第31話 佐奈川香奈(さながわかな)
☆(夏川康太)サイド☆
田中。
アイツはアイツらしかったけどこんな形で祝われても.....しょうがない。
そう思いながら眉を顰めて俺達はマンションを後にした。
それから歩いているとモナが「なあ。康太」と聞いてきた。
「.....アタシ達には何もできないのかな」
「残念ながら俺達はクソガキだ。.....大人のやる事に口出しはできないだろ。ましてや赤の他人の家族に手出しなんぞ」
「.....しかし.....」
「モナ。信じるしかない。アイツを。.....田中を」
「そうだな。康太が言うなら.....そうなのかもしれねぇ」
モナは悲しげな顔をしながら言う。
俺はその顔を見ながらため息を吐きながら歩く。
そして商店街を通っていると.....魚屋のおっちゃんが俺に話しかけてきた。
「どうしたよ!しんみりして!」と言う感じでだ。
「ああ。おいちゃん。.....テストでちょっと悪い点を取っただけだ」
「そうかい。.....それは困ったな。ちょっと待ってな」
「.....?」
魚屋のおいちゃんは知り合いだ。
俺が幼い頃からずっとだ。
何というか俺が一人で買い物に来たときも笑顔で接してくれる。
その笑顔を見るのが好きだった。
すると魚屋のおいちゃんは飲み物を持ってきた。
「疲れた時はこれや」
「.....乳酸菌飲料?」
「そうだよ。.....俺は疲れた時に.....おや?」
俺を見ながらモナを見る魚屋のおいちゃん。
それから目を輝かせた。
「お前は男になったんだな!!!!!」という感じでだ。
何を誤解してい.....いや。
誤解じゃないけど。
「そこのお嬢さん!コイツを大切にしてやれよ!」
「は、はあ.....」
「恋人同士なんだろ!?」
「そうっすね.....まあ確かにその通りです」
「やるじゃねぇか!康太!」
それから商店街中に響く様な高笑いを発する魚屋のおいちゃん。
すると周りの人達が「何事?」という感じでやって来た。
みんな知り合いの方々だが。
魚屋のおいちゃんから事情を聞いてから「まあ!?それ本当に!?」と笑顔になって反応する。
10人ぐらいやって来た。
おばちゃんとかおじさんとか。
「まあまあ康太くん早めに知らせてほしかったわ!」
「あらまあべっぴんさんね!あっはっは!」
「これ持っていきな!康太!すっぽん、だよ!」
まあこうなるからこの場所は今は通りたくなかったのだが。
思いながら大量の品物を俺と目を丸くしているモナが受け取る。
それから商店街はお祭り状況になる。
「康太!また何かあったら来てな!」とおいちゃんが言う。
何だか少しだけ.....勇気を貰えた気がした。
「こ、康太。この人達はみんな知り合いなのか?」
「お前の言う通りだ。知り合いだよ。.....まあ何というか昔からの馴染みだな」
「そ、そうか。インパクトが強いな」
「.....そうだな。まあこういうおばちゃんとおじさんだから」
モナは呆気に取られていた。
俺はその姿を見ながら「帰るか」とモナに言う。
するとモナは「そうだな」と笑みを浮かべた。
さっきよりも元気になった様な感じだった。
☆
「こ、康太。.....その」
「.....ん?」
モナを見送っての帰り際になってからモナが俺を見てくる。
「その。付き合ってくれたお礼とか言っちゃなんだけど家に泊まらないか」と言ってく.....え!!!!?
俺は真っ赤になりながら「何を言ってんだ。恥ずかしい」と言う。
モナは「い、良いじゃないか。明日は.....どうせ休みだ」と言葉を放つ。
「確かにそうだが.....恥ずかしい」
「.....だ、ダメか?アイツも喜ぶと思うぞ。.....ナナも」
「.....いや。良いけどさ。.....どうせ両親の帰宅は遅いし.....電話すりゃ何とかなるし.....でも良いのか」
「熱出して以降.....あ、アタシの料理を食べてないだろ?」
「お前って料理.....」
「アタシは一応一通りの家事はできるぞ」と話すモナ。
俺は赤くなりながら.....そのまま頷いた。
それから「分かった。じゃあ泊まるよ」と答える。
「恥ずかしいから今回だけだぞ」と言いながらだが.....その言葉に対して「あら?そんな事言わないで」と声がした。
モナの背後を見るとニコニコしている粉雪さんが.....。
「私は何度でも泊まってもらってオーケーよ。一線を越えなければ大丈夫じゃないかしら。今は」
「母さん.....恥ずかしいって」
「まあまあ若いわねぇ」
「そんなつもりで呼んだ訳じゃねぇ!?」
俺はそのままモナの家に泊まる事になった。
それから田中萌葉の事を考える。
だけど今は.....どうしようもないか。
本当になす術がない。
「康太くん」
「.....はい?」
「.....悩んでいるのかしら。.....田中さんの事に関して」
「仮にもアイツは同級生だったので。.....そして浮気されましたが恋人で知り合いだったので」
「そっか。.....田中さんの事.....多少は心配しているのね」
心配.....じゃないな。
そこに無くて不安なだけだ。
思いながら俺は苦笑する。
それから「違います」と粉雪さんに答えた。
「.....アイツの事は.....信じています。俺は.....。だから心配とかしてないです」
「.....そうなのね」
「そうですね。.....でも多少なりとでもどうにかなればって思います」
「.....」
考え込む粉雪さん。
それから「佐奈川香奈(さながわかな)。.....高校の同級生よ。あくまでどうにかできたら良いんだけどね」と言ってくる。
(それは誰だ?)と目をパチクリしてからハッとする。
「.....まさか.....」
「そのまさかね。.....今は佐奈川は旧姓になっている。今の姓は田中香奈(たなかかな)になっているみたいだけど」
「.....」
俺は顎に手を添える。
それから眉を顰めてから粉雪さんを見る。
粉雪さんは複雑な顔をしていた。
その田中香奈とかいう奴は.....田中.....萌葉の母親か。
箱庭みたいな世界だな本当に。
こんなに近場でこんなに変動するなんて.....。
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