第20話 激突
「くっ……!」
閃光と轟音が止むころ、折れた木々の影にレグロスはいた。
腕が微かに震えて痺れがはしっている。
(……まだ僕はスピリットを全解放してはいない、とはいえ)
それでもレグロスのスピリット総量は常人より遥かに上。
そのスピリットを多めに先ほどの一撃に込めた。
だというのに――。
(相殺された……!)
それはすなわち威力が同等であるという証拠だ。
基本、
それでも威力が同等ということは――。
(ウツシという存在のスピリット量は……僕と同程度である可能性がある)
下手したらそれ以上、ということも。
それはできれば考えたくない可能性だが。
というよりも悲観している暇はない、というべきか。
「シッ!」
「とっ!?」
一瞬の殺気の後、隠れていた木々が真っ二つに切り裂かれた。
咄嗟に飛び退いたのは正しい判断だったろう。
案の定、攻撃してきたのはウツシ。
その殺気と圧は先ほどとまるで変わらない。
それどころか強くなってる気さえしてくる。
「考えてる時間はないか……
「逃がさん……
ブーストをかけて高速移動するレグロス。
対してウツシはスピリットを纏って木々の影に姿を消す。
(足音が消えた……気配も)
恐らくそういう類の
気配の察知が出来ないというのはかなり厳しいものがある。
実力が近いのなら尚更だ。
(だったらッ!)
さらにスピリットを進行方向の後ろへ放出する事で従来よりも大きな加速を得るというものだ。
その特性を利用しレグロスが目指すのは
強化された脚で地を蹴りさらにスピリットを下へ噴射する事でレグロスは己の体を遥か上空へと飛ばして見せた。
「これならどうです……!」
構えるは剣を持たない左手。
その手の平に膨大なまでのスピリットを溜め込むと強い光を放ち周囲を照らし出す。
そんな左手の平をゆっくりとレグロスは大地へ向けた。
「
放たれた閃光。
その光は大地を穿ち、その周辺の木々も纏めて吹き飛ばしていく。
当然これで仕留められるとはレグロスも思ってはいない。
「背後が――」
「がら空き、ってわけじゃないんですよ!」
「がッ!?」
音もなく背後に現れたウツシ。
レグロスはそれを予想していたかのように瞬時に体を捻り剣の柄頭をウツシの脇腹に叩き込む。
空中への移動、そこからの砲撃
それと同時にあえて一時だけ背後への意識を薄め隙を晒した。
そしてウツシを誘い込み、この状況を作り上げたのだ。
「ついでにッ!」
「……っ!」
さらに間髪入れず蹴りも叩き込みウツシを地に墜落させたレグロス。
すぐに体勢を整えて着地するがまだ警戒を緩めてはいない。
立ち込める土煙の中、確かな殺気を未だ感じ取れていたからである。
「キサマ……!」
(丈夫な人だ……そこまで大きなダメージにはなってないか)
やはり威力が足りなかっただろうか。
とはいえ大技を叩き込めるほどの隙はウツシにはない。
かといって同じ手は二度も通用しないだろうというのもまた事実。
「さて、どうしたもんですかね」
「殺す……ッ!」
再度地を駆けて距離を詰める二人。
先ほどの砲撃で周囲にある物は吹き飛んだ。
隠れる場所はなく、木々は残っているが利用できるほどの本数でもない。
「地の利を活かせないのならァッ!」
殺気と怒気に満ちた刃が次々とレグロスへ振るわれる。
対しレグロスは正面からのぶつかり合いを避けるように回避行動を軸にして動く。
実力はほぼ同等。
力ならウツシ、速さならレグロス。
どこまでも均衡する二人の実力。
だがこの一時、明確に差が付いてるものが一つだけあった。
「ぐ、がァ……ッ!」
鈍い音と共に苦痛を耐えるようなウツシの声が響く。
その顔面にはレグロスの蹴りが叩き込まれ口の端からは血が流れ出ていた。
そこへすかさずレグロスの追撃が叩き込まれる。
「ふ……ッ!」
スピードを活かして縦横無尽に駆けまわり度々叩き込まれる蹴りと斬撃。
壊人との戦いで味わった敗北。
その後の師による鍛え直し。
それらによって磨きがかかった実力は確かなものとなってウツシへとぶつけられる。
「ギッ……ゥアアアアッ!」
だがそれがウツシの中にある怒りを、不快感を増幅させていった。
実力は拮抗している。
にも関わらずこうも劣勢になっている。
その事実がますます頭に血を上らせてより冷静さを薄れさせていく。
「表層解放」
そこですかさずレグロスは己のスピリットを解放する。
すさまじいまでのスピリットの流れと圧。
肉体への負荷は相変わらずだが冷静を欠いた今のウツシにならば十分決定打になりうる。
「だらァッ!」
スピリットの増加、それの放出。
それにより与えられる肉体面の強化。
レグロスの回し蹴りがウツシの体に叩き込まれ、その肉体は吹っ飛んでいく。
「まだまだッ!
さらに
その速度は通常のそれとは比べ物にならず、レグロスはあっという間に吹っ飛んだウツシに追い付き追い越した。
そこから追撃の蹴りあげで今度はウツシを空高くへと蹴り飛ばす。
「ぐ、お……っ!?」
「これで……お終いです!」
空中なら身動きは取りづらい。
そんな状態に陥ったウツシへとレグロスはそっと手のひらを向けた。
「
スピリット解放状態で放たれる砲撃系の
その圧倒的な白い輝きは恐ろしいほどの破壊力を伴いながら宙を舞うウツシへ迫り――。
「……ぬ、ウアァァッ!」
その身を完全に飲みこみ遥か彼方へと消えていくのだった。
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