第4話 100円
☆(夏川康太)サイド☆
何かとんでもないものを見てしまった気がする。
思いながら俺は空を見上げた。
アイツは.....糸魚川は大丈夫だろうか。
何か胸がザワザワしている。
正直言ってしっくりこない感じだ。
「なんて俺が心配しても無駄か。アイツの家庭事情はアイツにしか分からないな」
そんな事を呟きながら俺は歩き始めた。
そして自宅に帰り着く頃になった時。
俺の背後から声がしてきた。
それは聞き覚えのある声だった。
確かナナちゃん。
「あ、あの。おにーさん」
「えっと.....ナナちゃんだよね。どうしたの?」
「その。絶対に返すので電車賃を貸してくれませんか」
「.....電車賃.....どうしたの?」
「少しだけ電車賃が足りなくて。おにーさんを追いかけて来ました」
「待てそうなると糸魚川はこの事は知っているのか?探しているんじゃ」と言葉を発するとぎくっという感じになったナナちゃん。
青ざめる。
やっぱりか無断で来たなこの子。
駅から多分走って来たんだ。
俺は「電車賃ならいくらでも払うけど。まず糸魚川に連絡しないと.....何番だ?糸魚川は」と聞いてみる。
するとナナちゃんは「えっと」と困惑した。
俺はその顔を膝を曲げて見る。
「糸魚川は知っているのか?」
「.....ごめんなさい。嘘を吐いて黙ってここまで来ました」
「なら糸魚川は相当に心配しているぞ。戻らないと。ほら。お金」
「.....」
「どうした?」
「もし良かったらおにーさん。一緒に来てくれませんか。駅まで」と涙声になるナナちゃん。
俺は「いや。行くつもりだよ。君だけで帰らせはしない」と言う。
するとナナちゃんは明るくなってから「わ、分かりました」と話した。
「嘘を吐いた事を謝らないとね。ナナちゃん」
「.....」
「.....ナナちゃん?」
「おにーさんがお父さんだったら良かったなって思って。ごめんなさい」
「.....」
そしてナナちゃんは歩き出す。
俺は家の玄関に荷物を置いてからそのまま駆け出す。
それからナナちゃんの背中を追った。
そうしてから海原駅まで向かうと.....糸魚川が駅員と話していた。
やはり探している様だ。
「糸魚川」
「あ!ナナ.....コラどこ行って.....え!?何でお前が!?」
「ななちゃんを責めないでくれるか。悪いと思っているみたいだから」
「何をしに行ったんだよお前は!!!!!ナナ!」
「ご、ごめんなさい。おにーさんにお金を借りに行ったんです」
「は!?ば、馬鹿な事を.....心配したんだぞ!!!!!」
それからななちゃんを固く抱き締める糸魚川。
俺はその姿を見ながら「糸魚川。金がないのか」と聞いてみる。
すると糸魚川は「100円だけ足りなかったんだ」と恥ずかしそうに答えた。
その姿を見ながら「大丈夫なのか?」と聞いた。
糸魚川は首を振る。
「正直大丈夫とか無い。だけどナナが心配だ。あのクズ野郎のところじゃあな」
「.....母親は受け入れてくれるのか?」
「ああ。受け入れてくれるみたいだ。だからその為に電車を使わないといけなかった」
「.....そうか。何かあったら直ぐに電話しろ。電話番号は?メールアドレスは?」
「ば、バッカ!?そんなの教えるかよ!?」
困惑して汗を噴き出して真っ赤になる糸魚川。
俺は真剣な顔のまま糸魚川を見つめた。
それからこう告げた。
「冗談を言っている場合か?」とだ。
あくまで逃げる気か。
「俺はお前が心配だ」
「なぁ!?し、心配だと!?」
「何をしでかすか分からないから心配だ。だから教えろ」
「.....え、え、えっと.....」
糸魚川は紙に全て書いた。
それからそれを見てから登録する俺。
糸魚川はずっと赤くなりながらモジモジしていた
「何だコイツ」とは思ったが口には出さず。
そのまま紙を仕舞った。
「糸魚川。何かあったら絶対に言え。お前の行動が予想外すぎるから」
「待て。何でそんなに心配してくれるんだ。アタシなんかを」
「.....俺は過保護すぎるだけなのかもしれないけどな。.....幼い頃に知り合いの女子を失っている。病気でな。それでお前には過保護になっているんだ」
「夏川.....」
「だから教えろ。何かあったら」
「わ、分かった!そ、そうだな!?見つめるな!」
糸魚川の肩を掴んで揺さぶって見つめていると赤くなった糸魚川にそう言われた。
俺はその肩を触るのを止めてから糸魚川を改札口から見送った。
そんな改札口の方から「電車賃は必ず今度返す。また学校でな」と言葉を糸魚川に投げかけられた。
俺はその言葉に「気をつけてな」と答える。
「おにーさん。ありがとう!」
「ああ。ナナちゃんも気をつけてな」
そして糸魚川姉妹を見送る。
俺はみえなくなるまで手を振っていた。
それから踵を返してからそのまま家に帰った。
そうしてから糸魚川にメッセージを送る。
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