ゴールデンウィークのお誘い
あれから一週間後。
放課後の空いた時間に桜坂と一緒にビラの作成に勤しみ、ゴールデンウィークをあと数日に控えたこの頃、ようやく生徒会選挙のお知らせが学校中に配られた。
生徒会選挙は、ゴールデンウィークが終わってすぐ。演説期間が長期休み明けに一週間ほど行われ、そのあとに生徒会長を決めていく。
新年度が始まって一発目のイベントということもあってか、あちらこちらで生徒会選挙の話題が挙がっていた。
それが学校に吹く新しい風の前兆のように思えて、不思議と新鮮さを感じる。
『今年は立候補者が二名か……』
『当然、俺は楪さんに投票する!』
『っていうか、どう見ても楪さんの勝ち確なような気がするんだよなぁ。幾田さんもいるし』
などなど。
昼休憩に入ってすぐさまそんな話がチラホラと聞こえてくる。
流石は学校で人気者の三大美少女様。名前が挙がっただけですでに何票も確定させてしまっているみたいだ。
「皆、生徒会選挙の話ばっかりだよね」
弁当を広げようとしていた時、目の前に榊原が座ってくる。
「まぁ、そういう時期だしな。特に今回は三大美少女様が立候補して演説だ」
「そうやって言ってみると、随分と豪勢なネームだよね」
お知らせで発表されたが、今回の立候補者は二名。
一人は楪だが、もう一人は名前も知らない他クラスの女の子。応援演説者も知らない人だったし、ここに楪本人とその応援演説者である幾田の名前が挙がれば、皆が「生徒会長は楪で決まり」と言う気持ちも分かる。
「かといって、油断は禁物だ。あくまで「誰に生徒会長をやってほしいか」を決めるための選挙だからな、蓋を開けてみるまでは分からない」
「珍しいね、竜胆。去年は興味ない感じだったけど」
「……少し首突っ込んでるからなぁ。流石に肩入れぐらいはしたくなる」
「初めは「関わりたくない」って言ってたクセにいつの間に」
「シャラップ」
生徒会の仕事もあるのに放課後残ってまで準備する楪。
友達の期待に応えたいと、人前に立つことが苦手であるにもかかわらず演説者になった幾田。
自分にできることはないかと協力しようとする桜坂。
三人のことを知ってしまったからこそ、応援したくもなってしまう。選挙なんて、所詮は受け取り側がどう思っているかで決まるようなもんだしな、気持ちの肩入れぐらいは普通だ。
「りんど~くんっ!」
そんなことを話していると、耳に響く明るい声が届いた。
顔を向けると、弁当箱を片手にやって来る桜坂……と、楪や幾田の姿が。
「お弁当一緒に食べようぜ♪」
「……あれか、お前は常に俺に注目を浴びせたいS気質でもあるのか?」
「ごめん、なんの話?」
ただでさえ、目立つ桜坂に加えて楪から幾田まで。
これでは、クラス中の視線を搔き集めようとしているようなものだ。その証拠に、先程から「なんで幾田さんまで!?」「くそぅ……竜胆ばっかり!」「俺だって楪と一緒にご飯食べてぇ!」などなど聞こえてくるし、鋭い視線が刺さって痛い。可愛く首を傾げても許さない。
「ごめん、もしかして迷惑だった?」
弁当箱を持って来た幾田が申し訳なさそうに口にする。
その姿を見て、俺は小さく溜め息をついた。
「ここで追い返したら俺が次の日からクズ扱いされるし、嫌ってわけじゃないから別に構わねぇよ。まぁ、榊原がいいならっていう前提だが」
「ん? 僕は別に大丈夫だけど」
「……だそうだ、ようこそ日陰者の集いへ」
「悪いわね、ありがと」
そう言って、三人がそれぞれ近くの空いた机を移動させて引っ付ける。
壁際に対面するように俺達が座っていたから、反対側に三つ上手いこと寄せていって台形が完成した。
そして、俺の横に来たのは―――
「……さり気なく奏ちゃんにポジション取られたんだけど」
「ふふっ、竜胆さんの横は早い者勝ちですよ」
勝者である楪だった。
……いや、勝者ってなんだよ。別に在庫一つのセール品じゃあるまいし。
「っていうか、桜坂はともかく……なんで楪達まで一緒に飯食べたいって話になったんだ? 珍しい」
「久遠が行きたがっていたし、せっかくだったらってなったの」
「私も竜胆さん達と一緒にご飯を食べたいです。クラスメイトとの交流を図るのも、学校生活では必要なことでしょう?」
だったら、他にもっと視線を向けたらいいだろうに。
三人と一緒に食べたい人間なんて、異性同性問わずクラスにいっぱいいるぞ。
「あとはそうですね……竜胆さんにお話があったからです」
「話?」
「はい、そろそろゴールデンウィークに入ってしまうので」
はて、ゴールデンウィークと俺になんの関係があるというのだろうか? 撮影と榊原と遊ぶ予定がちゃんとある俺に。
「今度、奏ちゃんのお家で生徒会選挙の準備とか演説練習とかするんだよ」
「へぇー、凄い勤勉だな」
まさか、ゴールデンウィークという貴重な休みを使って練習するなんて。
真面目というかなんというか、三人の本気具合いに思わず感嘆としてしまう。
「ありがとうございます。つきましては、竜胆さんも―――」
「俺、部外者じゃね!?」
「部外者ですが、可能であれば久遠さんのお手伝いをしていただきたいのです」
まぁ、確かに桜坂にビラの作り方を教えるとは言ったが……そこに俺を組み込むとはいかがなものだろうか? 部外者なのに。
「もちろん、こちらはお願いですので難しかったり気乗りしなければ構いません」
「私からもお願いっ!」
桜坂と楪がそれぞれ頭を下げてくる。
撮影も榊原の予定もあるが、日程が重ならなければ行けないことはない。
ただ、貴重な休みを返上してまでって考えると二つ返事で首が縦に振れなかった。
その時、弁当を広げ始めた榊原が口を開く。
「いいんじゃない? やってあげなよ、竜胆」
「おいコラ、完全なる部外者」
「まぁまぁ、三人共頑張ってるわけだしさ。なんだったら僕も一緒に手伝うし」
榊原の言葉を受けて、少しだけ考え込む。
そして———
「……分かった、予定が被らなかったら参加する」
「ありがとっ、竜胆くん!」
「ありがとうございます、竜胆さん」
「まぁ、手伝うって言ったしな。発言の責任ぐらいは取らせてもらう」
ただ、休日返上とは思わなかったが。
……いや、休日を使わないと確かに桜坂と一緒だとビラも完成しないだろうし、よく考えればちょうどいいのかもしれない。
「竜胆って、なんだかんだ優しいんだね。奏の荷物も運んでくれたし、今日まで放課後に久遠の手伝いもしてくれるし」
「竜胆はツンデレさんだからね」
「あら、ツンデレさんなのか」
「そうそう」
「てめぇら聞こえてんだよ」
幾田と榊原のからかうような表情が普通に腹が立つ……って、やめろそんな生暖かい目を向けるなコラ。
「ふふっ、では日程はまた後程。本当にありがとうございます」
横では、お淑やかに笑う楪の姿。
こうして、俺のゴールデンウィークの予定が一つ増えてしまったのであった。
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