第18話 開く歪み

 翌日。

 雲一つない青空が広がる中でレグロス達は本格的な調査を開始する。

 班分けは昨日と同じ。

 警戒を怠らないこと、なにかあるようならすぐさま他の班にも知らせること。

 それら基本的な注意を全員が受けた後、班ごとに別々の行動を行う。


(僕たちの班が調べるエリアは――)


 グストル達が示した班の担当エリア。

 そのエリアはイーデル曰く一番空間の違和感が強い場所、らしい。

 要は一番危険が伴うエリアということだ。

 それを受けてか今回はレグロス達四人に加えて同行していた教職員のトニスも付いてきている。


「そろそろ該当のエリアだ、気を引き締めろ」


「……了解です」


 いよいよ、レグロス達は担当のエリアに足を踏み入れた。

 その瞬間。


「来ます!」


『!』


 イーデルの言葉を聞くと同時に全員が武器を抜く。

 そこへどこからともなく現れ襲撃を仕掛けてくるのは黒き肉体と赤い眼球の怪物。

 ――それは間違いなく小型壊獣の群れだった。


「案の定か、気を抜くなよ」


 グストルはそう言って分厚く大きな大剣を軽々と振り回す。

 その強靭なフィジカルで振り回される圧倒的な圧を放つ刃は一振りで多数の壊獣の両断した。

 驚異的威力、にも関わらず恐ろしいほど速い剣速。

 想像を超えるものに正直驚きはあったがレグロスも腰を低くして構えを取った。


(今回は連携重視……なら!)


 そもそもだが本来レグロスは縦横無尽に動き回って攻撃を行うタイプだ。

 だが今は集団で戦い、尚且つ後方には探知系の担い手であるイーデルもいる。

 となれば陣形を崩すような過度な動きは出来る限り避けるべきだった。

 だからこそこういう場面ではやり方を少し変える。


「ふっ……!」


 最小限のステップ。

 それによる攻撃の回避と同時に即座に放たれる斬撃は次々と壊獣を切り刻んでいく。


「へぇ! 流石にやるねぇ!」


 と、称賛しつつアティファも己の武器を振るって迫りくる壊獣を蹴散らしていく。

 流石というべきか、やはりというべきか、その勢いはどことなくヴァルクに近いものがあった。

 がそれよりも――。


(なんだ、あの武器……)


 アティファの振るってる得物の存在感が凄い。

 言うなればトゲ付きこん棒が一番近い。

 しかも棘の付いてる部分がギュイギュイと音を立てながら回転している。

 当然そんなもので殴られた壊獣たちは悲惨なありさまで地面に転がっていた。


「ほらほらぁ! どうしたのさ、こんなんじゃ物足りないよ!」


 オマケにアティファ本人はちょっと楽しそうである。


(……怖っ)


 思わずそんな感想を抱きつつもレグロスは足を止めない。

 最小限の動きの中で確実に壊獣達を切り裂いていき、数はみるみるうちに減っていた。

 一体一体が小さい個体である分戦闘力はやはり弱めらしい。

 多少の数の差で苦しめられるような面子でもなく、襲撃を仕掛けた壊獣達は哀れにも返り討ちという名の全滅を迎えた。


「ふぅ……」


「壊獣の反応、もうありませーん」


 探知係のイーデルの言葉を受けてそれぞれが戦闘態勢を解く。

 なんてことない相手ではあったがこれで全部、とは到底思えない。

 それはここにいる全員の共通意識だった。


「先生」


「あぁ探ってみるとしよう」


 グストルの言葉を受けて前に出るのはトニスだ。

 この場唯一の教職員である彼はそっと指を一本立てて目を瞑る。


技法術妨害アーツ・インターセプト


 周囲に放たれるトニスのスピリット。

 それは世にも珍しい妨害系の技法術アーツだった。


「……よし、少々不安だったが向こうも効果を広げていた分出力が弱まっているようだな」


 この手の妨害系は出力に差があると効果を成さない事が多い。

 成功した事にトニスが安心しているのも納得である。

 そして効果はすぐに現れた。

 先ほど壊獣達がやってきた方向、その空間には歪み――いや穴と呼ぶべきものがポッカリと空いていた。

 空間の穴、そこへカモフラージュとしてなにかしらの技法術アーツによって蓋をしていたのだろう。

 だがその蓋がトニスの力によって取り払われ――中の光景が見えてくる。


「こいつは……」


「……」


 グストルも驚愕からか言葉を失い、レグロスも無言ながら鋭い目でその光景を見つめていた。

 そこにいる誰もが過度な反応など出来ないほどに、その光景は異質だった。


「――まるで別の……もう一つの世界だね、こりゃ」


 そう、そこにあるのは赤い空と黒い大地、そして無数の建物と禍々しい気配。

 まさしくもう一つの世界、というに相応しい異様な景色が遥か遠くまで広がっていたのだ。

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