12本目 でかぁぁぁぁいをキャンッッ……たまにはいいか 【Ad.17】
ぱなえは死んだ。
生前に立てていた作戦はこうだ。
ブラックサンタの方針はどうやら各個撃破。つまり魔王部員が単独でいれば現れる。
まず、ぱなえが脳内春らんまんギャル(このワードはぱなえの口から出た)であるかのごとき油断ぶりでひとり歩きをし、ブラックサンタをおびき出す。
これを、隠れて見張っていた千枝が背後から不意打ち。
そこで捕まえられればよし。だが逃がしても構わない。
二度の強襲、
ぱなえの本当の
結局、それらもすべて水の泡。
ころがって突っこんできたものが自分の体より大きいワルプルだと、ぱなえは一瞬見ただけにもかかわらず認識できていた。魔王は封印の
「ぱなえ――――――っ!!」
誰かの
ぱなえは死んだ――そう、ぱなえ自身が断定した。
なにも感じない。なにも聞こえない。死とはそういうものかもしれない、とぱなえは妙に納得していた。魔女がクリスマスに死ぬなんて、皮肉のようだし、ある意味おあつらえ向きのようでもあった。
「まったく」
呆れる声。ええまったく、笑えますわよね、と同意しかけて、誰に? と思いとどまる。
妙な感じだ。温かい風を感じる。暑いくらいだ。
五感がある。体が残っている。
思わず目をあければ、真っ黒だった視界が真っ白になった。
強くまばゆい光。無理に目をこらせば、それは人のかたちをしている。
ぱなえからは見あげるような長身。光をまとってより輝く白い肌。緑のジャンパースカートを着て、腕まくりをきちっとバンドでとめた小ぎれいな制服姿に、やけにすり切れた白いマフラー。
サイドでまとめた長い髪は、炎のようにあざやかな
髪の垂れていないほうの肩には、同じく燃え立つような赤に輝く巨大な刃物を
片刃の大剣。というより、包丁の
その得物は使わず、赤い髪の千枝はあいているほうの手を突き出して、手のひらで巨大なワルプルを止めていた。小さなボールをグローブで受けとめるみたいに。
「ぱなえ、だいじょうぶか?」
「ほえ?」
夕日のような黄金色に輝く瞳を向けられて、ぱなえはようやく自分がアスファルトにへたりこんでいることに気がついた。いくら自分が小柄で千枝が長身といえど見あげすぎているとは感じていた。下半身に力が入らず、膝がふるえている。
(こ、このわたくしが、腰が抜け……っ!? どころか、下着が少し、生ぬるいような……)
「テルマッ!」
千枝の怒鳴り声で、ぱなえもビクッとしてしまう。金色の視線はふたたび巨大ワルプルへ戻り、それが転がってきた坂の上のほうまで伸びていた。
「なんだこれはっ? どこから出したッ?
「はひぃぃっ、んもう走れへんよ、ママだっこぉ……」
「いたたたたっ!? ちょっと、抱きつかないで! 刺さる! 刺さるってば!」
坂の上ではなぜか、魔王係のテルマが
そこから千枝のいるところまで、距離はなんとなく100メートル程度。魔王係が130メートル以内にいれば、勇者部員は『勇者モード』を発動できる。
『勇者モード』――爆発的な身体能力の向上が、その機能のひとつ。
自転車並みの速度で突っ込んできた巨大ワルプルは、直径も千枝の身長並だ。それを千枝は身構えもせず片手で止めた。
やがて停止の
「なっ!? おまえッ……」
「悪幹部!?」
千枝とぱなえが同時に目を丸くする。誰が入っていたかだけではない。半球の中から「やあ」となごやかに手を振ってきた少女のいで立ちに、思わず息を飲んだ。
どう染めているのか独特の緑色で、やたらにハネるクセッ毛とダブルのお団子ヘアは彼女のいつもどおり。なぜか二本だけ黒い触角じみたアホ毛も、校則違反のフープイヤリングもいつもどおり。まつ毛が美しく長いのも、白目が妙に黒っぽいのも、全身の肌がやけに赤いのもいつもどおり。
ただ、その赤くて驚くほどスリムな手足とお腹まわりを
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