第44話 手作り髪留め

☆(糸魚川モナ)サイド☆


アタシの親父が失踪した。

だけど.....アタシはあえて追おうとも思わなかった。

何故かといえばその親父の失踪は「追っては来ないでほしい」という感じだったのと.....あとは手紙が残されていたからだ。

その手紙には親父の直筆でこう書かれていた。


「病院に通院したりする。その為にこの場所を出る。.....今まですまなかった」


という形でだ。

アタシはその手紙を読みながら盛大に溜息を吐いた。

それから手紙をほっぽり出し自室で頭を掻きむしっていると襖が開く。

そしてナナが入って来る。

アタシに向いた。


「おねーちゃん大丈夫?」


という感じで心配げに聞いてくる。

アタシはその姿に「大丈夫だ」と返事をしながらナナの頭を撫でてやった。

それから抱きしめる。

するとナナは恥ずかしそうに「えへへ」と反応した。

アタシはそんな姿を見ながら柔和になる。

そうしているとナナが「お父さん.....帰って来るよね?」と言った。


「.....ああ。必ずな。お前.....親父好きだったもんな」

「.....例え暴力を振るわれてもお父さんはお父さん.....私のかけがえのない」

「本当に良い子だよな。お前は」

「うん。良い子だよ」


誰にでも慈愛を持つそんな良い子に育った。

アタシは母親じゃないが.....ナナをずっと見てきた。

それもずっとだ。

アタシが幼い頃に生まれた。

物心がやっとついた頃に生まれたナナが愛しい。


「ナナ。お菓子食べるか」

「.....え?お菓子.....え?あるの?」

「ああ。まあパッキーだけどな」

「パッキー!?食べたい!」


クッキーにチョコを塗した菓子だ。

アタシはそのパッキーをナナに渡しながらナナを撫でる。

この家は本当に貧乏だからこういうお菓子がなかなか買えない。

実際.....このパッキーですら.....特売品だ。


「おねーちゃんのじゃないの?これ。大丈夫なのかな」

「そんな訳ないだろ。ナナの為に買ったんだ」

「そうなんだ.....ありがとう。おねーちゃん」


実際は量が少ないから私が全部食べる予定だった。

だけどこうしてナナに渡して良かったと思う。

そう考えながらアタシはナナを見る。

するとナナがこう聞いてきた。


「警察署に行ったんだよね?」

「.....そうだな。.....親父の案件でな」

「お父さん.....無事だと良いけどね」

「アタシにとっては知ったこっちゃないけどナナにとっては特別だからな」

「そうだね。おねーちゃん」


実際もうアタシは父離れしている。

だけどナナはまだ幼い部分があるから.....その面を配慮しなければならない。

考えながらアタシはパッキーを貰ってから食べる。

やっぱり美味しいけど.....最近は物価高であまり買えないもんな。


「パッキー全部食べて良いからな」

「そうだね。.....だけど何日にも分けて食べる。.....だっておねーちゃんが買ったものだし」

「それは良いけど湿気るぞ」

「大丈夫だよ。おねーちゃん」


ナナは笑顔になりながらパッキーを食べる。

アタシはそんな姿を見ながら「ナナ」と聞いてみる。

するとナナは「うん」と向いてきた。

そんなナナに聞く。


「.....ナナは今でもお父さん好きか?」

「好きだよ。.....暴力は嫌い」

「そうだな。.....じゃあ頑張ってもらわないとな」

「そうだね!おねーちゃん」


アタシ達はそう言いながら笑み合う。

すると「おねーちゃん」とナナがいきなり何かを取り出した。

それは.....髪留めだ。

うん?


「パッキーのお礼」

「.....それは.....どうした?」

「作った。髪留め」

「紙粘土でか?可愛いな」

「おねーちゃんに着けたげる」

「え?」


そう言いながらナナはアタシの背後に回る。

それから黒くなっている髪の毛に対して髪留めを結ってから着けた。

そしてアタシは鏡の前に立つ。


それは.....何というか。

ナナに似た真面目系女子が居た。

この髪型は似合わないな。


「ありがとう。ナナ。だけどこのポニテは.....似合わないよ。アタシには。真面目すぎる」

「そんな事ないよ。おねーちゃん。お似合い」

「.....うん。.....そうか。.....じゃあ次はナナの番だな」

「私?.....ありがとう。おねーちゃん」


そしてアタシはナナからもう一個髪留めを貰ってからそのままナナの髪の毛を結ってあげた。

するとナナは「わー!可愛い!」と言ってくれた。

2つ編みのお下げにしたのだが。


「ナナ。とても似合うぞ」

「私.....そうだね。似合ってる?」

「もの凄い似合ってる。.....まさにアタシの妹だな」

「そっか。おねーちゃんありがとう」


それからナナはルンルンな感じで足をバタバタさせる。

本当に愛おしい妹だな。

そう考えながらアタシは居ると襖が開く。

そして母さんが顔を見せた。


「あら。ここに居たのね。お。2人とも可愛らしいじゃない?」

「そうかな?アタシは似合わないけどな」

「そんな事ないわよ。.....ナナもモナもとっても.....可愛いわ」

「.....ありがとう。母さん」

「.....モナ」

「なんだ?母さん」


「貴方は生徒会に入る。その事は.....私にとっても大吾にとっても大きいし貴方はとても良い存在になると思うわ。だから頑張ってちょうだい」と母さんは飲み物を渡してきた。

それはジュースである。

フルーツジュースだ。


「でも市販品は高いから自家製だけどね」

「母さん.....果物高いのに」

「これは改めてのお祝いよ。でもまあ値段が上がる前に買った果物を解凍してからジュースにしたわ。.....今は高いから」

「わーい」


母さんを見ながらアタシは苦笑しながらそのままジュースを飲む。

とても甘く美味しい。

何というかそれなりに幸せな気分だった。


そしてアタシは親父の事を.....再認識してから2人を見る。

親父が仮に居ない今。

アタシが長女として.....頑張る。

その事を考えさせられる決意の時間だった。

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