第19話 迫る刃
「……見つけられたはいいですけど、どうします?」
レグロスは一応、グストルに尋ねた。
答えは分かり切っていたが念のためである。
「……一旦下がる、どう考えても一班――いや調査隊の学生だけで調査できる規模ではない」
ごもっともだ。
レグロスもその決定に不満はない。
洞窟程度ならまだしももう一つの――言うなれば異界ともなればワケが違う。
勇者達にも声をかけ、大人も多数動員して確実に調べるべきだ。
「よし、一時撤退――」
「真っ当な判断だが……」
『ッ!?』
突如として背後に現れた気配、そして殺気。
キィンと甲高い金属音が響き渡る。
声の主と思われる男はフードを深く被っており顔は見えなかった。
だがその突き出した手にはナイフが握られている。
そのナイフはすでに突き出されていた。
が、誰かに突き刺さる前にグストルの大剣がその切っ先を受け止めている。
「フッ!」
そこへすかさずレグロスが駆け抜けてフードの男へ向かい蹴りを放った。
グストルと比べてやや反応は遅れたがそれでもなお早い。
「チッ……」
その蹴りを胴体に受けたフードの男は後ろに吹っ飛ぶ。
だが軽々と空中で体勢を整えて着地した。
にも関わらず、その口元は忌々し気に歪んでいる。
「オイオイ……らしくもネェな。
「……やかましい、お前達は他の奴らを相手しておけ……
気が付けばレグロス達を囲うように地に、木々の上に無数のフードを被った者達がいた。
一人一人が手練れの雰囲気がある上にこちらへの殺気が滲んでいる。
少なくとも友好的相手ということは絶対にない。
ついでに言うならば――。
(あのウツシって呼ばれた男……)
レグロスの視線の先にいるのは蹴り飛ばしたばかりのウツシ――と呼ばれた男。
その男を見ているとレグロスの中に妙な感覚があった。
それがなんなのか、それはレグロス本人にも分からない。
だがこんな感覚を味わうのは生まれて初めてだった。
不快感、と言うべきなのだろうか。
しかしそれもなにか違う気がした。
「何者ですか……あなた達――いや、あなたは」
「答えてやる義理はない……気に食わないお前相手になら尚の事ッ!」
瞬間、ウツシがナイフを構えながらレグロスの懐へと潜り込む。
(速いッ!)
咄嗟に剣の刀身を盾にして受け止めるレグロス。
だがその刺突の勢いは想定を超えて凄まじくレグロスの体を大きく後方へ吹き飛ばした。
「レグロス!」
「こっちは大丈夫です! そちらの対処に集中を!」
グストル達が一瞬こちらへ駆け寄ろうとしているのを見てレグロスは制する。
大丈夫、その言葉は半分が嘘だ。
正直言えばレグロスは目の前のウツシという男を脅威に感じている。
だが今のこの状況で救援は頼めない。
あの数が相手ではグストル達が実力者と言えど気は抜けない。
こちらへの援護で余計に負担をかければ隙が生まれてしまう可能性があった。
だからこそ自力でこの状況を切り抜けるしかない。
「大丈夫、とは……ずいぶん余裕ぶってくれる」
「……実際余裕ですから、折角ですし向こうが終わるまでお喋りでもします?」
「ほざけッ!」
安い挑発。
だがレグロスの狙い通りにウツシは乗っかってくる。
理由は分からないがウツシ側もレグロスになにかを感じている証拠だろう。
殺意が込められて振るわれるナイフ。
レグロスはそれを剣で受け流していく。
(速いだけじゃなく力もかなりのもの……! まともに打ち合ってはいられない!)
そもそもレグロスはスピードを重視しているタイプだ。
腕力は弱いわけではないが特段強いわけでもない。
だがそれを抜きにしても目の前の相手のパワーは相当なものと察せられる。
正面からの打ち合いは圧倒的不利だ。
「……!」
レグロスの動きを見てフードの奥でウツシが目を見開いた。
レグロスは地を駆ける、ただ全速力で。
速度を落とす事なく木々の間を縦横無尽に。
森林はそもそも視界が良くない、その中でこれほどの高速移動をされれば捉えるのは至難の業である。
もっとも全速力でこの地形を駆け抜けられる者はそう多くないだろうが。
「ハアアアッ!」
「チッ……!」
木々に紛れ隙を突いて突撃し剣を振るう。
当然ウツシは凄まじい反応速度で、その斬撃をナイフを使い受け止めるがそんなことはレグロスも想定済みだ。
防がれたなら無理に押さずに後ろへ跳び再び木々の間を駆け抜ける。
「なめるなよ……!」
対しウツシもレグロスほどではないが速度を上げて駆け抜け始めた。
一定の距離を保ちつつ並びながら二つの影が駆け抜ける。
合間合間、森林に響き渡る剣とナイフがぶつかりあう金属音。
だがどちらも未だ明確な傷は一つも負っていない。
それは両者の実力が拮抗しているという証だった。
(やはり強い……そしてかなりの手練れだ、命を狩る事に慣れてる……迷いのない斬撃!)
依頼を受けてターゲットの命を狩る。
そういう仕事を生業としている者達がいる事もレグロスは知っている。
なんなら師を狙ってきた連中を見た事がある。
そんな知識と経験則からウツシはそういう世界の住人だろう、と考える。
だがやはりずっと感じている違和感の詳細だけは分からなかった。
(だが今は……!)
(こいつを潰す……!)
双方、何故ここまで心がザワつくかなど理解出来ていない。
だが今考えている事はまったく同じ。
目の前の障害、それを叩き潰す。
ただそれだけだった。
「
「
ゆえに選ぶ手札は己の必殺。
一撃で目の前に立ち塞がる壁を打破するために。
互いのスピリットが武器に纏わりつきレグロスは剣を光剣に、ウツシはナイフを大鎌へと変貌させる。
「
「
二つの膨大なスピリット。
それがぶつかり合ったその瞬間に轟音を轟かせ巨大な光と爆発が周囲を巻き込み飲み込んだ。
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