第5話
あらためて厩舎を見渡す。かなりデカくて、100頭ぐらい飼っていても良さそうなほど広い。でもさっきの尾花栗毛が最後だったみたいだ。人っ子一人いやしない。
何かあったんだろうな。一体何が起きたんだ?
壁に耳を当ててみる。言葉も通じない世界だ。できれば誰にも会いたくはない。何やら外が騒がしいな。
そーっと近くの板張りの窓を開けて、恐る恐る外の様子を窺う。たくさんの人が同じ方向へ走っていく。どこかへ向かっているのか?いや時折振り向いているから、逃げ出しているのか?
何かが起きているにしろ、このままここでじっとしていてもしょうがない。動かなければ何も始まらない。
保護メガネを拾い、身だしなみを整えてから、俺は厩舎の裏口を探す。こんな頭のてっぺんからからつま先まで真っ白な「白いモジモジくん」だぞ。不審者以外の何物でもない。異世界だったら標準だろうか?走っていた人を見る限りでは白いモジモジくんに似た人はいなかった。「いるわけねえだろ!」一人ツッコミしてみた。
人々が走っていた表通りは避けて、裏通りから出よう。厩舎の裏口から出てみたが、人はいなかった。ふぅ~やれやれ。
外へ出たついでに、周囲の建物を観察する。土台は石造り、壁と屋根は木造の質素な建物が多い。中には土壁の建物もあるか。屋根の角度が急で、中世っぽいようなそうでもないような。少なくとも現代日本家屋ではない。地面も土がむき出しで、土埃が酷い。表通りは石畳になっているようだが。
とりあえず目指すは人々が走ってくる方向、裏通りをコソコソと物陰に隠れながら進む。忍者にでもなった気分。屋根伝いに走っていけばカッコいいかもしれないが、オッサンの体では落ちるのが関の山だ。
待てよ・・・ひょっとしたら物凄い身体能力とかチートで身に着けているんじゃないか?
試しに垂直飛びをしてみる。
「フン!!」
ドタッ。
・・・オッサンの体のままだった。期待した俺がバカだった。
軽く小一時間ぐらいは裏道を進んだと思う。やばい、息が上がっている。最近まともに運動なんかしてなかったからな。年齢の割に体力はある方だが、中腰で隠れながら動くのはさすがに堪える。あ~腰が痛い。
あらためて少し周囲の状況を確認してみよう。そもそも俺は何が起きているのかわかっていない。単純に人々が逃げていく方向とは逆に進んでいるだけだ。一体何が起きているんだか。
そーっと大通りを覗いてみる。人々の喧騒の声に加えて、打撃音やら爆発音やら。いやな予感しかしない。
路地から見る限り、逃げる人の姿はまばらだ。これなら白いモジモジくんである俺のことなんか、気にはしないだろう。
どれどれ、大通りは思ったよりも広いな。片側2車線の道路並みか?土くれの裏通りとは違って、石畳になっている。走りやすそう・・・か?微妙な凹凸に躓きそうだ。オッサンになってからは小さな段差でもコケそうになるし。それでも裏路地よりは走りやすいか。よし人影もほとんどないし、思い切って大通りに出てみよう。
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