第17話 潜むなにか
レグロスが組み込まれた班は四人編成だ。
まずはリーダーであるグストル。
彼に関しては特に語る事はないだろう。
次いで先ほど会話したヴァルクの許嫁――アティファ。
さらにはなんか雰囲気が柔らかい女子生徒。
彼女もまた上級生の一人で名はイーデル・テクスというらしい。
(下級生は僕だけか)
なんともアウェイである。
まぁどのみち味方なのでホームやアウェイなんてあったものではないのだが。
「気を抜くなよ、レグロス」
「はい」
グストルに指摘を受けてレグロスは今一度気を引き締め直した。
色々と考えたり思ったりする事はあるが今は仕事が優先である。
そう思い神経を研ぎ澄まし周囲に目をやった。
(異常はない……とても静かだ――いや)
――静寂。
それは別に悪い事ではない。
調査の上でもこれだけ静かなら異常は見つけやすいし余計な事に意識は削がれない。
だが。
「……先輩方」
「あぁ、
流石というべきか。
レグロスが気づくよりいくらか早くグストル達も気づいていたようだった。
そう、あまりにも静かすぎる。
ここまで静かだと逆に怪しく不気味に思えてしまうのも無理はない話だった。
「イーデル、行けるか?」
「はーい、お任せでーす」
雰囲気だけでなく喋り方までフワフワしてるイーデルはグストルの言葉を受けて杖を構える。
この状況下で指示を出す、それはなにかしら有効な手札を彼女が持っているという証明だ。
「
瞬間にイルティを中心としてスピリットが渦を巻くように広がっていく。
レグロスも旅の中で何度か見た事がある類の探知系技法術。
これが彼女の得意分野らしい。
「どう? イーデル、なんか見つかった?」
「んー……なんか変な感じですー空間があちこち歪んでるみたいな」
アティファの問いに対してのイーデルの答えは確かに妙なものだった。
空間が歪んでいる、それは普通なら起こりえない現象。
一か所だけでなくあちこち、ともなると尚更だろう。
この静寂と合わさってこの場所が普通ではない、という考えがレグロス達の中で確信へと変わりつつあった。
「よし、一旦拠点に戻るぞ。情報を共有した上で今後の調査と対策を考える」
「分かりました」
こうしてグストルの指示に従ってレグロス達は簡易調査を終了。
一旦拠点へと引き返すのだった。
●〇
「――というわけだ、各自警戒をより強めてくれ」
帰還後、全員を集合させてグストルは情報の共有と警告を行った。
反応を見るに大なり小なり、他の班の面々も違和感には気づいていたのだろう。
全員がそれを了承しその日の調査は一旦の終わりを告げた。
「……」
――その夜、腕に自信がある参加生徒達が作ってくれた夕食を口に運びつつレグロスは少し考える。
この近辺に潜む存在、そしてその数について。
壊人である可能性も十分にある、だとしたら――。
(良い経験が積める、とは思ってたけど想像以上に厳しいものになるかもしれないな)
気は抜けない。
なにせ自分は一度壊人に敗北しているのだから。
決意を新たにもう一口、食事を口に運んだその瞬間。
「なーに辛気臭い顔してんの! ほら元気出す!」
「んぐっ!?」
突然現れたフェロウに背中を叩かれた。
思わず喉に詰まりかけて焦ったのは言うまでもない。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ぐっ……なんとか……」
心配して駆け寄って来るティアハを制止してなんとか自分を立て直す。
危うく戦闘と関係ないところで倒れるという醜態を晒すところだった。
――だがそれはそれとしてフェロウの明るさはある種の救いである。
「すいません、色々考え事しちゃって」
「よく分かんないけどさ、たまには馬鹿にならないと疲れて必要なときに頭が回らないよ?」
常に張りつめた糸はすぐに切れてしまう。
だからこそメリハリは大事だ。
いつのまにかそんな当たり前の事も忘れていた自分を少し恥じながらレグロスは肩の力を抜く。
「ですね……今気合い入れすぎても、か」
「あ、それなら私お茶淹れてきますよ? こういう時のために良い茶葉を持ってきてたので」
「あ、ティアハちゃん。ワタシもー!」
じゃれ合うティアハとフェロウを眺めつつレグロスは先ほどよりも柔らかい表情で夜空を見上げた。
自然の多い場所だからだろうか、いつもよりも星が綺麗に見える気がした。
(本番は明日から……気持ちを切り替えて――ッ!?)
だがその時、一瞬だけ感じたものは――間違いなく殺気。
ふと森の方へと目を向けてみたがそこに気配はなく、感じた殺気も既に消え失せていた。
「……今のは一体」
謎の胸騒ぎを感じるレグロス。
そんな彼をよそに夜はふけて――次の日は訪れるのだった。
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