三大美少女と女装モデル
三大美少女の憧れ
うちの学校には、三大美少女と呼ばれる有名な生徒がいる。
「ねぇ、この前の『beautiful』見た?」
「あ、うん。ちゃんと買って見たよ」
「確か昨日発売……でしたよね?」
それぞれ同性をも羨むほど容姿が整っており、聞くところによるとほぼ毎日告白が絶えないという。
その三人は一年の時からとても仲がよく、一緒にいる姿をかなりの頻度で見かけていた。
なんていうか、三大美少女と呼ばれるぐらい人気が故に、集まった時の光景は額縁をつけて飾ってしまいたいほどである。
そして今日も今日とて、この教室で談笑している姿を見受けた。
「私さー、今月の『beautiful』に載ってあったバッグ買いたいんだけど、ちょっとお金厳しいんだよねー」
一人は
着崩した制服に、かなり凝っているであろうハーフアップ。オシャレを意識しているのか、化粧は薄く素材のよさを引き出したナチュラルメイク。
くりりとした瞳と潤んだ桜色の唇が視線を引き、綺麗に引き締まっている肢体。
一見、ギャルっぽさがかなり目立つ女の子だが、持ち前の明るさと距離感の詰め方故に周囲からの人気はとても高い。
「久遠、毎回お金ないとか言ってない?」
もう一人は
軽くウェーブがかかった黒のセミロングに、端麗な顔立ち。
歳故にあどけなさこそ残っているものの、少し高い身長とクールっぽい雰囲気が大人びた印象を与えている。
整った鼻梁は正に芸術品。どういう遺伝子を組み込めばあのような美しさが出るのか常々疑問である。
「でしたら、私が出しましょうか? 父からお小遣いはたくさんいただいておりますので」
最後の一人は、
あの楪グループの社長令嬢であり、品行方正を体現したかのような女の子だ。
こちらは可愛さと美しさをバランスよく組み合わせたような容姿をしている。ただ皆と違うのは、纏う雰囲気だろう。
お淑やかで上品で。お姫様と表現してもなんら違和感を持たないほど、所作がしっかりしている。
聞けば成績もかなり優秀で生徒会にも所属しており、周囲からは次期生徒会長と期待されているのだとか。
「うっそ、マジで!?」
「こら、あんまり久遠を調子づかせない」
「ふふっ、冗談ですよ」
このクラスに集まっているのは仲がいいこともあるが、去年とは違って三人共同じクラスだから。
そのため、このクラスの人間は妬み嫉みの対象だ。
高校二年生になってから毎日のようにこの教室で談笑している姿を目撃しており、一部ではこの光景を拝みたいが故にわざわざ用もないのに足を運んでくる生徒もいるのだとか。
現に、今この瞬間でさえ知らない生徒の姿がかなり見受けられる……そんなに三人の光景が見たいのだろうか?
