第33話 奪還

☆(田中萌葉)サイド☆


私は実家に帰って来てお父様に接した。

お父様は心から喜んでいるが。

所詮は上辺だけである。

私の中身は見てない。

成績が全てなのだ。


「.....」


部屋に戻ってからスマホを見ると無数の連絡があっていた。

その半分は康太からだった。

17回電話があっている。


そしてその25%ほどは外の知り合いの誰か。

残りの25%は分からない。

私はそのスマホの画面を閉じてまた電源を落とした。


「.....私は何をしているんだろうか」


そんな事を呟きながら私は天井を見上げる。

それから6畳ぐらいある部屋を見渡す。

とても広い部屋だが.....その分頭が痛くなる。

半分以上が参考書だらけだから。

専門書ともいう。

その本を見ながら私はベッドに沈んだ。


「.....やれやれ」


そう呟きながら私はベッドの横の窓から外を見る。

するとノックが聞こえてきた。

「どうぞ」と言うとドアが開いてから家政婦の石丸が入って来た。

石丸美穂(いしまるみほ)。

30代ぐらいの家政婦であるが。


「お嬢様。今からはお勉強のお時間でございます」

「.....少しは休ませるという事はないの」

「旦那様からのお達しでございます」

「.....」


私は額に手を添える。

それから勉強を始めた。

実はIQが私は130を超える。

だけどそんなもの欲しくもない。


私が欲しいのは.....恐らく。

誰かに愛されたい愛だろう。

でも私はもう洗脳された。

だから無駄なのだが。


「.....お嬢様」

「.....何。石丸」

「.....旦那様の意見に反するのですが.....お嬢様は元のお嬢様の世界にお戻りになさった方が宜しいのでは」

「.....元の世界?」

「お嬢様のお仲間達がお待ちではないのでしょうか」


(それは言えるのか?)と思う。

そもそも私はこの状態で最悪な事をしていた。

だから自分への戒めとしてこうして勉強をしている。

私を待っている人なんて居ないだろう。

思いながら私は石丸を見る。


「大丈夫。私を待っている人は誰も居ないから」

「そんな事はございません」

「.....え?」

「私はお待ちしておりました。.....お嬢様は妹の様ですので」

「.....そう言ってくれるの。.....ありがとう。石丸」


「私はお久しぶりにお嬢様を見れて嬉しゅうございます」と石丸は微笑む。

私はその言葉に「そう」とだけ返事をしながら真正面を向く。

石丸はいつもそうだ。

こうして助けてくれるのだ。

思いながら居ると「糸魚川様に届けたお嬢様の自宅のキーでセキュリティロックが解除されましたが.....それで良かったのですか」と言ってくる。


「私はそれで良いと思っている。石丸。届けてくれてありがとう」

「.....お嬢様.....」

「これでお別れ。あの人達とは」

「.....スマホの方にかかってきているのでは?お電話が」

「そうね。.....かかってきている。.....だけど今は出るつもりはない」

「.....何故ですか?」


それは簡単。

私は用済みの人間だから。

だからもうかける必要もない。

あの人達はみんな勝手に幸せになるだろう。

思いながら私は「そういうもの」とだけ答えた。


「.....恐れ入ります。お嬢様。私は満足しません」

「.....え?」

「今から夏川様にお電話して下さい。皆様お待ちですよ。きっと」

「.....しかし.....」


この屋敷中には勉強中は集中の為にジャミングが施されている。

法律違反だけどそんなもの気にしない奴らの手によって。

だから無駄だ。

思っていたのだが石丸は「スマホ用の電波ジャミングは全て内緒で解除しています」と頭を下げた。


「.....石丸。何でそこまで.....」

「お嬢様。知り合う。.....仲間というのはとても大切です。.....奇跡を分かち合うのも大切です。.....夏川様に酷い事をなさったのは聞いています。しかし今の状況では電話の一本ぐらい入れても差し支えないかと」

「.....貴方.....こんな真似をするとクビになるかもしれないよ」

「そうですね。教育方針に従っていません」


そして微笑む石丸。

私はその言葉を受けて溜息を吐いてから康太に電話する。

すると1秒も経たずして電話が通じた。

康太が「もしもし!?」と慌てる感じで出た。


『オイ。何処にいるんだお前は』

「康太。言ったでしょ。私は実家に帰るって」

『お前な。こんな真似をして帰ってもらっても胸糞悪いんだが』

「.....康太。私の最後のお詫びだから.....受け取りなさい。.....それからもう忘れて。私の事は。色々悪かった」

『無茶言うな。お前自身の事は警察も探しているぞ。.....取り合えずそれは.....』

「警察には全て説明する。.....知らせてくれてありがとう。私のせいだから」


『このまま何もかもを終わらせる気か!』と康太は絶叫する。

その言葉に私は静かに電話を切ろうとした。

するといきなり石丸がその電話を奪い取った。


私はその事に慌てて「石丸!?」と言うと石丸は「もしもし。住所ですが〇〇です。一丁目です」と答えた。

そしてこちら側にスマホを投げてくる。

何を言っている!!!!?


『.....そうか。分かった。そこに居るんだな。今直ぐに行ってやるわお前の毒親の元に』

「待って康太!.....来たらどんな目に遭うか」

『こんな胸糞の悪いプレゼントはお前自身から直に受け取らない限りは使えない。.....お前には重々反省してもらいたいがこれとそれは別だ』

「.....」


冷や汗をかく。

そして石丸を見る。

石丸は静かに私を見ていた。

全てをバラしてしまうとは.....。


『アタシも当然行く』

「.....糸魚川.....」

『アンタマジにふざけんなよ。こんな事でこんなもん使えるかっつーの!!!!!このクソッタレが!』

「.....」


私はその言葉を呆然と受けながら目の前を見る。

すると電話が変わった様に康太が『そういう事だ。お前自身は諦めるんだな』と言葉を発した。

そして電話はブチッと切れる。

私は石丸を睨んだ。

石丸は恐れ多い様にその場で静かに頭を下げる。


「.....恐れながらお嬢様。.....私は貴方様には必ず幸せになって欲しいので」

「.....だからって康太達を危険な目に遭わせる様な.....」

「私は彼らならお嬢様をこの場から連れて行ってもらえるものと思っております。.....期待しております」

「石丸.....」

「この様な.....奥様や旦那様の様な場所に居ては駄目です。お嬢様は」

「.....」


私は言葉にスマホを静かに机に置く。

それから顔を上げてから窓から外を見つめる。

康太が来る.....か。

困ったものだなって思う。

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