うかうかしてられない

(※久遠視点)


 なんだかんだ、やっぱり時間が経つのは早いと思う。

 一時はどうなることかと思ったけど、無事に生徒会選挙が終わった。

 結果は見事奏ちゃんが当選し、引継ぎとかそこら辺が終わったら正式に生徒会長になるみたい。

 他の生徒会メンバーは奏ちゃんと先生達で決めるみたいだけど……誰になるんだろ? 奏ちゃんがボソッと言ってたのは、今回候補してくれた人を副会長にしたいって話だけど。

 なんでも、この前の件でしっかり話し合った時「いい人でしたから」って思ったんだって。

 まぁ、今回は演説者さんが暴走した結果というか。勝たせたくてやったことで、本位じゃなかったというか……私はモヤモヤするけど、奏ちゃんがそれなら別にいいんだけどね。

 とりあえず、おめでとう! って感じで!


『楪さん、おめでとう!』

『俺、やっぱり楪さんが当選すると思ってたよ!』

『ねぇ、今度当選祝いで皆でパーティーしない!?』

「ふふっ、皆様ありがとうございます」


 などなど。全校集会の演説や結果発表が終わってからというもの、奏ちゃんの周りは賑やかなもの。

 予想はしてたけど、まさかこんな騒ぎになるなんて……休憩時間になる度に、こんな感じ。流石に陰口を言っていたであろう人は気まずくて声をかけられていないみたい。何人か謝ってはいたけど、奏ちゃんは相変わらずいつものにっこり笑顔を浮かべるだけで、お許しもいただけなかったそう。意外と、奏ちゃんは根に持つタイプだからね。

 いつになったら、いつもみたいに落ち着いてお話ができるのやら。といっても、今日は一緒に遊ぶからいいんだけども!


「ねぇ、久遠。昨日の『beautiful』読んだ?」


 囲まれる奏ちゃんを他所に、離れた場所の席で座っているゆかちゃんが唐突に話題を振ってくる。

 手には、この前発売された『beautiful』が開かれていた。


「もちもち!」

「今回のyuki、マジで光ってたよね。サマーコーデって特集で色んなモデルいたけど、やっぱりyukiが一番だった」


 目を光らせるゆかちゃんを見て、私は思わず視線を逸らした。

 そこにいるのは、榊原くんと一緒に話している竜胆くんの姿があって───


(ふふっ、あのyukiが竜胆くんだって知ったら、ゆかちゃんはどんな反応するんだろ)


 流石に失望はしないと思うけど、すっごく驚くと思うな。

 だって、まさかyukiが実は男の子で同じクラスの人だとは思わないもん……ま、まぁ? 私は初めて話した直後ぐらいから気づいたけどね! どやぁ!


「ねぇ、なんでドヤ顔してるの?」


 失敬、一人でドヤってたみたいだ。


「え、えーっとね……うんっ、流石はyukiだなぁってドヤってた!」

「そんなの今更でしょ」


 おかしな子、と。ゆかちゃんが生温かい目を向けてくる。

 なんか妹感覚が強い気がするけど、なんでドヤっていたか言えないので甘んじて受け入れよう。

 だって、まだ気づいていないみたいだし。

 そう、問題は───


「ふぅ……疲れました」


 ゆかちゃんと話していると奏ちゃんが戻ってきた。

 どうやら、あの集団から解放されたみたい。


「奏ちゃん、すっごい人気だねぇ〜」

「とはいえ、一時いっときだけですよ」

「って言いながら、何度も告白されてきたクセに」

「それを言ったら奏さんこそ───あら、由香里さん。そちらはもしかして……」

「あぁ、この前の『beautiful』」


 そう言って、ゆかちゃんはyukiが写っているページを開いて奏ちゃんに見せる。

 すると───


「ッ!?」


 奏ちゃんは唐突に顔を真っ赤にさせた。


「……なに? 奏も急に変な反応するよね」

「へっ!? い、いえっ……何も変な反応はしていませんよ!?」


 いや、もう動揺している時点で様子がおかしいのは明らかなんだけどね。

 今までyukiの話を振ったら嬉しそうに乗ってくるのに、今ではなんだもん。


「あ、竜胆くん」

「〜〜〜ッ!?」


 その証拠に、彼の名前を出しただけで顔が凄い具合いに真っ赤かになっちゃった。


(そう、私の問題は奏ちゃんなんだし……!)


 きっと……いや、多分高確率で奏ちゃんは竜胆くんがyukiだと気づいてる。

 そして、この前の一件で竜胆くんを明らかに意識してる……ッ!

 た、焚き付けたから? いや、元気になってほしかったからしたことだし、後悔してないから焚き付けたって言い方はよくないんだろうけど───


(う、うかうかしてられない……)


 奏ちゃんは多分、誰かを好きになったことがないから初めての気持ちに戸惑っているだけ。

 興味の対象から恋の対象に変わったと自覚したら、どうなるか分かんない。

 だって、奏ちゃんは魅力的すぎる女の子だから。

 もしかしたら負けちゃうかも……って不安がどうしても拭えない。


(頑張れ、私……!)


 恋は戦争。ごめんけど、正々堂々な勝負なんてできない。

 

 彼のことは、彼から拒絶されるまで諦めたくない!


(だから───)


 だから、私は今日勝負する。

 この想いの丈を、彼に言おうと思う。

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