学校で有名な三大美少女の憧れは、人気モデルの"女装"した俺らしい

楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】

プロローグ

 桜が舞い散り、心地よい風が吹き始めた四月の頃。

 まだ高校に入って新しい環境に慣れ始めた時、私———桜坂久遠さくらざか くおんは彼女と出会った。


「女の子をこんな大勢で囲んで、お前らは何がしたいわけ?」


 その時、私は男の人に囲まれていたの。

 ただ洋服を買いにショッピングモールに出掛けていただけなのに「一緒に遊ばない?」って。

 もちろん、彼女だけでなく男の人達ですら初対面だった。

 自分の容姿が優れているのは今までの経験で自覚してしまったし、男の子からそういう目で見られているのは分かっている。

 でも、そもそも私は男の子にあまり興味がない。

 恋愛はしてみたいなーとは思っていたけど、

 けど、まさかこんな大人数でナンパされるなんて思っていなくて。

 自分より歳上そうだったから、この時の私はどうすればいいか分からなかった。


 けど、彼女は割って入ってくれた。

 自分だって女の子だっていうのに。


『お、君も可愛いじゃん。もしかして、一緒に遊びたかったの?』

『っていうか、この子あれじゃね? kaedeのインスタでバズった子』

『マジじゃん! 生で見ると、こんなクールビューティーだったなんてな!』


 男の人は彼女が現れた瞬間、往来だっていうのに更に興奮していた。

 私も、実は彼女が目の前に現れた時に薄々思っていた。


 ―――人気モデルkaedeの妹。


 今まで妹がいるなんて話は聞いたことがなかったけど、この前の年末にkaedeが写真を投稿した。

 一緒に写っていたのは、初めて明かした妹。とてもかっこよくて、可愛くて。奔放で明るいkaedeとは違ってクールな王子様。

 そして、そんな女の子が目の前に―――


「いや、ほんとマジで。そういう目で見ないでくれる? 俺が言うのもなんだが、結構キツいんだわ」

『君、自分のこと『俺』って言うんだ!』

『やめた方がいいよー? あんまり男受けしないし』

「男受けなんか狙ってないし……特にこんな大人数で女の子を怖がらせるお前らからなんて」


 彼女は私を庇うように前へ立ってくれた。

 臆することなく、堂々と。こんなに大勢に囲まれて私は怖かったのに、彼女は前を向いている。

 艶やかな黒の長髪越しに見える私よりも大きい背中。

 それを見ていると、妙に安心感が襲ってくる。


『君さぁ……あんまりナメた口きいてると、どうなっても知らないよ?』


 そう言って、男の一人が彼女の腕を掴んだ。

 私達よりも一回り大きい腕。掴まれたら、きっと私は何もできない。

 でも、彼女は変わらず臆することなく———


「力でどうにかしようって? それじゃ、余計に女の子なんて相手にしないでしょ」

『ばッ!?』


 男の顎を掴んで、そのまま引き寄せた。


「だからいい加減、この子を怖がらせんじゃねぇよ」


 ……その言葉は、後ろで聞いていた私の胸に響くものだった。


(……ぁ)


 正直、私はこれから恋愛なんてしないと思っていた。

 女友達とずっと遊んで、それなりに充実した毎日を送るんだと勝手に未来を描いていたような気がする。

 男の子と話していても、あんまりそういう感情にはならなくて。

 もし誰かと付き合うにしても、多分その場の流れとかなんかだと思っていて。


 でも、まさか。

 ———


「あー、ゆうくんここにいたー!」


 そんな時、またしても新しい声がこの輪の中に入ってきた。

 艶やかな長髪を靡かせ、愛くるしさと大人びた雰囲気を纏う美人さん。

 その人こそ、よくSNSやテレビとかで観ている人で……あの、モデルのkaedeさんだった。


『おい、流石にkaedeが出てきたらマズいって』

『何かあったら面倒だし!』

『チッ!』


 kaedeさんが現れた瞬間、男の人達はそそくさと立ち去っていった。

 きっと、知名度が高いkaedeさんに何かしたら面倒なことになると思ったんだ。

 だからこそ、この怖かった状況も一気に霧散して……明るさだけが空気を彩った。


「あれ? もしかして私お邪魔だった?」

「ごめん、ちょっとトラウマ級のことを味わったから助かった以外の言葉が見当たらないありがとう」

「じゃあ、ナンパ!? ついにあのゆうくんが!? きゃー♡」

「ついにってなんだよ!? 一生味わう予定なかったよクソ元凶!」


 二人のやり取りを、私はボーっと眺めていた。

 突然、モデルのkaedeさんが現れて。

 突然、この状況から解放されて。

 いや、それよりも―――


「とりあえず、大丈夫だった?」


 目の前の彼女に、目が離せずにいた。


「ゆうくん、それよりお姉ちゃんはお腹が空きました」

「姉さんが勝手にどっかに行ったんだろ……」


 私が何かを発する前に、kaedeさんと彼女は先を歩いて行ってしまった。

 お礼も、何も言えなかった。言う隙すらもなかった。

 私が困っている時に現れて、颯爽と何事もなかったように立ち去っていってしまった。


 でも―――


(ゆう、さん……かぁ)


 この時、私の顔は真っ赤に染まっていた。

 心臓の音も、かなりうるさかった気がする。



 そして、そのあとすぐ……彼女がモデルのyukiとして活躍し始めた。



 ♦♦♦



「ねぇ、ゆうくん……今日のその格好、超可愛いんだけど」

「まったくをもって嬉しくない」

「えー、めちゃくちゃ似合ってるのに!」

「うるさいなぁ、にそのセリフって嬉しかねぇんだよ!」



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