13本目 てめぇをキャンセルッ! 【Ad.18】


「タマっ!?」


 いつの間にか近づいてきていたカデンが、やたらに露出度の高いグリーンサンタコスチュームの相棒に気づいて声をあげた。ツノをつかんで引きずってきたテルマをほうり捨て、張り子の半球におしりからハマりこんでいる赤肌の少女に手を差し出す。


「なにしてるのよ、もう。わたしからは逃げなくてもいいじゃない?」

「ゴメンよ、カデン。つい。驚かせるつもりだったから」

「驚かせるって……だから、これ?」


 胸以外が細いタマの体を引き起こしながら、カデンは真っぷたつになったワルプルの着ぐるみを改めて見おろした。外殻がいかくは主に紙と粘土のようだが、竹ひごを編んだらしき半球で中から補強してある。こういったモノづくりで器用なのは知っていたが、いつどのように発揮されるのかはカデンにも予想がついたことがない。


「クリスマスプレゼントだよ。おっきいワルプル。喜ぶと思って」

「あら」


 つないでいた手をきゅっと握り返されて、カデンはもうひとつの手を思わず口に当てた。壊れてしまった作品を見おろすタマは残念そうだが、それ以上にもじもじと気恥ずかしそうにしていた。


「でね、今日は休戦だって聞いて、じゃあまおー部も誘ってカデンのパーティーに行こう、って考えたんだ。けど、まおー部が自分からカデンのうちへ行ったから、急いでこれを取りに戻って、ボクもカデンのとこへ行くところだったんだよ。だから途中で会うとは思ってなくて……」

「ああ。ついって、そういうこと……」

「入れ違いにならなくてよかったな!」


 急に横からテルマが出てきてあっけらかんと言った。タマも顔をあげてうれしそうにうなずく。

 敵同士なのに意気投合するふたり。そもそも休戦だからといって敵勢力を遊びに誘おうなどと考える能天気な相棒をながめ、カデンも思わず頬がゆるむのを感じながら、しかし頭の片隅では首をひねっていた。


(正直なところ、ブラックサンタとやらはタマでもおかしくないって思ってた。でも、この分だと本当に違いそう。じゃあ、いったい誰が……)

「ウホーッ! でっかいワルプルからでっかいプルプルぅー!」

「わーい、プルプルぅーっ。ところでみんな、ここでなにしてるの?」


 とタマが聞いた。手を取り合って踊っていたテルマが首をかしげ、「なにしてたんだー?」と千枝に視線を向ける。勇者モードを解除し、剣もマフラーもない黒髪姿に戻った千枝が「うんー?」とうなる。


「それは、どこから話せばいいんだ……?」

「おめーら、なにしてんだ?」

「うぉぉ!? ソーメ!?」


 ねたテルマのすぐうしろに、いつの間にか薄紫のおかっぱ少女が、パーカーのポケットに両手を入れて立っていた。頭頂部の水玉リボンが目に入ってカデンもギョッとする。カデンとテルマには、さらわれた人物がたったいま逃げてきたようにしか見えない。


「プルプルが増えたぞ!?」

「ずっといるだろ」

「え? 聞いてないのか?」

「ギクゥ!?」


 ソーメの向かいで千枝も首をかしげる。その千枝の背後で、腰が抜けたままのぱなえが妙な顔色をしていた。ここでテルマたちに会うと思っていなかったのは、タマだけではない。


(ま、まずいですわっ! テルマたちに連絡していないのがバレたら……い、いまならまだ、逃げ――)

「ちょうどいいな。ずっと怪しいとは思ってたんだ」

「……!?」


 ぱなえは地面をいずって逃げようとした。が、うつぶせになりかけた時点で凍りついてしまった。


 次になにが起こるかを考えて、悲鳴を押し殺すだけでいっぱいいっぱいになる。だが、「おげっ!?」とのどめあげられる声を出したのは、ぱなえではなかった。


輝磨子きまこ……てめぇ、誰に《王命》使った?」

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