第二章 廻る地球
田中萌葉
第26話 新たなる夜明け
☆(田中萌葉)サイド☆
先に言っておくが私は譲った訳じゃない。
決して負けを認めた訳でもない。
だけど私は.....今までの事を考えて糸魚川に譲るという選択を下した。
それから壇上で糸魚川と康太が笑顔になるその姿を見てから少しだけ鼻息を出した。
そしてミスコンが終わった時。
直ぐに帰ろうとした時。
一目散にこっちに来る糸魚川を見つけた。
糸魚川は私を見ながら眉を顰めていた。
だけど直ぐに切り替えながら私を見てくる。
「これで良かったのか」と聞いてくる。
「.....私は決して負けを認めた訳でもない。.....だけど今回は貴方に譲る。それは私が将来、不利になるのを抑える為。だから決してアンタの為じゃない」
「.....田中.....」
「だから約束しなさい。.....幸せにして。康太を」
「.....」
糸魚川は複雑な顔をする。
私はその顔を見てからこっちに来る康太を見る。
だけど私は待つ事なく「じゃ」と踵を返した。
それからさっさと帰ろうとする.....が。
すると糸魚川が私の肩を掴んだ。
「.....田中」
「.....何」
「お前がそういう態度なら。.....アタシはお前に接しやすくなる。打ち上げをやるんだけどもし良かったら来ないか」
「.....バカじゃないの。行く訳ないでしょ」
私はそう言いながらそのまま帰った。
だけど何だか知らないけどスカッとした。
正直言って.....将来は安泰しないかもだけど。
それでも何か良い感じの.....それも。
違った感じがした。
☆(夏川康太)サイド☆
アイツは.....田中は。
そのまま帰ってしまった。
俺はお礼も言いそびれ.....その姿を見送る。
眉を顰めながら背中を見た。
するといきなり群衆に囲まれた。
「糸魚川先輩.....サインください!」
「夏川先輩!めっちゃ格好良かったっす!」
そんな感じで囲まれる。
何か告白大会というか俺達の大会になった気がする。
みんな盛り上がっていたからまあ良いのだが。
思いながら俺は群衆を見ているとモナが慌てた。
「康太は忙しい。アタシもな。.....だから今はよしてくれ」
「そうだな。今は忙しいしな。みんな。また後でな」
群衆をかき分けながら俺達は後片付けに奔走しようとした。
するとモナが俺の手を握ってきた。
それから微笑みを浮かべる。
コイツ。
「えへへ。恋人ってこんな感じなんだな」
「いや。恥ずかしいって。みんな見ているしな」
「良いから。アタシは恥ずかしくないぞ」
「お前が恥ずかしくなくても俺が恥ずいわ!!!!?」
そして俺は大慌てになる。
だがその事にモナは寄り添って来た。
それから肩を寄せてくる。
まるで遠慮がなくなってきたな。
「.....なあ。モナ」
「なんだ。康太」
「.....幸せか。お前は」
「当たり前だ。クソ幸せに決まっている。.....年をとって声が枯れても一緒に居てくれ」
「お前な.....そんなに未来の話をしてどうするんだ」
「えへへ。アタシは構わない。お前ならこ、子供を作っても良いって思っている」
よせやい。
俺は真っ赤になりながらモナを見る。
それから盛大に溜息を吐いていると腕章を着けた須藤がやって来た。
そして拍手をしてくる。
「おめでとうございます。お二人さん」
「ああ。ありがとうな。お前には世話になった」
「.....いえいえ。こんなに素晴らしいものが見れるって思いませんでした。今回の大会は大成功だと思います」
「そうか?」
「はい。糸魚川先輩」
それから「素晴らしい写真が幾つも撮れました。これ校内新聞にします」とニコッとする須藤。
俺達は顔を見合わせて真っ赤になる。
だけどまあ須藤だから信頼はできると思うけど恥ずかしいな。
そんな事を考えながら見ていると須藤が「ところで」と言葉を発した。
「先程の女性はどこに.....」
「.....ああ。田中か。.....アイツはそういうの嫌いなんだ」
「あ、そうなんですね。残念です。少しだけでもお話を聞きたかったんですけど」
「.....代わりに今度聞いておくよ。お前の代わりに」
「あ。.....その際は言って下さい。是非ともに」
それから見ていると須藤は「じゃあ失礼します。今から記事を考えなくちゃいけませんので」と満面の笑顔で去って行った。
俺達はそれに手を振ってから見送る。
そして俺はモナを見た。
モナはニコッとしながら俺に寄り添う。
「.....康太は幸せか?」
「俺は.....お前が居てくれる事が大切な事だって思うから.....幸せだよ」
「そうか。良かった」
「アタシは本気でこの先頑張る」と俺を見据えてくる。
それから「一軒家を建てて.....一緒に暮らすのが夢だ。お前とな」とニコニコしながら俺を見てくる。
俺は真っ赤になりながら頬を掻きつつ「お前の夢は壮大だよな」と苦笑い。
するとモナは「壮大じゃないとな。夢じゃないだろ?」と笑顔になる。
「アタシは脳内お花畑のバカだからその分頑張りたいんだ」
「.....バカじゃないよ。お前は。.....十分、魅力的な女の子だ」
「アタシはバカだって。そして間抜けだしな。まだ足りないよ」
「.....そうかよ」
そして俺はまた苦笑する。
それから「お前がそう言うならそういう事にしておくよ。だけどお前は頑張っている。もう十分な」と言いながらパイプ椅子を片付ける。
すると背後から「モナ」と声がした。
「.....あ。夏川くんじゃない?」
「ナナちゃん.....とお母さんか?」
「そうだな。アタシの母親の......糸魚川粉雪(いといがわこゆき)だ」
「そうなんだな。.....初めまして粉雪さん。.....その.....」
「うんうん。知ってるよ。モナの彼氏キュンだよね?あはは。もしくは彼キュンだよね?」
え?彼氏キュン.....?
俺は目をパチクリしながら居るとナナちゃんが「あはは。まあまあ。お久しぶりです!おにーさん!」と抱きついて来た。
俺はそれを受け止めながら「元気だったか?ナナちゃん」と聞いてみる。
するとナナちゃんは「お陰様で」と俺に向いてピースサインをする。
「その.....粉雪さんは.....お身体の方は.....」
「あら。そんな事まで知っているのかしら?バリバリ元気よ」
「そうですか.....心配です」
「.....うーん。これは.....モナ。良い男性ね」
「自慢の彼氏だからな!当然だ!」
「そうねぇ。.....私の.....旦那さんもこれだけ良い人だったら良かったんだけどね」と苦笑いを浮かべながら首を傾ける粉雪さん。
俺はその言葉に複雑になった。
するとモナが「アイツはもう死んだ存在だしな」と満面の笑顔になる。
そして「考えても無駄だよ。あのクソ野郎は」と苦笑する。
「大丈夫だ。アタシは幸せになる。.....だって康太が良い人だからな」
「お母さんも全力で応援するわよ。こうなった以上はね」
「.....ありがとう。母さん」
そして俺達は暫く談笑する。
そうして暫くしてから俺はパイプ椅子を片付けたり衣装を片したりした。
今日は.....何とも充実した日だな。
そう思いながら俺は横で荷物を運んでもらって笑顔になっているモナを見た。
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