第6話 更待月に焦れて
友人の早苗と会った日、みんなで集まろうという約束をしていた。
学生の頃から、友達のまとめ役だった早苗は、仕事も早く、一週間もしないうちに二人の友人にも連絡をしていた。
既に、会う約束が決まり、あとは日時と場所選びだけになった時点で、玲子のLINEが鳴った。
《早苗です。和美と仁美に連絡しました。二人とも大喜びで何時にしようか盛り上がっています。場所は私の家でホームパーティーみたいにして会うのもいいし、何処かいい場所が在ったら、教えてください。日時は、みんな早く会いたいという事なので、11月の3連休のどこかが良いと思って居ますが、如何ですか?》
う~ん、やっぱ出来る。とLINEを見ながら小さく唸る。玲子とすれば一番予定が組み易いのだから、みんなに合わせればいいと思い《私は一番予定が合わせやすいので、お任せします。1週間前位ならいつでも予定を組めます。》と返しておいた。
即座に,《了解》と帰ってくる。このシンプルさが、早苗らしく玲子が気に入っている所だ。
それから2,3日して《場所は都内のホテルのレストラン。日時11月3日18時から4名予約しました。》と連絡が来た。
なんでも仕事の
《みんなに会えるのを楽しみにしています。》と返信をしながら、どんな服を着て行こうか考えていた。
当日まではまだ10日以上あり、次の休日に着ていく服を探しに、デパートに行くことにした。
休日の朝、遅めの朝食をとり出かける準備をしていた。身支度を済ませ、仕上げにコロンを振り、バックの中の財布を確認し、準備が出来た。
玄関のカギを持ち、携帯をバックにしまった。
綺麗な深い藍色のパンプスを履き、玄関を出ると鍵を閉め、マンションのエレベーターホールに向かった。
最寄り駅まで歩き、駅の改札を抜けホームに立つ。
身長が160cmを少し超す玲子は、何処から見ても良く目立つ。子供の頃から水泳が得意で、今も週一でスポーツクラブのスイミングに行って泳いでいるが、そのせいで、肩が女性のわりにしっかりと張っていた。若い頃はそんな体形が嫌で、一時なぜ水泳をしたのか後悔した事もあったが、今はかえってよかっと思って居る。
年齢とともに、体形が変化するが水泳を続けることで、その体形は維持されているからだ。
ホームに列車が滑り込んできた。ドアのある所が目の前で止まり、降りてくる人がいないことを確認して乗り込む。座席は空いていたが、目的のデパートのある駅にはそれほど時間が掛らないので、吊革につかまり立っていることにした。
水泳で培った体幹は、列車の揺れを上手く流し、しっかりと対応した。
幾つかの駅を通過し、目的地の駅で降りると、きれいな足取りで階段を下りる。
改札を右に出て、目的のデパートに向かう。
その周辺は、若者で込み合っていたが、デパートの中に入りエスカレーターで婦人服売り場に行くと、色々なブランドが並んでいる。そこにはそれほど客は無く、ゆったりと見て回る事が出来た。
幾つかのブランドを見て回り、目星をつけた所から試着をし、今年の流行色の緑を取り入れた、秋らしいブラウスとプリーツスカートを選んだ。もし寒かったら上着も必要と思ったが、出費を考えて手持ちの上着を合わせることにした。
会計を済ませ、更に店内を見ていると下着売り場があった。
店頭に飾ってあるマネキンが、深い赤ワインのようなレースの下着を身に着けている。その前で足を止めると「よろしかったら試着されませんか?」と初老の女性店員が声を掛けてきた。
一目ぼれだ。今日買った秋色のブラウスと多分合うだろうと思い、眺めていると、女性店員は「サイズも今なら全てそろっています。この秋の新作ですよ。」と更に心を揺らせてくる。
結局、試着した。思いのほか出来がよく、すごく体にフィットする。「ヤバイ、もう脱げない」と葛藤したが購入することにした。「久しぶりの買い物だ。少し贅沢だけれど、ご褒美!」と自分に言い聞かせ、満足して帰った。
大きな紙袋を抱え帰宅すると、早速購入した服や下着を袋から出し、タグを切る。
この瞬間がたまらなく好きだ。一点ずつ丁寧にタグを切りながら、幸せな時間を満喫する。早速ベットの上に購入した服や下着を並べ、コーディネートをチェックする。
「やっぱりこのブラウスには、この下着の色は合う」と呟き、自分のセンスに軽い興奮を覚えた。
そして、クローゼットから仕舞って置いたハーフ丈の皮のジャケットを出し、更に合わせる。このジャケットを購入した時に、色を合わせて買ったブーツを、玄関わきのシューズケースから取り出し、合わせた。
「完璧」と自画自賛しながら、すべての服やブーツを仕舞った。
今度の女子会が更に楽しみになった。
そう考えながら、シャワーをして部屋着に着替えた。
夕食の準備に取り掛かる。一人の夕食は、簡単なもので済ませることが多いのだが、今夜は気分が良い。買って置いたアスパラに豚バラを巻いて焼き、サラダを作りワインを1本開けることにした。
トーストしたバケットにテリーヌを塗り、チーズをカットしたものを1プレートに盛り付け、一人の宴が始まった。
価格は安かったが、ボルドー産の赤ワインで、香りが良い。
暫くして、心地いい酔いが体を包み、火照っていた。
寝室に移動し窓を開け、冷えてきた夜気が心地よく入ってくる。時折優しく吹く風はレースのカーテンを揺らし、玲子の髪を撫でるように吹いてくる。
窓から空を見上げると、そこには半分だけ欠けたように見える月が輝いていた。
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