『あー……今日もお三方が可愛すぎる』
『マジでこのクラスの人間が羨ましい……』
『そろそろこのクラスで友達作らないと、毎回来て不審者だと思われてしまうぜ』
そんなに見たいらしい。
「ほんと、人気者だな……あいつらも」
そして、俺———
目の保養ではあるのだが、こうして毎日見ているとやはり見慣れてしまう。
それでも自然と視線を向けてしまうのだから、やはり美少女というのは恐ろしい。
まぁ、三大美少女は見ているだけで充分だ。クラスどころか学校でのカースト上位陣……俺みたいな日陰者が相手にできる人間ではない。
現に、同じクラスだというのに桜坂と話したのは業務連絡の数回だけである。
(それに、あいつら少し苦手なんだよなぁ)
だからこそ、余計に話すことはない。
恐らく、これからも何か用事でもなければたわいもない会話なんてすることはないだろう。
「本当だよね」
ふとその時、俺の視界を遮るように一人の男が目の前へやって来た。
同性でも思わず唸ってしまうほどのイケメンフェイス。表現するなら、柔らかい雰囲気を纏った爽やかボーイ。
―――
中学からの友人であり、悔しいことに異性から大人気の野郎である。
「今日も一学年の生徒がうちの教室にいるしね」
「もはやあいつらの人気は学年を越えたか」
「まぁ、入学して二週間も経てば彼女らの噂ぐらいは聞いちゃうんじゃない?」
確かに、これだけ連日芸能人の来訪よろしく人混みができていれば否が応でも広がっていく。
興味本位で見てハマってしまった……なんて生徒もいるのだろう。
「っていうか、こんなに騒がれて気にならないのかね、三大美少女様方は?」
「いや、あれに至ってはもう慣れたって感じじゃないかな? 一年生の時からそうだったみたいだし」
「そんなもんかね?」
「そんなもんじゃない? それに関しては竜胆の方がよく分かってると思うけど」
「……ノーコメントで」
いけない、脳裏に触れてほしくないワードが浮かび上がってきた。
「でもさ、やっぱり『beautiful』って言えばやっぱりあの子じゃない!?」
その時、桜坂の高い声が強く教室に響き渡った。
「うん、今回も本当に可愛かった……何着てもめっちゃ似合ってる」
「あの身長が羨ましいです。大人びていると言いますか、妙な色っぽさがあると言いますか」
そして、その話は最近彼女達からよく耳にするもの。
クールでお淑やかさが売りな幾田も楪も同じように興奮しているのか、徐々に声のボリュームが上がっている。
「憧れるよね~……スタイルもよくて顔もいいし。それに、あのかっこよさは反則だよ! 男には興味ないけど、yukiには抱き締められたい……あの時からyukiさん大好き」
「そういえば、昔助けられたことがあるって言ってたよね……って、久遠涎が出てる」
「おっと、これは失礼」
視界の隅で何人かの男が膝から崩れ落ちた。
きっと、桜坂を狙っていた男子が「興味ない」という新事実にショックを受けたのだろう。
「でも、二人もyukiのこと好きでしょ?」
「私は人前に出るの恥ずかしいから、同い歳でこうして堂々としている姿を見ると尊敬するかな」
「そうですね……私はやはり、この自由な感じが憧れます。写真からでも滲み出る爽快さが、生き生きとしているように見えるので……」
三大美少女の話は同じ教室にいれば嫌でも耳に届く。
だからからか……俺は思わず机に突っ伏してしまった。
それを見て、正面に座っている榊原がからかうようにして笑う。
「おや、顔が真っ赤だよ?」
「……顎骨砕いたあとに足関節をちぎっていいか?」
「からかった代償がデカい」
的確に榊原への殺意は膨らんでいくものの、俺の火照った顔は収まる気配を見せない。
一方で、三大美少女の話題も止まることはなく───
「やっぱり、yukiさんは憧れるよねー!」
……ほんと、勘弁してほしい。
せめて、違う教室で話してくれればいいのに、どうしてこの教室でその話題を出すのだろうか?
「はぁ……一回でいいから会って話してみたいなぁ。あの時のお礼も言えてないし、あと一緒に遊んでほしいデートしてほしい!」
「あはは……まぁ、私らには無理だよね。あ、でも奏だったら家のツテとかで会えるんじゃない?」
「ふふっ、それは流石にyukiに迷惑がかかりますよ。ですが、私も一度はお会いしたいものです」
───あの三大美少女が憧れている存在。
女性雑誌『beautiful』の専属モデルであり、二年前に突如現れた若き新星。
SNSでのフォロワーは五十万人を越え、あの人気モデル兼、タレントkaedeの妹。
今やyukiというモデルは若者を中心に絶大なる人気を誇っている。
そして、その正体は───
「どう? あの三大美少女に憧れられているご感想は?」
「……女装した俺じゃなかったら、素直に嬉しかっただろうな」
そう、今三大美少女に憧れられている存在こそ───女装した俺、なのである。
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