役に立ちたい
「そういえば、今度私の友達が生徒会選挙に参加するんだよね」
ボウリングが終わり、近くのファミレスで昼食を取ることに。
それぞれメニューから注文し、ドリンクバーから飲み物を片手に席に戻ると、桜坂が唐突にそのようなことを口にした。
「へぇー、そうなんですね」
一応、その話は幾田から聞いた。
なんでも、楪が生徒会選挙に参加し、自分がその応援演説をするのだとか。
その話を聞いて思い出したが、毎年生徒会選挙は四月の下旬———ゴールデンウィークが始まる前ぐらいの時だ。
そろそろ三年生が代替わりをし、新入生と三学年を含めて投票が行われる。
「それで、今二人共ちょっぴり忙しいの」
その割には、この前楪が我が家に来て我が家に誘ってきたような気がするが……まぁ、合間を縫ってきたのだろう。
放課後には生徒会の仕事があり、そのあとは準備。こうして聞いているだけでも、忙しいのはよく理解できる。
「だから寂しいのですか?」
「まぁ、それもあるんだけどね。なんか二人のお手伝いでもできないかなーって」
少し意外だ。
てっきり「遊べなくて寂しい!」などと言うと思っていたのだが、まさかお手伝い方面だったとは。
なんだかんだ、一年生から仲がよかった三人の絆はかなり深いらしい。
俺なんて、中学からの付き合いである榊原が生徒会選挙に参加したとしても「ふぁいと♪」と、この格好で言うだけしかしないぞ。
「お手伝い、ですか」
「うんうん」
「なるほど、となれば応援演説は幾田さんがするので別の方じゃないと……」
「へ?」
桜坂が俺の呟きに首を傾げる。
「い、いえっ! この前お会いした時にそのような話をされていたので!」
だが、この思わず出てしまった言葉はカバーができるものだ。
何せ、この前yukiとして出会ったことは教室で言っていたし、実際問題幾田本人から相談されたのだから。
大丈夫、どんな追及がきたとしても華麗に躱せる!
「(私、まだ由香里ちゃんと友達って言ってないんだけどなぁ)」
「ん?」
「(でも、そういうおっちょこちょいなところもなんだか可愛いっ♪)」
「桜坂さん?」
「ううん、なんでもないっ!」
こちらもボソッと何かを呟いたような気がするのだが……まぁ、いいだろう。
問題は、桜坂がどうやって二人の手伝いができるかどうかだ。
「生徒会選挙って、応援演説だけをするものなのですか? たとえば、校内で演説をするとか」
「一応、去年の生徒会長さん達はそんなことしてたなぁ。ほら、この時期に生徒会選挙をするから、一年生ってそもそも先輩のことなんか知らないし」
「なるほど」
言われてみれば、そんなこともしていたような気がする。
新入生は、今の生徒会がどんなことをしているのかなどほとんど知らない。だからこそ、生徒会選挙で「今はこれをしていて」「これからはこうしていきたい」などを語るのだ。
その頃はまったく生徒会選挙など興味がなく、関心を寄せていなかったからあまり意識はしていなかったのだが。
「では、そちらで手伝ってみるのはいかがでしょう? 演説するだけでなく、ビラなどを配った方がまだ印象に残るかと」
「ハッ! その手があった!」
演説だけだと、去年の俺みたいにスルーしてしまう可能性がある。
とはいえ、ビラも受け取ってもらったあとに目を通さないことも考えられるのだが、物があるとないのとでは記憶への残り方が違う。
他の候補者は手間がかかってそのようなことはしないのかもしれないが、逆にそれが目立つということもある。
(まぁ、三大美少女様が演説しただけで必然的に注目はされるだろうがな)
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花な楪。
女性からの人気も凄まじい、クールビューティーな幾田。
派手さから滲み出る愛嬌と可愛らしさを持つ桜坂。
この三人が前に出れば、学校の注目は一段と凄まじいものになるだろう。有名人の詰め合わせセット……同じ候補者が可哀想に思えてくる。
「ありがと、yukiさんっ! これで私も二人の役に立てそう!」
そう言って、身を乗り出しながら俺の手を握ってくる桜坂。
その表情からはありありと感謝と嬉しさが伝わってきて、近づいてきた端麗な顔と合わさって思わず心臓が高鳴ってしまった。
(……こういうところ、桜坂のいいところなんだよな)
いくら友達のためとはいえ、誰かのことを想って行動に移せる人間は数少ない。
それが本心で、心の底から想っているのであればなおさら。
頼りない部分があったり、振り回して周りを巻き込んでしまう癖こそあるものの、このような性格は嫌いにはなれない。
だからこそ、今のようにyukiとして一緒に出掛けてしまうぐらいには嫌いになれないのだろう。
「桜坂さんって、結構モテますよね」
「ふぇっ!? ど、どどどどどどどどうしたの急に!?」
「いえ、こんなにも性格がよかったら男性にはかなり好かれるのでは? と思っただけです」
実際問題、あまり異性と交流していなくても彼女は好かれているのだが。
とはいえ、このような一面を見せれば誰だってすぐ桜坂のことが好きになるだろう。
「(……好かれたいのは、一人だけだもん)」
「はい?」
「べ、別にそんなことはないよって言ったの!」
桜坂は顔を赤くして席に戻る。
何故か慌ててストローを口につけるその姿は、今日の格好と相合わさって可愛く思えてきた。
(ほんと、三大美少女様のこの顔は滅多に見られんだろうなぁ)
どことなく湧き上がる優越感を覚えながら俺は一口ジュースを含んだ。
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