第21話 ララ・オルコット⑤

 フィーネはある家の扉を叩く。

 すると、少し経ってから住人が出てきた。


「こんにちは」


「あ! 先日はどうもありがとうございました」


 出てきたのは、あの日フィーネとぶつかった男だった。


 テオと子猫たちを観察した後、二人は父親を探した。市場を歩き、テオが「パパ!」と指で示したのは、案の定、この男だった。


「お姉ちゃん!」


 あとからテオも顔を出す。


「今日はどうなさったんですか?」


「渡したいものがあります」


 テオと目線が合うように屈むと、後ろに回していた手を前に出す。


「わあ! マフラーだ!」


「そうよ。プレゼント」


「いいの?」


「ええ、もちろん。テオのためのものなんだから」


「ありがとう!」


 テオは受け取ると、嬉しそうにはしゃいでいる。


「ありがとうございます。本当によろしいのですか?」


 父親がフィーネに問う。彼女は立ち上がり、笑顔で答えた。


「はい。少し大きめに作ってありますので、長く、大切に使っていただけますと幸いです」


「分かりました」


 父親はその言葉に少しの違和感を覚えたが、正体までは掴めなかった。


 それでは、とフィーネはオルコット家を去って行った。


 父親は家の扉を閉めると、テオの手からマフラーを取る。そして、ゆっくりと優しく首に巻き始めた。


「テオの誕生日をお祝いしてくれて嬉しいな!」


「うん! でもぼく、お姉ちゃんにたんじょうび教えてないよ。なんで分かったのかなあ」


 父親は手を止めて、テオの顔を見る。


「テオが教えたんじゃないのか?」


「ううん。おなまえしか教えてないよ」


 父親が眉をひそめたその時、マフラーから一枚の紙が落ちた。


「なんだ?」


 父親がその紙を拾う。テオも横から覗いた。


「なんて書いてあるの?」


「ごめんな。パパは読めないんだ」


 父親は、それを棚にしまった。捨てることはできそうになかった。


 

『お誕生日おめでとう。大人になっても使えるように、今度は赤じゃなくて灰色と青で作ってみたよ。気に入ってもらえたかな?』


 テオがこれを読むのは、もう少し先になりそうだ。


 ネコたちは、赤い毛糸の帽子の中で、仲良く寄り添いながら冬を越すだろう。

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