ってそうなお店はこっち……」
僕が前に視線を移すと少し離れた場所。前からうちの女子生徒が何人か近付いてくる。そのうちの一人と目が合う。彼女は少しずつ表情を変えていき、僕らにも聞こえるように大きめの声で言った。
「お、お姉ちゃんが男連れてる……っ!?」
「おい逃げるぞ! 見つかった!!」
「え、あ、ちょ……!! 何がどうなっているんですか!?」
僕は先輩に引っ張られてエスカレーターに乗って別の階へと行くのであった。
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