第4話

 「ふうぅ・・・」

 俺は二度目の深いため息を吐いた。あ~タバコ吸いてえ。

冷静に考えると、それほど大きな混乱は無さそうだ。ぶっちゃけ友人と呼べるやつとは長い間連絡も取ってないし、家族も彼女もいないし。心残りなんて・・・一つだけあるか。

 昔、二十歳の頃付き合っていた彼女。

当時看護学生で、俺がバカだったせいで別れた彼女だ。10年ぶりに偶然に地方の病院で再会して・・・何度かデートしてうまくいきそうだったんだよな。「俺とやり直してくれ」と告ろうとした矢先に、病院を転勤されてしまった。携帯も不通で、次の勤務先もわからず、そのまま行方知れずだ。

 今頃何してんだろうな。幸せになってるかな。・・・こうなるんだったら、もう一回だけ会いたかったな。


 俺はボケーっと、厩舎の天井を眺めていた。無意識に胸のポケットを弄る。無いとわかると無性に吸いたくなるのが人情ってもの。あ~タバコ吸いてえ。


 おもむろに俺は立ち上がって、体に付いた藁を叩き落とした。

 「はあぁ~、やめやめ」

今更、過ぎたことをあれこれ考えていてもしょうがない。こうなった以上、ここで生きていくことを考えよう。幸いなことに体は大丈夫みたいで、塩酸漏洩の影響は感じられない。咳き込みそうになるのは獣臭けものしゅうのせいだ。競馬場よりもキツイ。

 さっき聞いた大男の言葉は、俺が聞いたこともない言語だった。人生長く生きてりゃ、世界各国の主要言語なら何語かぐらいは大体わかる。ここは十中八九、異世界なんだろう。うん、きっとそうだ。オッサンになっても燻り続けている俺の厨二病が、そう告げている。昭和のオタクの妄想力は、これぐらいあっさりと受け入れられるさ。これまでの人生、散々現実逃避したくてたまらなかったんだ。実際に現実逃避できた事実を喜ばないでどうする?

 そうと決まれば情報収集だ。一般的なラノベなら神様から何らかの説明があって、何やらチート能力とか与えてくれていても良さそうなものなんだが。俺をここに転移させた神様は、俺に何も言ってはくれない。神様じゃないかもしれんけど。


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