17本目 封印をキャンセルッ! 【Ad.22】
腰から落ちた
尻は痛いし胃腸がまだグルグルする感じがして気持ち悪いが、それより誰かの腕を組み
ぱなえの背中と
(千枝さん……? なにが起き――)
「やったな、ぱなえチャン」
歳かさの男のようなだみ声がして、ぱなえはまたハッとして振り向いた。
手をついているすぐそばに、ネコのような三角の耳がついた紫色の球体がたたずんでいる。感じの悪いとがった目とギザギザの口。ボウリングの玉のような大きさで、フラスコのような
その下についた短い突起のような四本足のすぐそばに、ガラスの破片と、消しゴムや他の魔術の触媒がバラバラと散らばっていた。
どうやらぱなえのポケットの中身が落ち、閉じこめていた小瓶も割れてしまったらしい。それで魔術の解けたワルプルが目の前にいるのはわかるが、「やったな」とはなにか。
ぱなえはおそるおそる、もう一度注意深く千枝を見た。
倒れている彼女のうしろ
(これが、なぜこんなところに……いや、ともかく、これで千枝さんが気絶した? ということは……)
ふたたびワルプルに目を向ける。いかにも悪魔好みの
千枝が気絶した。勇者部員の無力化に成功。
あとは……。
「待てや」
ぱなえは自覚もないくらい自然に、ワルプルの頭の棒に手を伸ばしかけていた。
声をかけられ、その手が止まる。
「てめぇもなんか企んでたのか、ぱなえ?」
すぐうしろに、立っている。
ぱなえは尻もちをついたままゆっくりと振り返り、相手の顔を見あげて息を飲んだ。
前傾姿勢で手をうしろに伸ばしたソーメが、いつになく冷たい顔をしてぱなえを見おろしていた。なぜか服の前がヘソまであいて、意外に深い胸の谷間と下着が見えてしまっている。よりにもよってフロントホックでそれも外れているが、当人は隠そうともしない。
ぱなえは一瞬怖じ気づいた。が、ソーメの妙な姿勢を見て、隠さないのではなく隠せないのではないかと気がついた。それでも一向にかまわなさそうな態度にはやはり
「ち……千枝さんが倒れてるのは、そっちの不注意でしょう!?」
「偶然だ。じゃなきゃてめぇのハットトリックだが?」
「き、き、記憶に、ございませんわっ!」
「てめぇのポッケからワルプルが出てこなかったかよ、ぱなえチャン?」
「で、ですからっ、ブラックサンタからついさっき取り返したんですのよッ、ドサクサにまぎれて!」
必死すぎて余裕がないのがバレバレだ、とぱなえは思ったが、それらしい言いわけをはじき出すので精いっぱいだった。
ワルプルはすぐ手の届く距離にいる。少し身を乗り出せば、いまのソーメになら
(イチかバチか……勝率三分の一の覚悟なら、さっき済ませましたわ。それにいまなら、勝利の先には我が野望が!)
ぱなえの口の端が持ちあがるのに、ソーメは気づいただろうか。
相手の顔色の変化を見届ける前に、ぱなえはふたたびワルプルに向き直ろうとした。が、しかしその前に、かたわらを緑のブーツが走り抜けた。
「あぁッ!?」
「いただきっ!」
息を切らし、大胆に露出した肌を汗で光らせながらも、華麗にワルプルを拾いあげて走り抜ける。
さらに、ぱなえがとっさに消しゴムを拾いあげて魔術の
公園の歩道を逆方向にずっとたどり、そこで待ち構えていたドレス姿の金髪少女がワルプルを受け止める。汗で首に
「しまった!」
「フフン。まだよ!」
青ざめるぱなえに見せつけるように、カデンはワルプルの残りのしっぽをまとめて引き抜いた。
すかさずその四本を、ワルプルの頭の穴へ残らず突き立てる。
「ッでぇッ!? てめっ、このデブッ! やさしくしろ!」
「あぁっ!? 申しわけございませんッ、ワルプル様! ですが、これで……」
「やられたな」
ソーメが
クジが七本に増えた。アタリは七分の一。
しかも、クジを引けるのはクジを
そして、悪幹部のカデンには引く気がない。
「させるかッ!」
叫んだのはテルマだ。
いつの間にかホタテを振りほどいていて、ぱなえとカデンのあいだに出てくる。
「《王命》であるッ。カデンママ、口でくわえてクジを引けぇ!」
「なんでセクハラ気味なのよ!? 当然《
テルマのツノが紫がかる妖しい光を放ちはじめたと同時に、カデンが手を当てた赤い腕章がピカッと光る。するとテルマのツノの光がたちまち消え、カデンはまた肩をゆらした。
「フッフーンッ。《王命》ももう
「まだだ!」
「まだだな」
「へ?」
テルマが叫んだとき、カデンは手のひらの上からも声を聞いた。
しっぽのなくなった紫色の球体。背を向けているそれが、テルマと目を合わせたのにカデンは気づかない。
魔王係と魔王の化身。お互いに見合って、同時に笑みを浮かべ合う。
好敵手を見つけたように、
「――《
テルマが声を張る。その背後で、紫髪の
「なっ……バカがッ」
「《無限遠魔王〝ワルプルギルス〟ッ――限定解除、レベル
カデンの手から飛びだしたワルプルが、爆発したように光を放つ。
光の中で、その姿はムクムクと巨大化していった。
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